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政府は、高齢者が働くと年金が減る制度(在職老齢年金)の廃止・縮小を検討していましたが、小幅な縮小という事になりそうです。廃止が望ましいのに、残念です。

■高齢者が働くと年金が削られる制度がある
在職老齢年金という制度があります。高齢者が働いて一定以上の収入を得ると、受け取れる年金の一部がカットされてしまうものです。サラリーマン(サラリーウーマンや公務員等を含む、以下同様)の加入する厚生年金に関するものですので、自営業者等々には関係ない話ですが。

大雑把に言えば「65歳までは、給料プラス年金が月額28万円を超えたら、超えた分の半分を減額する」「65歳からは、給料プラス年金が月額47万円を超えたら、超えた分の半分を減額する」というものです。

限られた財源を本当に必要な人に届けるためには、必要性の低い人には我慢してもらおう、という趣旨だと思われますが、以下のような問題点を抱えているので、是非とも廃止すべきだと筆者は考えています。

じつは、政府が昨年6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)には、在職老齢年金を「将来的な制度の廃止も展望しつつ、速やかに見直す」と明記されました。

筆者は大いに期待していたのですが「65歳までの人も28万円ではなく、65歳以上の人と同じく47万円を超えたら減額する」という小幅な制度縮小のみに終わりそうです。がっかりです。

■公平性の問題がある
在職老齢年金制度は、厚生年金だけを見れば不公平ではないのでしょうが「働いても年収があまり増えない」という観点で見ると、大きな不公平があります。若い高額所得者や、高齢で高所得の自営業者は、稼いだらその分だけ年収が増えるわけですから。

「高額所得者は金に困っていないのだから、色々と負担させよう」という事であるならば、理解は出来ますが、それならば累進課税を強化すれば良いのです。高齢者に支払う年金が足りないので、サラリーマンも自営業者も若者も含めて高額所得者に税金を払ってもらい、それを年金の支払い原資にすれば良いのです。

もちろん高額所得者にどこまで負担をお願いするか、米国等と比べると今の日本でも高額所得者の負担が重すぎるのではないか、といった議論は別途必要でしょうが、本稿はそこには踏み込まない事にしましょう。

■働く意欲を阻害する
少子高齢化で労働力不足ですし、財政も年金財政も苦しいですから、政府は高齢者にも働いてもらい、年金や税金を納めてもらおうと考えているようです。そうであるならば、高齢者の働く意欲を阻害する在職老齢年金制度は廃止すべきです。

審議会等では「在職老齢年金制度が高齢者の働く意欲を阻害しているという証拠がない」といった議論もあったようですが、阻害していないという証拠もないでしょう。常識で考えれば阻害しているはずです。

制度の対象となるのはある程度所得水準の高い人でしょうが、それでもたとえば「介護離職をすべきか、仕事を続けるためにヘルパーを雇うべきか」といった選択を迫られている人にとっては、「年金が減らされるならヘルパー代を払ってまで仕事を続けるべきではない」と考える人も多いでしょう。

高額所得者の多くは、日本経済に多大な貢献をしているはずです。そうした人が在職老齢年金制度のために仕事をやめてしまうとすれば、単に税収や年金保険料といった事ではなく、日本経済の発展にとって痛手となるでしょう。

まあ、能力にかかわらず年功序列で高い所得を得ている人もいるでしょうから、そういう人の勤労意欲が削がれるだけならば問題ないのでしょうが(笑)。

■誤解を招きやすい
制度を担当している人にとっては、特にわかりにくい制度ではないのかも知れませんが、一般庶民は年金の事ばかり考えて暮らしているわけではなく、むしろ年金制度に関する知識をほとんど持っていない人の方が多いでしょう。

そうした人は「働くと損をする」と誤解してしまう可能性があります。そうした人が出ないように広報活動をしっかり行うべき事はもちろんですが、それよりも「制度を単純なものにして、変な誤解をする人が出てこないようにする」方が遥かに重要でしょう。

是非とも次回の見直しの際には、在職老齢年金制度そのものを廃止して欲しいものです。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】
1981年、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に経済関連の調査に従事した後、2005年に久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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