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年末の紅白歌合戦で大島優子さんがAKB48からの卒業を発表したのは大きなサプライズであった。私も実家でコタツに入りながら紅白を見ていたが、このタイミングで発表か!と驚いたものの、「なるほど」という納得感もあった。そこで、今回の記事では、社会保険労務士として、AKB48メンバーの「卒業」について、企業経営の観点を踏まえて論じてみたい。

AKB48の卒業メンバーが口にするキーワード

AKB48を卒業することを決意したメンバーが卒業について語る際、必ず触れるキーワードがある。これまで卒業していった中心メンバーには、前田敦子さん、板野友美さん、篠田麻里子さんなどがいるが、皆そのキーワードに触れていた。今回の大島優子さんももちろんだ。

例えば、前田敦子さん卒業の際の秋元康プロデューサーのGoogle+には
何回か相談されたので、もちろん、引き止めましたが「最終的には自分で決めなさい」と話しました。
2012年3月26日付 Google+投稿
と記されている。

また、板野友美さんの卒業が明らかになった際には、
板野さんは「以前から秋元(康)先生には卒業のことは相談していたんですが、インタビューの中で本音が出てしまって、秋元先生に確認したら『いいよ』と言うことで、ここで発表することになりました」と経緯を説明。
2013年2月1日付 毎日新聞デジタル
と報道されている。

篠田麻里子さんの卒業に関しては、本人がテレビ番組で発表しているが、その番組内容についてまとめたニュースサイトによると、
卒業に関して秋元康・AKB48プロデューサーに1年前から相談しており、秋元から「いつ発表してもいいよ。自分のタイミングっていうのもあるし、みんな育ったっていうタイミングで言ったほうがいんじゃない」とアドバイスを受けていたことも告白した。
2013年6月13日付 ビジネスジャーナル
と篠田さんは語ったそうだ。

そして今回の大島優子さんの卒業に関しては、
前々から卒業は考えていましたし、紅白に出るのも最後かと思い、直前に秋元(康)さんと相談して、秋元さんがNHKの方と話し合いました。しっかり許可を取りました。
2014年1月1日付 産経新聞
とのことだ。

ここまで読んでいただければ分かると思うが、前田さん、板野さん、篠田さん、大島さん、全員に共通しているキーワードは、秋元康プロデューサーへの「相談」である。

「相談」の重要性

AKB48という芸能プロダクションが存在するわけではなく、複数のプロダクションに所属するメンバーが集まって秋元康プロデューサーのプロデュースを受けて活動しているというのがAKB48の姿なので、実際の法律関係はもっと複雑なのだが、ここでは秋元康プロデューサーとAKB48メンバーの関係という観点でシンプルに考えてみよう。

暗黙のルールが機能しているのか、秋元康プロデューサーの人徳なのかは分からないが、少なくとも主要なメンバーが卒業する際には、あらかじめ秋元康プロデューサーに相談して、「発表の時期」及び「卒業の時期」を決めるという流れが徹底しているように思える。これはAKB48という組織を運営する上で非常に重要なことであると私は考える。

例えば、前田敦子さんが卒業したころのAKB48は、前田敦子さんと大島優子さんの2枚看板時代であった。このとき、万一、突然大島さんまでもが卒業すると言い出したら、ぽっかりとトップが抜けた状態になってしまっていたであろう。しかし、前回の総選挙で指原莉乃さんが大島さんを破って1位になり、3位の渡辺麻友さんも10万票の大台で2位の大島さんに続き、松井珠理奈さん、松井玲奈さん、山本彩さん、渡辺美優紀さんといったSKE48やNMB48など姉妹グループのメンバーも育っている中で、大島さん自身も卒業のタイミングを考え、秋元康プロデューサーも「今ならば大丈夫」と、了解をしたのではないだろうか。

篠田麻里子さんの卒業に関しても、上記、秋元康プロデューサーからのアドバイスの文中にあった「みんな育ったっていうタイミングで」という言葉には、グループ最年長の篠田さんに対して、「卒業前に自分の経験を伝えて、後を任せられる後輩を育ててくれ」というメッセージが込められていたのだと想像できないだろうか。

このように見ていくと、秋元康プロデューサーは、AKB48のメンバーと対話をしながら、メンバー本人の希望を踏まえつつ、グループ全体にとっても最適なタイミングで、卒業するメンバーを送り出すよう、上手に状況をコントロールをしているように思える。

秋元康プロデューサーが凄いのは、作詞家、放送作家としての才能にとどまらず、AKB48やその姉妹グループを含めた、AKB48ファミリーを長期間に渡って維持発展させている経営手腕にもあるのではないだろうか。

一般企業においても「相談」できる環境を

ここで話は変わるが、一般企業においても、退職に関するルールの整備や、社員が退職を考えた際にあらかじめ経営者や上司に相談をできる環境を作っておくことが重要であるのは、AKB48の卒業と同じであると私は考えている。秋元康プロデューサーを社長に、AKB48のメンバーを社員に置き換えてイメージしてみてほしい。

民法及び労働基準法で考えると、法律通りに言えば、社員が退職するに当たっては、意思表示をしてから合法的に退職が出来る日までの期間は、賃金が週払い・日払いの契約の場合は2週間、月払いの契約の場合は半月~1ヶ月程度にすぎない。それに加え、手付かずで残っている有給休暇を消化することを社員が主張した場合、退職の意思表示と同時に「明日から出社はしません」ということになって、会社は引継ぎや明日からの仕事の代替要員もままならない状態に陥りかねない。どんなに忙しくても、社員が同意をしない限り、会社が退職日を延長することは不可能である。

人材が豊富で人員のやり繰りが利きやすい大企業はともかく、中小企業では1人の抜けた穴が経営に及ぼす影響は大きい。その人物が中核的な業務を担っているのならなおさらだ。

逆説的な言い方になるが、私自身の経験からも「辞めやすい雰囲気」の会社のほうが、結果的に人員のコントロールはうまくいっていると感じる。「辞めたい」と言ったとたん罵声を浴せたり、損害賠償をすると脅すような会社では、社員は萎縮してしまって、法律ギリギリの期間に退職を申し出たり、ある日突然「退職します」という電話がかかってきてそれっきりになってしまったりと、従業員が退職するにあたってバタバタするのはいつも風通しの悪い会社だ。

社長とのサシ飲みの席や、休憩時間に喫煙室でタバコを吹かしながら、「社長、実は、来年くらいに退職しようと思っているんですけど・・・」というような相談ができる雰囲気ならば、会社としてもいちはやく退職希望を知ることができるし、社員と対話をしながら、代替要員の確保や引継ぎを踏まえて退職日を調整することもできる。

現在の労働基準法のもとでは、法律論だけで社員の退職をコントロールすることは難しい。そうなってくると、やはり大切なのは、社員に悩み事や困り事などがあれば、気軽に相談できるような仕組みや社風を、会社として意識的に作っていくことではないだろうか。

そのような仕組み・社風があれば、従業員の退職に関したことに留まらず、セクハラやパワハラの早期発見、不正行為の内部通報のきっかけなど、様々な側面でプラスに働くはずである。

《参考記事》
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特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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