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平成26年4月から国民年金の2年前納制度が始まる。本制度を利用することに対するメリット、デメリットを検証してみたい。

メリット1 節約効果がある

政府のホームページなどで告知されているが、2年前納した場合に得られる保険料の割引は14,000円ほどになるとのことだ。この14,000円の割引が大きいか小さいかは人によって感じ方は違うかもしれないが、次のように理解してみてはどうだろうか。

平成26年度以降の保険料はまだ発表されていないので、平成25年度の保険料ベースで考えると、24ヶ月分の保険料を普通に納めた場合の納付総額は、15,040円×24ヶ月=360,960円である。

ここで、仮にこの360,960円を銀行の定期預金に預けたら、2年後に利息はいくら付くかを考えてみてほしい。1月21日現在の三菱東京UFJ銀行の2年物のスーパー定期預金(単利型)の金利は0.03%である。360,960円、耳を揃えて定期預金に入れたとしても、金利が0.03%では、2年後に付く利息はたったの216円である。そして、この雀の涙の216円に対してまで利子所得として20.315%が源泉分離課税されるので、最終的に手元に残るのは僅か172円である。缶コーヒーを1本買ったらおしまいである。

とするならば、2年間定期預金で寝かせても172円にしかならないこのご時世に、14,000円の節約できるのは、かなり大きなメリットなのではないだろうか。

メリット2 柔軟に社会保険料控除が使える

専門的な説明は省くが、2年間保険料を前納した場合には、2年分の保険料を丸ごと、その年の社会保険料控除の対象として計算することができる。自営業の方やフリーランスの方が、「いや~、今年はちょっと儲かり過ぎそうだな。」というときの所得の調整のアイテムとして使うことができるわけだ。

ここで逆に心配なのは、2年分の保険料を前納したが、社会保険料控除をする前の時点でその年の所得が赤字になってしまった場合に、2年分の社会保険料控除をドブに捨てることになってしまうのではないかということだ。

しかし、この点に関して心配は無用である。所得税法の通達には、「その全額をその年において支払った社会保険料等の金額として差し支えない。」という形で記載されており、これを逆に読めば、「2年目に係る前納分は、翌年の社会保険料控除に繰越すことも可能である」、という意味なのだ。保険料を2年分前納した年度の所得が、黒字なのか赤字なのかを踏まえ、柔軟に対応すれば良いというわけだ。

デメリット1 前納した期間は保険料の減免が受けられない

次に、保険料を前納した場合のデメリットであるが、まずはその期間は保険料の減免が受けられなくなってしまうということである。

国民年金には、所得等によって、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除といったように、保険料の減免を受けられる制度があるのだが、保険料を2年前納してしまうと、事後的に減免を受けられる事情が発生しても、減免を申請して保険料を返してもらうということができなくなってしまう。

例えば、保険料を前納した時点ではフリーランスとしてしっかり稼いでいたが、その後、大きな病気をして全く働けなくなってしまった、というような場合が想定されよう。このような場合であっても、保険料を前納した期間に関しては、減免は一切受けられない。

デメリット2 口座振替しか対応していない

国民年金の保険料の納付方法には現在、口座振替、クレジットカード払い、金融機関・コンビニ等での窓口払い、ネットバンキング経由での電子納付、の4種類がある。

この中で意外に人気があるのはクレジットカード払いだ。その理由は、クレジットカードの種類によってはポイントが貯まることである。例えば、楽天カードであれば、100円の利用で楽天スーパーポイント(楽天市場で現金と同じように使えるポイント)が1ポイント賦与される。毎月払いであるならば、平成25年度の保険料ベースで1,800ポイント程度が貯まる計算になるであろう。

ところが、2年前納制度を利用する場合には、現在のところ口座振替しか対応していない。したがって、クレジットカードで保険料を支払い、ポイントを楽しみにしている人にとっては2年前納が口座振替のみだというのは残念な話である。

総括

以上のように、国民年金保険料2年前納制度の主なメリット、デメリットを並べてみたが、多くの人にとっては、デメリットよりメリットのほうが大きいのではないかと思われる。ただし、無理に前納をして足元の生活が苦しくなってしまっては本末転倒なので、無理なく前納できそうな収入や貯蓄があるのならば、前向きに検討してみる、というスタンスで良いのではないだろうか。忙しい人にとっては、前納によって保険料の納め漏れを防いだり、毎月支払いに行く手間を省いたりというメリットも得られるであろう。

《参考記事》
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特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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