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遠隔地にいる人が分身ロボットを活用し、接客に従事する取組が行われています。
株式会社オリィ研究所(東京都港区、代表取締役所長:吉藤健太朗)は、モスバーガーを運営する株式会社モスフードサービスと共同で、難病による外出困難者が分身ロボット「OriHime」を遠隔操作して接客する「ゆっくりレジ」を、2020年7月27日(月)より8月下旬までの約1カ月間、平日の時間限定でモスバーガー大崎店に実験導入する。
OriHimeを通してお客様と相談をしながら、希望に応じたメニューをご案内し実際に接客を重ねながら取り組みを進めていく。
遠隔操作でモスバーガーの店員に!外出困難者が分身ロボット「OriHime」を操作しモスバーガー大崎店のスタッフとして接客を行う実験を開始 株式会社オリィ研究所プレスリリース 2020年7月13日

このような取組は、障がいのある人でも、地理的な障壁に左右されず労働参加できて非常に希望が持てます。

筆者はこのような取組や技術は素晴らしいと考えますが、労働市場全体で考えた場合、一人一人の労働者に要求されるスキル水準が上昇する副作用が発生する可能性があります。

地理的制限という参入障壁が崩壊した場合に労働者の競争は激化するのか?

そんな切り口で、今何をすべきか、将来どうした方が良い世の中になるかを考えてみます。

■接客サービスは参入障壁に守られてきた
飲食店や小売店等で提供される接客サービスは、提供されると同時に消費されるため、在庫を保有できないという特性があり、お店を営んでいる場所でサービスを作り出す必要があります。


そのため、サービス業や接客サービスが必要な事業はその場でサービスを作り出すための人を雇う必要がありました。

筆者も、学生時代にアルバイトとして接客サービスを行っていました。世間知らずで礼儀知らずであった筆者でも雇用されたのは、そこにいたのが筆者であって、他の一流のサービスを提供する人とは比較できなかったから、言い換えれば地理的な参入障壁があったからだと考えています。

このような地理的な参入障壁によって、大量にサービスを必要とする地域では非熟練人材の雇用が守られてきていたと言うことができるのです。

■雇用した後の教育訓練は企業が負担し実施した
非熟練人材であってもひとたび雇用されれば、企業側は教育訓練を進んで実施します。

企業は顧客に一定のサービス水準を提供する必要があり、雇用した人が誰であっても、教育訓練を行い(もしかしたら卓越した水準の)サービスを提供できるようにする必要があるのです。

学生時代世間知らずだった筆者も、一通りの接客サービスを行えるようになるまで、根気強く教育訓練をしてもらいました。

このように、地理的な参入障壁があることから訓練を受けていない人材でも接客等のサービスに参入することができ、ひとたび参入できれば雇用側がしっかりと教育訓練をしてくれていたのです。

■地理的な障壁がなくなった後、教育訓練のコストを誰が負担するか
分身ロボットの取組は、働く人がどこにいても働けるという素晴らしい取組です。冒頭のプレスリリースのように、障がいを持っていても、遠隔操作で接客サービスを提供することができるのですから。

そして、この技術が本格的に普及するとサービスの提供に係る地理的な障壁を取り払うことにつながっていくと考えられます。

ここまでは素晴らしいことなのですが、意図せぬ結果も連れてきてしまいます。

それは、地理的な障壁がなくなることで、わざわざ熟練度の低い人を現地で雇用して教育訓練を施すよりも、既に熟練した人を雇用する方が総コストが安くなるという判断をする企業側が増加するかもしれないということです。

例えば、元高級ホテル従業員と、これから一から教育訓練をしなければならない方がほぼ同じコストで雇用できるとなれば、どちらを雇用するでしょうか。

合理的な判断としては、教育訓練のコストをかけることなく卓越した水準のサービスを提供できる元高級ホテル従業員の方を雇用すると考えられます。

そして、そのような時代になると企業側が提供する教育訓練は少なくなってしまうと考えられます。

そのため、サービス業の教育訓練を受けていない非熟練人材が働くことが難しくなることも想定されます。

■一人一人が心がけること
地理的な障壁が存在している現在では、接客サービスで働きたいと考える方は地理的に近くに住んでいるということで採用される状況です。

そのため、今から接客サービスで働こうとしている人は現在のお給料だけでなく、将来働く力の基礎も提供してもらえるので、企業から提供される教育訓練をしっかりと吸収することが重要であると考えられます。

しかし、将来的には何らかの形で自らに教育訓練を施すことが必須となるかもしれず、そのような未来においては、サービス業人材が自己啓発的にスキルを身につけるような教育訓練サービス業の台頭が予想されます。

その際には、基礎的な働く力を身につけるための公的な支援策が求められるでしょう。

また、もう一つの解決策としては、熟練したサービス人材は自らのスキルの提供にあたりそれ相応の対価を要求できる社会を目指すことも考えられます。

そうすれば、サービススキルの上達とともに雇用単価が向上するため、非熟練人材が参入する余地が生まれ続けます。その結果、熟練人材と非熟練人材がすみ分けができるようになります。

この解決策を社会全体で目指すためには、働き手であり消費者でもあるわれわれ一人一人がサービスは決して無料ではないから、それ相応の対価を支払うと考える事が重要となるでしょう。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】
全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。

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