0828_野口俊晴

厚生労働省が5年に一度の年金制度を検証する「財政検証」を発表した。将来の公的年金について、経済状況と照らし合わせて将来も制度を持続できるかどうかを検証するものだ。

このほかにオプションの試算として次の4つが挙げられた。今回の財政検証では、以下のような制度変更も選択肢として検討された。

(1)基礎年金の加入期間の延長(40年から45年へ)
(2)在職老齢年金の見直し(緩和・廃止)
(3)厚生年金の加入年齢の上限引上げ(70歳から75歳へ)
(4)就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大(繰下げ上限75歳へ)

特にここでは4に絞って話を進める。受給者にとっては今後すぐにでも影響する問題だからだ。

■年金が請求できる期間は20年となる
「就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大」は、今のままの経済成長率で75歳まで働いて、75歳から繰下げした年金をもらう場合の試算である。

繰下げによる増加分と保険料拠出期間の増加分を合わせた所得代替率(モデル世帯の年金額÷現役の平均手取収入額)は、75歳受給開始でなんと99.1%となる。あくまで試算ではあるが、現役時代と同等近いの収入を年金で貰える、ということだ。

これは国が50%を目標としている中で無茶な数字に見えるかもしれない。しかし、65歳を標準受給年齢として年金の繰下げは上限70歳から75歳、つまり10年間受け取りを先送りすることで1ヶ月あたり0.7%、10年繰り下げれば最大1.84倍(0.7%× 12月×10年)と、これだけで2倍近くまで増える。

加えて65歳以降も働いて厚生年金の加入期間が長くなれば、さらに年金は増える。どれくらい増えるかは収入によって異なるが、結果的に所得代替率が政府が目標とする50%の2倍ほど、100%近くまで増える、という試算だ。

ここで考えるのは、年金の受給開始時期をもっと延長できたらということである。今回の改革案では、60歳(最大5年繰上げ)から75歳(最大10年繰下げ)までの15年と、受給開始時期はかなり年齢幅が広くなる。だが意外と知られていないが、受給開始可能なのは60歳から80歳の20年間となる。

これは年金請求の時効が5年あるからだ。現行制度では、繰下げを希望したのにそのまま請求し忘れても5年間遡って請求することができる。例えば70歳で繰下げ請求するつもりだったのが75歳になって請求忘れに気づいた場合、この時点で請求すれば時効5年以内である70歳からの増額率込みの年金が遡ってもらえることになる。

このことは特別な場合だと言われるかもしれない。しかし、書面上は本人の請求忘れか制度の理解不足などの理由で承認されるものだ。そこで、わざと請求忘れのふりをして請求を遅らせるのを勧めるというのではない。これを常例として制度化してみたらどうか、という考え方である。

■請求時効の延長を
具体的には、この請求時効5年を10年くらいに拡げてもいい。例えば85歳までならいつ受給請求しても、遡って75歳からもらえるようにする。繰下げによる増額率は今回案通りに75歳時(1.82倍)で固定しておけば、75歳以降は働かないにしても、仮に85歳で申請しても75歳から遡ってもらえるので通常の繰下げ年金と変わらない。

実際に85歳で受給する人は、平均寿命を考えるとどれくらいいるかは別問題として、それだけの猶予期間があれば、今すぐ年金を受給するか、あと少し働くかどうかの選択肢が拡がる。一方で、遅くもらうとその分だけ生涯にもらう年金総額が減ってしまうと不満が出るかもしれない。75歳はおろか60歳以降は働きたくないという人も大勢いるだろう。

そういう人にとっては現行も改革案も65歳を標準受給として、60歳からの繰上げ受給が可能となっている。ただ、早くもらえば総受給額の損得の分岐点が早く訪れるので、それ以降長生きするだけ目減りする。もっともここでの「損得」というのは、あくまで標準受給者や繰下げ受給者との一般的な金額での比較にすぎない。実際には、個人レベルで事情も経済的満足度もそれぞれ違う。 

ちなみに、年金を繰下げると年金額が増える分、社会保険料・税金の負担が多くなり手取り分が減るのでは、という心配があるだろう。これは今回の試算で明確に触れていない。

現行では70歳まで5年繰下げると年金額が1.42倍の増額になり、82歳位で総受給額が65歳受給者の年金を追い越すことになる。じつは、社会保険料と税金を考慮しても結果はあまり変わらない。社会保険料・税金の増額分より年金の増額分の方が多いので、前提条件にもよるが2~3年位の遅れで損得の分岐点に追いついてしまう。

■老後の生き方の選択肢が拡がる
話を請求時効に戻すと、現在なぜ受給申請に時効があるのだろうか。時効を延長もしくは廃止すると、いつまでも受給する権利が消失せず、年金管理の事務量が増えて煩雑になり支給ミスが多発するという懸念もあるだろう。

確かに民法上の契約のように半永続的に権利を認めると、現状の事実関係に不都合が生じるので時効の完全廃止とはいかないだろう。ならば、せめて10年位に請求時効を延ばし常例としたらどうだろうか。現実には難しいだろうが、一定の年齢に遡っていつでも年金がもらえるのであれば何ら不安はなくなる。

例えば10年の時効であれば85歳で受給請求しても、一括受取が可能なら(課税方法の調整も必要となるが)、即座に多額の生活資金にもなるし、長寿を見据えての準備資金にもなりうる。75歳でも85歳でももらう金額に損得はない。

75歳から毎年の受給分を生活費に加えて暮らす手もあるし、支出してしまわないよう金庫代わりに据え置く手もある。もっとも、時効前のもらい忘れは減らす必要がある。

■年金改革と同時に働き方改革を
これからは寿命100年を前提とすると、少しでも長く働き、年金で暮らせる期間を短くする生き方となりそうだ。だからといって老後に無理に働けというものではない。いつまで働くかは、個人がもっと自由に選べればいいということである。

受給請求の時効延長案は、あくまで考え方の1つである。85歳まで受給を延ばすなんてとんでもないと言うかもしれない。だが、制度の変更によって我々受給者も考えを変えていかざるを得ない。個人が年金をもらう時期で損得が出るとか、繰上げと繰下げで損か得かという一般論での議論はあまり意味をなさなくなるだろう。それは受給者個人の前提によって全く変わってくるからだ。

それよりも元気で働けるうちは働き、年金は後でもらう傾向となるのは仕方ないのではないだろうか。今回の「財政検証」を見ても、そういう生き方を選ばざるを得ないのかもしれない。とはいえ、いくら年金をもらい始める年齢が拡がると言われても、そう簡単ではない。

年金をもらうのを遅くするなら、年金をもらうまで働かざるを得ない。さらに働ける仕事、生活できる賃金がなければならない。そうでなければ、長く働くことも長く生きることの楽しみもなくなってしまう。年金改革は働き方改革と両輪である。冒頭に掲げた「財政検証」オプション試算(1)~(3)についても進めて行ってもらいたい。

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野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

【プロフィール】
個別の金融資産の推奨・販売をしないアドバイザリー型のFP。個人のリタイアメントプランを実現するための運用設計およびトータルなライフプランの提案。ほかに働き方、お金に関するアドバイスの提供。

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