昨日ダンダリン第6話が放送されたが、ドラマの中に登場した零細部品会社の社長が「うちは火の車なんだ!」と叫んでいたのが私は印象的であった。法的に通るかは別にして、その気持ちに共感できるものがあったからだ。
ドラマに登場した会社はおそらく自動車部品関係の会社ではなかろうかと想定されるので、自動車業界を前提に話を進めると、大手の完成車メーカーはリーマンショックを乗り越え売上や収益が回復しつつあるが、恩恵を受けているのは完成車メーカーと1次下請メーカーくらいまでで、2次下請、3次下請といったピラミッドの末端までは、なかなか景気回復の実感が行き届いていない。その理由は、既に輸出型のビジネスモデルは変革を迫られ、生産活動の主戦場は海外に移っているからだ。 日本最大の製造業であるトヨタ自動車を例にとってみよう。リーマンショック前の2006年の自動車生産台数は902万台(トヨタ、ダイハツ、日野の合計)で、うち国内生産が509万台と半分以上を占めていた。ところが直近の2012年の生産台数は991万台と全体が100万台近く増えているのに、国内生産は442万台に縮小してしまっている。第2位の自動車メーカーである本田技研工業についても同様の傾向で、2006年の生産台数363万台のうち国内生産は133万台であったのに対し、2012年の生産台数411万台のうち国内生産は103万台にとどまっている。 安倍政権誕生以降、極端な円高は是正されつつあるが、日本国内の市場自体が縮小していることに加え、将来の為替変動によるリスクに備えるため完成車メーカーは輸出主導型よりも海外分散型の生産体制を目指しているので、日本国内の生産が回復するのは構造上限定的であろう。加えて、例えば本田技研工業がタイやインドで現地生産の新興国専用車「BRIO」を発売したことに象徴されるように、新興国での需要が急拡大していることも自動車メーカーが海外での能力拡大を重視する要因になっている。 この結果、現在自動車業界で何が起こっているかというと、完成車メーカーの海外シフト合わせ、これに追従できる体力をもった一次下請部品メーカーは、完成車メーカとともに海外拠点を次々と設立しているのだ。トヨタ自動車系列であればデンソーやアイシン精機、本田技研系列であればケーヒンやショーワなどが一次下請メーカーとしては有名であろう。デンソーやアイシン精機は1兆円を超える事業規模なので、「下請」という言葉では収まり切らず、「ビジネスパートナー」という表現のほうが妥当なのかもしれない。 ところが、追従できない2次下請、3次下請といった中小零細企業は国内に取り残されてしまい苦しい立場に追い込まれている。国内の生産台数が縮小していることだけでなく、日本で生産した部品を輸出して海外の完成車メーカーの工場へ納入することで仕事量を確保しようとしても、海外現地のローカルメーカーとは相見積で勝負にならない。日本人の人件費は高い上、輸送費まで負担しなければならないからだ。このようにして、それまで日本で行われていた仕事が海外へどんどん流出していってしまう構図がリーマンショック以降は続いている。 さらに「泣きっ面に蜂」なのは、日本国内では大型車や高級車は売れず、価格の安い軽自動車やコンパクトカーが売れ筋となっていることだ。例えばコンパクトカーの代表格である本田技研のフィットは120万円くらいからラインナップがあるが、同社の大型セダンであるアコードは300万円台後半からのラインナップとなっている。すなわち販売価格に3倍ほどの開きがあるわけだ。 もちろん、フィットとアコードは比べるまでもなく、内装やエンジンの性能は全く異なったものであるが、おそらく2次下請や3次下請の会社が担当していると思われるネジやナットのような小さな部品は、フィット用とアコード用で3倍も原価が異なるとは思えない。そうすると、アコードもフィットも売れていた頃は完成車メーカーもネジやナットをそれなりの値段で買ってくれたのだろうが、台当たり利益の小さいフィットしか売れないということになると、下請メーカーに対する完成車メーカーからのコストダウンの圧力が強まることは想像に難くない。場合によっては、汎用性のあるネジやナットなら海外からの輸入に切り替えてしまうかもしれない。 ややステレオタイプな表現もあるかもしれないが、大きく捉えると以上が国内の中小零細製造業が直面している現実だ。海外のメーカーでは真似できないような特殊な技術を持った会社でない限り、国内市場の縮小の影響から逃れることは難しい。
このような厳しい経営環境の中、ダンダリンで出てきた部品会社の社長は人件費の削減のために外国人労働者を騙しながら働かせており、最低賃金を下回る賃金(時給400円)しか支払わず、時間外手当も付けていなかった。しかし、これは完全に違法である。現在の入管法の元では、1年目から日本人労働者と同様に労働基準法が適用されるし、労働保険や社会保険への加入義務も日本人と同様だ。 「労働者」ではなく「研修生」という名目で受け入れて、OJTという形で働いてもらうことは出来ませんか?という相談を受けることもあるが、これも認められない。確かに「研修」という資格で在留すれば労働基準法の適用除外であるが、現行の入管法のもとで「研修」として認められるのは、座学を中心としたものであり、実習を行うにしても、指導を受けながらの試作品の制作など限られた作業しか行うことはできない。工場の量産現場での工数応援などは「研修」として認められる余地は無いであろう。結局のところ、この「研修生」という制度は、例えば大企業の海外現地法人で採用した外国人労働者を日本の工場で勉強させる、といったような場合にしか利用できないということだ。 結局のところ、人件費の節約を目的に外国人労働者を雇おうという考え方自体が、そもそも成り立たないのだ。日本人と同じ内容の仕事をしているのに外国人だからといって給料が安いのは、労働者の均等待遇を定め、国籍での差別を禁止している労働基準法第3条に対する違反にも該当する。 ドラマの中で段田凜は、社長に対して、外国人労働者を適正な労働条件で働かせるよう指導したが、それに対する社長の反応は「そんなことをしたら会社が潰れてしまう!!」であった。段田凛は社長の剣幕にも怯まず「あなたの経営能力が足りなかったからこうなったのだ!」と言い返していたが、ここまで見てきたように中小零細企業が置かれている経営環境を考えると、段田凜も少々言いすぎかな、という気がしないでもない。 私個人の意見としては、労働基準法に違反して時給400円で外国人労働者を働かせること自体は決して許されることではないと思うし、さらに言えば、外国人に限らず、日本人に対しても、経営が苦しいからということで残業をしても時間外手当を支払わなかったりしたら、最低賃金を下回ってしまうかもしれない。しかし、このような場面においては、多くの経営者は搾取している訳ではなく、役員報酬を0にしていて経営者自身も苦しいのだ。 あらゆる手を尽くしても、赤字状態を解消することができないのであれば、労使ともに傷口が深くなる前に会社を精算することも正しい道の1つだと私は思う。時代のニーズや経済環境は刻々と変化していくので、ひとつのビジネスモデルが永続することは難しい。構造的に建て直しが不可能なのであれば、撤退する勇気が必要だ。 国としても、大きな産業構造の変化が起きている今、次の時代を支える高付加価値な新しい産業の誕生を後押しするためにも、撤退する者が安心して再出発できるようなセーフティーネットをしっかりと整備していくことが必要であろう。 特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵 ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |