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「ダンダリン」の第2話が10/9に放送された。第1話に引き続き、社会保険労務士の視点から補足説明をしたい。
(*本記事は、結末に触れるのでまだ見ていない方はご注意を)
(*第1話の解説については「ダンダリン第1話の補足。労働基準監督官は水戸黄門ではありません。」を参照されたい。)

第2話のテーマとしてハイライトされたのは「名ばかり店長」に関わる残業代の不払いであった。私自身、学生時代に飲食店でのアルバイト経験があり、正社員の店長や副店長は、午前10時か11時に出社してランチ営業の準備に始まり、閉店準備が終わるのは0時近く、という長時間労働を目の当たりにした。また、社労士になってからも、「名ばかり店長」の方から相談を受けた経験もある。だからこそ、人ごととは思えずにドラマを見ていた。

一人でも多くの店長の方や、店長を雇用する立場にある経営者の方に、正しい法的知識を持っていただきたいと思い、本稿を書くことにした。

店長=管理監督者ではありません

「おめでとう、今日から君は店長だ。」

飲食店や小売店などのチェーン展開をしている会社に勤務する人にとって、店長として1店舗を任されるということは、ひとつの目標でなのではないかと思う。会社から実力を認められ、店長の地位を得ることそれ自体は、素晴らしいことだと私も思う。

ところが、世の中で「店長」=「管理監督者(=残業代の支払不要)」という誤解が定着してしまっていることは問題である。ダンダリン第2話のストーリの中でも、飲茶チェーン店の社長、各店舗で働く店長ともに誤解をしていた。

労働基準法が想定している管理監督者とはどのような人なのかを、裁判所の判決文を要約して引用すると、

①職務内容が労務管理を含め「企業全体」の経営に関する重要事項に関与していること
②職務内容が労働時間に関する制約を受けるものではないこと
③給与面で管理監督者に相応しい待遇がなされていること

この3つの要件が全て満たされなければ「店長」は労働基準法上の「管理監督者」には当たらないとされている。

一般的な飲食店や小売店の店長の姿をイメージすると、店長が本社の経営会議に出席して意見を述べているとは思えないので①の要件は満たさないし、自分が調理やレジ打ちなど店舗の実作業に入ったり、バイトが抜けたシフトを埋めたりしなければならないのなら②の要件も満たさない。③に関しても、店長として支払われている給料が、一般従業員の基本給+残業代をあわせた額とドッコイドッコイか、下手したら下回るようでは到底「相応しい待遇がなされている」とは言えない。

したがって、もし裁判になった場合には、飲食店や小売店の店長が、管理監督者であると認定される可能性は極めて低いということができよう。

尚、ダンダリンの中で登場した社労士が「権限委譲をすれば管理監督者にできる」という趣旨のことを述べていたが、たとえ人事権などを与えたとしても、店長の主たる業務内容が店舗実務のままでは、リアルの世界では管理監督者と認定されることは難しいことを付言しておく。

間違いなく管理監督者と認定されそうな「店長」といえば、「○○デパート新宿店店長」のように、大手百貨店で主要な店舗の運営を任され、経営会議にも出席しているような人くらいではないだろうか。

もしこの記事を読んでくださっている方が実際に「店長」を務めている方でいらっしゃったら、自分のことに置き換えて、自分は本当に法律上の店長(=管理監督者)なのかを考えていただきたい。「私は法律上店長ではなかったのだ」ということを認識しておくだけでも、何かあったときの対応がスムーズになるし、「店長だから頑張らなければ・・・」と無理に自分を追い込むことも防げるのではないかと思う。

いざ「何か」あったときは、第1話についての記事で述べたよう、会社の不正を正したいのならば労基署、自分が本来もらえるはずの残業代を取り返したい場合には、弁護士や社労士に相談をしてほしい。

管理監督者であっても無限に働かせて良い訳ではない

これまたよくある勘違いなのだが、百歩譲って飲食店や小売店の店長が、「名ばかり店長」ではなく労働基準法上の管理監督者であったとしても、無制限に働かせて良いわけではない。

「君は店長なのだから、何かトラブルがあれば24時間365日対応しなければならない。」と申し渡す経営者もいるだろうが、このような働かせ方をした場合、労働契約に付随して会社側に発生する「安全配慮義務」に違反することになる。

会社は管理監督者に対しても、労働時間を「管理」までは必要ないにしても適性に「把握」し、心身の疾患や過労死に繋がるような長時間労働を放置してはならない。ましてそのような長時間労働を強制するのは論外だ。

立法上の観点から見ても、労働基準法では管理監督者に対しても深夜労働には深夜割増賃金を支払わなければならないと定めている。また、労働安全衛生法でも全ての従業員に関し、健康診断の結果、所見が見られる場合、会社は労働時間の短縮等の対応をしなければならないことが定されている。これらの規定を鑑みると、管理監督者だからといって無制限に労働させても良いことには決してならないのだ。

長時間労働の結果、心身の疾患を患ったり、過労死や自殺につながったりした場合には、従業員や遺族は会社に対して損害賠償請求をできることも覚えておいてほしい。労災保険から法定の補償がなされることは当然として、会社が安全配慮義務を怠ったことで労災が発生した場合には、労災保険でカバーされない部分の遺失利益や慰謝料などについて、会社へ損害賠償を求めることができるのだ。

飲食店や小売店が取るべき現実的な対応例

最後に、会社側の立場に立った対応方法についても若干付言したい。多くの飲食店や小売店で「店長」は管理監督者という扱いになっているのが実態だと思われる。

実際に「名ばかり店長訴訟」は限られた件数しか発生していないのは、「店長」を務めている従業員が自分が管理監督者ではないことに気付いていなかったり、会社との波風を立てたくないという思いからだと推測される。

そのような状況から「自分の会社の従業員に限ってまさか・・・」と考えている経営者様もいらっしゃるのではないかと思うが、その「まさか」が起こってしまった場合、全く対策をしていなければ数百万、数千万の未払賃金を一気に請求され、下手をしたら資金繰りに窮して倒産の引き金を引くことにもなりかねないので、放置したままにしておくのは危険だ。

「名ばかり店長」に対し、耳を揃えて残業代を支払うようにするのが最も正当な対応であるが、それができれば苦労はしないだろう。飲食店や小売店は厳しい競争の中で生き残りを図っているわけであるから、「払いたくても払えない」という場合も少なくないと思う。そのような場合は、合法的かつ追加の人件費を最小限に抑える形で賃金規程を設計するいくつかの方法があるので、社会保険労務士のノウハウを活用して欲しい。

例えば、対応法の1つとして、多くの会社では店長を務める従業員に対し「店長手当」を払っていると思われるので、これに残業代の役割を持たせる方法がある。賃金規程を改訂し、「店長手当は、店長は業務の性質上、所定労働時間を超えて勤務することが想定されるので、予め定額で時間外手当を支払うものである」というような文言を書き加えるのだ。店長手当に残業代の性質を持たせておけば、将来「名ばかり店長訴訟」が起こった場合でも、請求された残業代から店長手当として支払った分は相殺をすることができる。

尚、店長手当でカバーされる残業時間は、多くても45時間程度に設計し、実残業時間も、それを超えないように対応することを推奨したい。1ヶ月45時間を超える時間外労働は、従業員に心身疾患が発生した場合、業務上によるものと認定されるひとつのラインであり、月45時間を超える残業が恒常的に続くのは、「安全配慮義務」の観点からも望ましくないのだ。

人件費を抑制することの対価として、従業員満足度の観点からも、安全配慮義務には最善の努力を尽くしたいものである。


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