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消費税の増税が迫りつつあります。財政赤字が巨額だから、緊縮財政で財政赤字を減らさないと大変だ、という事のようです。

そこで本稿は、「財政が破綻する可能性を少しでも小さくするため、緊縮財政を急がなければならない」という論者への反論として、日本の財政は破綻しないのだ、という事を示したいと思います。

ちなみに、筆者といえども「財政赤字は全く気にしなくて良い」というつもりはありません。政府の借金が膨れ上がると、インフレを招くリスクが高まるかも知れませんから。しかし、財政赤字を放置するリスクと増税によって景気が悪化してしまうリスクとを比較すると、このタイミングでの増税は危険だと考えているわけです。

■日銀に紙幣を刷らせるのは禁じ手だとしよう
MMTという理論が最近話題となっています。大胆に要約すれば「日銀に紙幣を刷らせれば、政府が借金を返せない事は無いのだから、政府の借金は気にしなくて良い」というものです。

たしかに、日銀に紙幣を刷らせれば政府の借金は返せるので、政府が破産する事はありません。つまり財政は破綻しないのです。

本稿は以上です……という事でも良いのですが、さすがにそれでは超インフレを招きかねませんから、本稿では日銀に紙幣を刷らせるのは禁じ手という事にしておきましょう。

今ひとつ、家計金融資産が1800兆円ありますから、これに財産税率60%を課せば、政府の借金1100兆円が一気に返せます。しかし、これも暴動か革命が起きそうですから、本稿では禁じ手という事にしておきましょう。

筆者としては、1%の税率の財産税を60年間にわたって課すという選択肢は真面目に検討したいと思いますが、これも本稿では検討しない事にしましょう。

今ひとつ、相続税の増税も、筆者としては真面目に検討すべきだと考えています。特に、子も親も配偶者もいない被相続人の遺産は兄弟姉妹が相続する事になっていますが、これには100%の相続税率を課すべきだと思います。もっとも、これも本稿では検討しない事にしましょう。

こういった手段をとらずとも、それでも財政は破綻しないのだ、という事を以下に示したいと思います。

■最後の日本人が他界すれば1800兆円が国庫に
極端な仮定を置いてみましょう。一人っ子と一人っ子が一人っ子を生むと、日本人の数が減っていき、数千年後には一人になります。その人が他界すると、個人金融資産1800兆円が国庫に入りますから、日本政府の借金はすべて問題なく返済されます。

もちろん、実際に日本人が一人になる事は考えにくいのですが、問題点を整理する上での頭の体操としては、これは重要だと思います。

この思考からわかる大事な点は、「日本政府は巨額の借金を背負っているから、いつかは財政は破綻するはずだ」という論者は正しくない、という事です。財政は破綻すると言っている人の方が、どうして破綻するのかを説明する責任を負っているわけですね。

今ひとつは、「財政赤字は後世への負担の押し付けだから世代間不公平だ」という議論への反論です。財政赤字の事だけを考えればその通りですが、財政赤字と遺産の事を併せて考えれば、世代間不公平など存在しないのです。

存在しているのは、遺産が相続できる子と出来ない子の「世代内不公平」だけです。筆者が相続税の増税を主張する理由の一つは、ここにあるわけです。

■10年経つと、容易に増税できる時代が来る
筆者と言えども、本当に数千年間財政赤字を放置しておこうとは思っていません。財政赤字が大きいという事は、人々が多額の金融資産を持っているという事になるので、インフレになる可能性が高いからです。

政府が借金で公務員の給料や公共投資の費用等を払うと、人々の預金が増えます。すると、何らかの契機で人々のインフレ懸念が高まった時に、人々が預金を引き出して「買い急ぎ」をするので、インフレが加速しかねません。

政府が増税しておけば、人々は預金を引き出して納税するため、人々の預金残高が減り、「買い急ぎをしたくても金が無い」という状況になります。したがって、インフレのリスクを軽減するためには、可能な時に増税をするべきなのです。

そして、10年後、あるいは20年後かも知れませんが、今より遥かに「気楽に」増税できる時代が来るのです。少子高齢化による労働力不足が進むと、「景気が良い時には超労働力不足、景気が悪くても少しは労働力不足」という時代が来るからです。

今は、増税しようとすると「増税をして景気が悪化したら失業が増えてしまうから、増税は待つべきだ」という反対論が出かねませんが、10年後にはそうした反対論が出なくなるので、増税が容易に出来るようになるのです。

場合によっては、労働力不足による賃金上昇がインフレ圧力となるため、インフレを予防する目的で「増税して景気を抑制する」必要が出て来るかも知れません。

通常は、インフレ予防は金融政策の仕事なのですが、政府の借金が大きな国では、金融引き締めで金利が上がると政府の利払いが膨らんでしまうので、「インフレ予防は増税で行うから、金融の引き締めは行わないで欲しい」という事になるかも知れないからです。

そうなれば、増税が「財政再建とインフレ抑制の一石二鳥」になるわけですね。したがって、10年後からは順調に財政赤字が縮小していくと期待されます。結局財政は破綻しないのです。

本稿は、以上です。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】
日本興業銀行(現みずほ銀行)にて、主に経済関連の調査に従事した後、久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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