0226_及川修平

新型コロナウイルスの影響で様々なイベントが自粛されるなか、3月1日に予定されていた東京マラソンも一般参加が中止された。

問題となったのは、参加費の取り扱いだ。主催者は、規約に明記していることを理由に返金しない対応をとるとしている。

はたしてこのような規約のあり方に問題はないのだろうか。法律的な観点から考えてみたい。

■不可抗力で契約の遂行ができなくなった場合、法律ではどのように処理される?
東京マラソンの規約には次のように記載されている。少し長いが全文を引用する。

「積雪、大雨による増水、強風による建物等の損壊の発生、落雷や竜巻、コース周辺の建物から火災発生等によりコースが通行不能になった結果の中止の場合、関係当局より中止要請を受けた場合、日本国内における地震による中止の場合、Jアラート発令による中止の場合(戦争・テロを除く)は、参加料のみ返金いたします。なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません。」

今回は新型コロナウイルスによる感染拡大を防ぐという仕方のない事情、いわば不可抗力によって中止に追い込まれたものだ。このような場合、法律的にはどのような処理をするか。

不可抗力によって契約の遂行ができなくなってしまった場合、法律では対価を請求することはできないとされている。

今回の東京マラソンのケースに当てはめれば、主催者は参加者から費用の徴収ができない。

法律の原則ではこのような処理の仕方をすることとなっているが、契約や規約でこの原則的な取り扱いを変更することは認められている。今回のケースでは、参加者に対して事前に提示されていた規約によって、法律の原則と異なる約定があったことになる。

■法律の原則と異なる約定を結ぶのは自由だが……
もちろん、原則と異なる規約を設けることが可能でも、どのような規約を作っても許されるわけではない。

参加者にとってあまりに負担の重い規約となっている場合は、規約自体が無効となることもあるので注意が必要だ。

今回問題となっているような不可抗力によるマラソン大会の開催ができなくなった場合の返金のあり方をめぐって、問題となったケースがある。北九州マラソンと福岡マラソンだ。

北九州マラソンと福岡マラソンのそれぞれの実行委員会は当初、今回の東京マラソンと同じく、主催者に責任のない事情でマラソン大会が中止となった場合は返金に応じないとの規約を設けていた。しかし、消費者団体である消費者支援機構福岡から不当な契約条項ではないかとの申し入れを受けたことをきっかけに、これを改訂している。

改訂後の規約において、福岡マラソンでは「参加料は中止に要した経費を差し引いて返金の有無及び金額を決定する」とし、北九州マラソンでは「実際にかかった費用等を勘案して返金の有無・金額等を決定する」とした。

改められた規約では、不可抗力による大会の中止となった場合でも、準備に要した費用を除いて残金があれば、返金に応じることとなる。

規約が改定されてから不可抗力で大会が中止となった例はまだないので具体的にどのような取り扱いがされるかはわからないが、東京マラソンの件を考えるうえで参考になるだろう。

■一切返金しない規約は妥当か?
福岡と北九州の例と比較すれば規約を盾に一切返還しないと突っぱねる対応は、やはり問題だろう。

小池都知事は、2月21日の定例記者会見の際「大会後に収支を確認のうえ、ランナーに何ができるか検討したい」と述べた。

何かしらの対応はされるのかもしれないが、大会開催に向けた準備に要した費用を明らかにして、参加者が負担もやむなしと納得できる金額を明示したうえで必要最低限の負担だけを求めるべきだろう。

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及川修平 司法書士

【プロフィール】
福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心にこれまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

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