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総務省は6月11日、東京五輪・パラリンピックの49日間、人流の減少を目的としてテレワークの集中的な実施を求める方針を発表しました。

感染防止に加え業務効率を上げることもテレワークの目的の1つですが、様々な事情から仕事がやりにくい、部下の管理がしにくい、業務がスムーズにいかないといった声も多く聞かれます。ただ、諸外国では生産性が高まったデータが多数あります。

コロナの流行から1年以上経過した今、日本企業のテレワークと生産性について考えたいと思います。

■近年導入が進むテレワーク コロナ禍で一気に拍車がかかる
テレワークは一見コロナの感染予防として導入が進んでいる様に見えますが、実はテレワークを推進する動きは、労働人口減少の課題や働き方の多様性、ITインフラの充実などを背景にコロナ禍以前から始まっています。

例えば、2016年に総務省・厚生労働省が「テレワーク推進企業ネットワーク」を、2017年には東京都が「テレワーク推進センター」を立ち上げるなど、テレワーク導入企業に情報提供やアドバイスを行う体制は官民連携で動き出しています。

コロナ終息後のテレワーク定着率に関する見解は様々ですが、働き方の選択肢が増えたり、オンライン会議が当たり前になるなど一定の定着があるのは明らかです。

■問われる出社の意義
オフィスに出社する意義は、災害時に顕著に問われます。

2019年9月、台風15号が関東地方を直撃しましたが、台風の影響で運休していた鉄道各社が運転を再開したとたん、多くの人が出社しようと詰めかけ、駅に長蛇の列ができた様子が報道されました。

当時、なぜそこまでしてオフィスに行く?という声とともに、人がごった返した駅の写真はSNS上でも広く拡散されました。

この時の状況を東京大学と県立広島大学が共同で行った調査※1があります。9月9日、首都圏の通勤・通学者で出勤や登校の予定があった人のうち、会社や学校を休んだのは約15%、遅刻を含め約80%の人が出勤しました。 

ここで問われるべきは、「働く=出社」なのか?ということです。コロナ禍は、この価値観に一石を投じました。

■テレワークの生産性は低いのか?
出社せずに仕事をすることも当たり前になった今、出社とテレワークでは生産性に違いはあるのでしょうか?

人材派遣大手のパーソル総合研究所が2020年3月から定期的に実施しているテレワーク調査の第四回※2を見ますと、テレワークを行うことにより「生産性が下がった」と答えた割合は64.7%、「変わらないor上がった」と答えた割合は35.2%となっています。

オラクルと米Workplace Intelligenceが共同で調査した「コロナ禍の日本における働き方とAI(人工知能)の利用実態に関する調査結果」※3によると、日本企業でテレワークにより生産性が下がったと答えた割合は46%、生産性が上がったと答えた割合は15%と、テレワークで生産性が下がったと感じている人の割合が3倍も高いことが分かります。

この調査は日本を含めた11ヵ国で行われています。アンケートの平均数値は「生産性が下がった」が36%、「生産性が上がった」が41%です。平均値を見るとある程度拮抗していますが、生産性の向上が下落を上回った国は11ヵ国中8ヵ国となっています。

そして「生産性が上がった」と回答した人の割合は、日本が11ヵ国中最下位という結果で、日本の低さが際立っています。このアンケート調査から分かることは、テレワークの効率が悪いことではなく、「日本におけるテレワークの効率が悪いこと」です。

■人材を会社が管理する日本、自己管理のアメリカ
なぜ日本企業はテレワークで生産性が上がらないのか?

考えられる1つのポイントとして、従業員の自己管理よりも、会社側が従業員を管理する傾向の強い点が挙げられます。

アメリカは前述のオラクルによるコロナ禍の生産性調査で、インド・ブラジルといったITが盛んな新興国に次ぎ、生産性が上がった割合は11ヵ国中3位、先進国の中では1位でした。

アメリカと日本を比較すると、人材採用と配置の考え方が大きく異なります。日本の採用は「仕事に人をつける」、アメリカの採用は「人に仕事をつける」と考えると分かりやすいかもしれません。

今後は通年採用にシフトしていくと言われていますが、従来の日本企業では、毎年4月に新卒入社が行われ、企業は入社後に配属を考えます。そして適正や資質を見ながら、職種や部署間で異動を繰り返すジョブ・ローテーションを行い人材を育てる、いわゆるメンバーシップ型雇用が一般的です。

一方アメリカでは、新卒一括就職の概念がなく、ポジションに対して必要な人材を採用します。

求人の時点で職務内容や給与など条件がジョブ・ディスクリプション(職務記述書)によって明確に記されており、求職者は求められるスキルや希望等が合っていれば応募します。そのため学生のうちから、企業で実務的なインターンシップを行い、即戦力になることが一般的です。これはジョブ型雇用と呼ばれています。

つまり日本企業は「まっさらな新人を一から育てる」方式で、結果として会社が従業員を細かく管理する構図が生まれます。

対してアメリカは、ジョブ型雇用に加え、成果主義・能力給の要素も高いことが特徴です。すると、企業は「既に仕上がっている人材」を採用し、能力に見合う報酬を支払う構図になり、従業員は自分自身で能力やスキルを高める必要があります。

このような日米の働き方、そして働き方に強く影響を与える採用方法の違いが自己管理能力の差となり、テレワークの生産性に決定的な格差を産み出したのではないか? こんな見方もできるわけです。

■日本も自己管理能力を問われる時代へ
日本企業が従業員を管理する傾向が強いという話を象徴するエピソードとして、社員がパソコンの前で仕事をしているか確認をする、テレワーク管理システムが挙げられます。

海外でもテレワーク中の社員を見られるシステムはありますが、顔が見えるコミュニケーションを目的とした要素が強いと言われています。

ジョブ型雇用を基本とした海外では結果を出したかどうかが問われるため、従業員に対する過度な管理は必要ないわけです。

しかし、日本も今後は大きく働き方、雇用の仕方が変わると言われています。

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行、成果主義・能力主義の導入、年功序列・終身雇用・新卒一括の廃止など、一部の企業は動き始めています。

今後、日本企業で働く人がいかに「自己管理能力」を高めていくかは、コロナ後にも求められる重要なテーマではないでしょうか。

※1報道機関各位 (pu-hiroshima.ac.jp)
※2第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査―パーソル総合研究所 (persol-group.co.jp)
※3日本の「職場におけるAI」調査:AI利用は世界11ヵ国で最下位も、87%が不安やストレスを相談する相手としてロボット・AIを受け入れると回答(Oracle 日本)

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濵野ゆか(研修講師/株式会社SWITCH 取締役)

【プロフィール】
日本大学生物資源科学部応用生物科学科卒業。プルデンシャル生命保険株式会社、保険代理店代表を経て、EdTech企業の取締役に就任。生物学や脳科学などをベースに、人の課題解決能力や自己管理能力、習慣化などを向上させる行動変容の研修プログラムは、働き方改革やDX推進を目指す大手上場企業からも好評を得る。研修実績は、銀行系総研シンクタンク・大手不動産・建築・電機メーカーなど等多業種に渡る。女性のオンライン講師の育成を目指して、自社の人材教育に注力。資格はGALLUP認定ストレングスコーチ、宅建等。昭和歌謡曲好き。

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