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長引くデフレにコロナ不況が追い打ちをかける今、一部の野党が強く推奨している積極財政。

今こそ政府はお金をどんどん供給すべきだという主張で、その財源については赤字国債の発行、つまり借金で賄えばいいというのだ。すでに借金まみれの日本でそんなことが可能なのか。

この提言の拠り所は「現代貨幣理論(以下、MMT)」であり、多くのメディアやYouTube、SNSでも頻繁に取りあげられている。

MMTは簡単にいうと、自国の通貨を発行できる政府においては、通貨を発行することで自国通貨建ての国債を返済でき、支出も税収に頼らず通貨を発行することで行えるのだ、とする理論である。

筆者は経済学の専門外なのでここではMMTの深掘りは避けるが、この議論について、経営者として普段から実践している企業会計と国家財政との違い、という角度から考えてみたい。

■MMTへの主な反論
国債残高は2021年度末で1000兆円を超え、国民一人当たりにすると800万円近い借金を背負わされていると言われる日本が、さらに国債を発行しても大丈夫、という理論に対しては当然ながら反論の声が強く上がっている。

その内容は大きく二つあり、一つめは「これ以上国の借金を増やして次世代にツケを回すとはケシカラン」というもの。そしてもう一つは「過剰な通貨供給で、ハイパーインフレを招いたらどうするのだ」というもの。

いずれもまっとうな常識論であるが、MMT論者はそれらにこう答える。すなわち、国債はあくまで政府の借金であり、私たち国民の借金ではない。それどころか政府の負債は国民の資産になるのだ、と。

さらにハイパーインフレの懸念については、インフレ率2%を目処にして、それを超えそうな時には増税で市中のお金を吸い上げることでインフレ化を抑制するのが、通貨発行機能を持つ国の仕事ではないかと。MMTにおいても許される国債発行量は無制限ではないが、長期においてデフレの日本では、異次元の金融緩和後もインフレ率2%には程遠く、まだそれを気にする必要はない。

国の借金が増えることについても、国債は最終的には日銀が買い取るわけで、通貨発行できる中央銀行に対しては政府が返済する必要はない、というのがMMTの主な論旨である。

それでも借金は借金ではないか!とTVで憤っていた知識人がいたが、私たちも子供の頃にシンプルに考えなかっただろうか。国は何故、お金を製造できるのに借金などしなければならないのかと。

■国にも貸借対照表が存在する?
零細企業の経営者たる筆者は、会社経営に携わる多くの方たちと同様に簿記の実践者である。複式簿記の仕組みは、自由経済活動が続く限りは、未来永劫に有効な素晴らしいメカニズムだと思っている。

そして企業ではない国家にも、財務状況を一覧できるいわば決算書があり、財務省から公表されている。その中の貸借対照表のページには、負債の部つまり借金として、公債残高約1000兆円が計上されている。

会社の財務をはかるのに完全と思える複式簿記であるが、それを国家にも適用するのは無理があるのではないだろうか。特に自国通貨を発行できる国の政府に、そもそも簿記は準用できないのではと筆者は考える。

それは何故か。

簿記には「通貨を発行した」という取引を仕訳すべき科目が存在しない。簿記発祥以来、通常の企業活動では通貨を発行することなどあり得ないので、当然といえば当然だろう。

しかし存在しないものを無理に当てはめようとすれば、そこに齟齬が生じる。つまり通貨を発行する前工程で国債を発行すれば、それが貸借対照表上では負債=借金として記載されることになってしまう。

■政府は通貨の供給量を調整する
日本政府が通貨を発行する際の主なオペレーションは、国債を発行して、民間金融機関を経て最終的に日銀がそれを買い取るという回りくどい方法を採る。

政府が自在に紙幣を印刷できればいいのにとも思うが、たとえ回りくどい方法であっても中央銀行の独立性を維持する為にも、これは必要な手順であるらしい。

政府が国債を発行して通貨を発行するという取引の仕訳としては、国債は貸方の負債に入り、つまりは政府の借金となり、反対の借方には日銀当座預金が計上される。そのため国の貸借対照表を見ると、国債を発行することは政府の借金であるかのように見えてしまう。

要するに国債の発行とは、単独では通貨を発行できない政府がおこなう、通貨発行のための作業の一過程に過ぎない。国債の発行から一連のオペレーションを経て生まれるお金は財政支出に充てられ、その後は何らかの売上を経て、企業や国民の預金口座に印字されることとなるのだ。

MMT論者が、国の借金は国民の資産なのだと述べるのもこのためだ。筆者としては「国の借金」という表現も不適切だと思うのだが。

自国で通貨を発行できる国の予算は、そもそも税収で賄う必要はない。子供の頃に考えたように、お金を製造すれば済むからである。ではなぜ徴税するのかといえば、インフレ懸念に応じて市場から税で通貨を吸い上げたり、デフレ基調のときには通貨を供給したり、金融政策と合わせて景況をコントロールすることが、自国通貨を供給できる政府の重要な仕事であるからだ。

もし国債を国民の借金だと考えたとしたなら、たしかに次の世代への負担の先送りになってしまう。しかしこれは通貨発行という取引を無理に仕訳しようとするから起こる懸念である。たとえば政府と中央銀行とを一体にして通貨発行を単純化すれば、それを借金だと考える人はいないだろう。

■財務省と日銀は知っている
要するに国債残高は、返済を考慮しなければ、これまで発行してきた通貨の総量と税収との現時点での差額を示す数字に過ぎない。

通貨発行の上限をどう定めるかは「インフレ率1.8〜2.0%まで」というのが通説であり、日銀のHPにも物価安定目標2%との記載がある。ついでに財政出動を渋る張本人である財務省のHPには『先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない』とも書いてある(引用:「外国格付け会社宛意見書要旨」財務省HP、2022/04/19閲覧)。

2021年文藝春秋11月号に掲載された、財務省トップ官僚たる矢野康治氏の論文は、「このまま借金を重ねていけば我が国の財政は破綻する。そんな現在の政策に対して、もう黙っているわけにはいかない」という内容で、これは所属組織の広報との矛盾がはなはだしく、支離滅裂の誹りを免れない。

また、令和4年3月15日の参院財政金融委員会においては、西田昌司議員の質問に対して日銀の担当者が「通貨発行は信用創造によるものであり、国が借金していると考えるのは間違いだ」と明確に回答してもいる。

国は通貨の流通量を調節できる大きな権能を有する。流通量を増やす施策は通貨発行であり、減らすときは増税である。デフレの今、どちらを為すべきかは経済学の専門外であっても論を待たない。まずは生活困窮者への補償や福祉、教育支援などが優先すべきだが、その上でインフラ投資や企業支援でサプライチェーンごと底上げを図り、経済全体を盛り上げることが望まれる。

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玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

【プロフィール】
建築、小売店、飲食業、介護施設、不動産など異業種で4社の代表取締役を兼任。
一般社団法人起業家育成協会を発足し、若手経営者を対象に事業多角化研究会を主宰する。起業から収益化までの実践と、地方の中小企業の再生・事業多角化の実践をテーマに、地方自治体や各種団体からの依頼でセミナー・コンサルティングの実績多数。

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