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バイアス(偏見)がかかる判断とは?

突然ですが連想ゲームです。書く必要はありませんがイメージしてください。

1. 銀行員=
2. AB型=

いかがですか?この連想ゲームで先入観とか、もしくは英語でいうステレオタイプと言われる少し偏った考え方をしてしまってませんか?でも、無駄に複雑なことを考えるくらいなら「直感的に判断してしまえ!」というのが人の気持ちですよね。銀行員であれば、「真面目だろうな」と思い、AB型であれば「うわっ!二重人格かよ。。。」と思う人が多いです。そのおかげで、AB型の私は、飲み会の席で自分の血液型を言うと必ず場が一瞬凍りつきます。

そこで、本日はこういう「思考の近道」をすることは、選択や決定の誤りに繋がる可能性があるのだということを(皮肉を込めて)伝えたいと思います。

経験が持つもろ刃の剣的性質

行動経済学の分野で2002年に初めてノーベル経済学賞を取ったのが、ダニエル・カーネマン教授(プリンストン大学)でした。彼は、既に他界してしまった共同研究者のエイモス・トヴェルスキー氏とともに、経済学で大前提となる期待効用理論に真っ向から対抗した「プロスペクト理論」を提唱します。簡単に言うと経済学と心理学を融合した新しい学問です。当然、投資家心理もその対象範囲になるわけで、カーネマン教授の理論は今も世界の株式市場に非常に大きな影響を与えています。

その理論の一つが思考バイアス(別名:ヒューリスティック-Heuristics-)と呼ばれるもので、先ほどの連想ゲームの例でいえば、ある対象物のイメージを人は強烈に頭に残しているため、偏って判断してしまう傾向を言います。例えば、違う連想ゲームを挙げると皆さんの印象はどうでしょう?

1. デスクで姿勢良く仕事をしている人
2. デスクで暇そうにくつろいでいる人

大半の人が前者に良い印象を、後者に悪い印象を持つ人が多いのではないでしょうか?しかし、前者はただ仕事が遅く生産性が悪い人だから一生懸命仕事をしていて、後者はものすごい仕事が早い理由でくつろいでいる可能性もあるわけです。

カーネマン教授は、この思考バイアスの発生原因は、代表性(Representativeness)と利用可能性(Availability)の2つからだと主張しています。要約すると、”代表性”とはその対象の本質調査や分析を省き、判断材料を自身の経験から一番当てはまりの良いもの(典型的=代表的)を自動的に選択する。そして、”利用可能性”とは、自身の経験がテレビや新聞など一番強烈に印象に残ったものから吸収されてくるということを指しているわけです。

この代表性と利用可能性から発生した思考バイアスで、我々日本人が持つある国に対しての印象が影響を受けてしまっていることをご存知でしょうか?

ギリシャに対する偏見と事実

エーゲ海を見渡せ、世界有数の観光スポットであるギリシャはユーロ危機の発端となった国でした。国の債務状況をごまかしてユーロに加盟し、甘い汁を吸うだけ吸ってユーロ危機の引き金を引いた戦犯に、メディアが容赦なくギリシャ叩きをしたことは、未だ記憶に新しいと思います。ところが、いつしかメディアは、ユーロ危機の原因をギリシャの公務員の多さや働かない国民性によるものだと触れ始めます。

皆さんのギリシャに対するイメージはどうでしょうか?

ギリシャ問題をあまり深く知らないという人でも、先に挙げた情報で「あー怠け者が多いんだな」という印象になったのではないでしょうか?

もちろんこれは全てメディア攻勢によって刷り込まれた印象でしかありません。以下のデータがそれを物語っています。

①公務員が多い⇒ギリシャは約25% 日本が異様に少なく労働人口の5%(特殊や独法含)、フランス=約27%、その他北欧(スウェーデンやノルウェー等)は30%近く
②働かない=2008年のOECE統計でギリシャ労働時間は4位。日本=18位、フランス=32位、ドイツ=34位

つまり先ほどの例で挙げた通り、ギリシャは生産性が異常なほど低い国だと考えるのが妥当で、必ずしも怠け者であるということではないと分かります。行動経済学の話なので、詳しいユーロ経済の話は別書に譲りますが、ギリシャは国内の生産設備にお金をかけてこなかったことが原因で、生産性が悪い国になってしまったと理解する事が正しいわけです。

我々に課せられる教訓

ユーロ危機に火をつけた彼らを攻めたい気持ちはわかりますが、事実以上の間違った印象を植え付けていくとその経済を更に悪化させていきます。思考バイアスは、その人の経てきた経験から構築されており、判断が狂う場合が多々あります。なので、ギリシャのような事態は極力避けるべく、「何が事実なのか?」が判断できる能力(データを読める力等)を養うことは必要だとつくづく思ったりする訳です。

くれぐれも、その人がAB型だったとしても直観に頼って判断することは禁物ですよ。それは、あなたの直観が間違っているかもしれないですからね。

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JB SAITO 経済&英語コーチ

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