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「明日、ママがいない」から見る行動経済学

芦田愛菜主演のドラマ「明日、ママがいない」はその内容が物議を醸してスポンサー全社が下りてしまうという事態に発展してしまいました。昨今では、番組制作もスポンサー配慮の番組が多くなってしまい、制作の時点で当初の主張が曲げられてしまうことは頻繁に起きているようですが、最終的にこのドラマも内容の改善・変更をすると日テレが発表することになりました。

スポンサーの立場からすれば、視聴者に対して会社イメージを損ねるような番組をサポートしていると思われたくない。そしてそれよりも企業が恐れるのは、我々視聴者が物事の判断する際に、一部の様子だけを見て一瞬で決めつけてしまう「利用可能性ヒューリスティック」という習性なのです。

「利用可能性ヒューリスティック」とは、自分の記憶に鮮明に残った経験や出来事で、物事を判断してしまう人間の習性をいいます。そこに、情報を深く理解しようとする意識がないために、人はそれを事実だと思い込んでしまう。例えば、飛行機事故の死亡確率が1100万分の1に対し、クルマの事故死率が5000分の1なのにクルマのほうが安全だと信じる人たちが大多数を占める。(実際私もハマっており、未だに飛行機が嫌いです)

「利用可能性ヒューリスティック」にハマればこの意識を排除することは困難とされているため、企業もブランドイメージ維持のために注意しているところだそうです。今回のドラマについても同じことが言えるのではないでしょうか?

経験が邪魔をする

ありふれた情報でも、ニュアンスや表現が変わるだけで人の印象はガラッと変わるものです。「利用可能性ヒューリスティック」を利用したコマーシャルやマーケティング等の企業活動は、頻繁に使われるものです。しかし、反面、この習性に便乗して、過渡な情報バイアスをかけ人々の行動をコントロールするケースもあるので注意が必要です。結果的に、「問題がない危険を問題ととらえ、看過できない危険を看過してしまう」となるのです。

さて、「利用可能性ヒューリスティック」の代表例が、毎日どこかのメディアで取り上げられる「日本経済破綻論」でしょうか。こういった情報が大手メディアから配信されるだけで「ホントにそうなったら?」と不安な心理状態になってしまうでしょう。

日本経済破綻論と利用可能性ヒューリスティック

日本経済が破綻する懸念材料は、財政状況が世界最悪であることだと言われます。経済ニュースでも有名大学の教授や証券会社の専門家達が「財政状況は債務超過状態で過去最悪です。このままだと、海外のヘッジファンドが国債売りを仕掛ければ金利上昇して、金利が払えなくなって、日本経済は破綻する」と主張します。経済に精通していないと、「財政状況が債務超過」「過去最悪」「日本経済が破綻する」の3つぐらいしか印象に残らないのではないでしょうか? その衝撃的な情報を毎日聞かされれば全開で人の心に刺ささり、暗澹たる気持ちになる事間違いなし。でも本当にこの情報って正しいのでしょうか?我々が「利用可能性ヒューリスティック」にハマっていないか検証してみます。

ここが変だよ「日本経済破綻」論 その① 財政状況や債務超過に異議あり

まず、いくらわかりやすさを追求しようとしたとしても、国の財政に「債務超過」という言葉が適当なのか不明です。会社は債務超過=倒産の危機を示すわけですが、国の倒産(破綻/デフォルト)は、債務超過の度合いで決まるわけではなく、借金の借り換えができなくなった瞬間に決まります。その借金が国債なのですが、日本の国債って日本人のお金が投資された円通貨(自国通貨)の国債なんですね。結論から言うと、自国通貨建てでデフォルトした国はありません(ロシアはちょっと変わったデフォルトをしましたが。。。) しかし、外国人のお金が投資された国債の場合は話が別です。外国人相手では、返さなくてはいけない借金は期日までに耳を揃えて返さなければいけません。

メキシコ(1994)、ロシア(1998)、アルゼンチン(2001)。IMFの介入で事実上デフォルトのタイ、インドネシア、韓国(1997)。ECBがデフォルトでないと言い切るギリシャ(2011)。これらの国々は外国からの資金依存度が非常に高かった。

結局「自国民から集めたお金が自国に使われたか?」「外国民から集めたお金が自国に使われたか?」の違いが、デフォルトするかしないかを決めることになります。日本の場合約90%以上が自国から集められたもの、そして日本政府が外国通貨での国債は発行していない、そんな国がデフォルトするなら、そのずっと前に多くの国に警告サイレンが鳴っているのではないのでしょうか?

裏付けではないのですが、2002年4月に日本が米国格付け会社から格下げされたときに、その3社に対して猛反撃した現日銀の黒田総裁(当時財務官)のコメントを以下に載せておきます。

「日本は世界最大の貯蓄超過国であり、国債はほとんど国内で消化されている。また世界最大の経常収支黒字国であり、外貨準備も世界最高である。」


ここが変だよ「日本経済破綻」論 その② ヘッジファンドが仕掛けてくる!

実は、日本国債市場に玉砕覚悟で挑戦する2流のヘッジファンドを銀行や証券会社は楽しみに待っています。現役時代、「日本経済は危険だ」と新聞の一面にすっぱ抜かれたファンドのコメントを見ながら、よく債券トレーダーと「またカモが来るか?」と笑っていました。その理由は、銀行や証券会社は、たくさんお金があるのに低金利の国債しか投資できないことにうんざりしているからです。2流ヘッジファンドの売り仕掛けで金利が上がると、銀行証券たちは待ってましたと買いに群がり、あっという間に価格が戻ってしまい、そのうちヘッジファンドたちは資金が尽きて退場していきます。そうやって、有名なソロスもチューダーも日本国債戦略には失敗してきました。

ちなみにリーマンショック前のヘッジファンドは、例えば100億円の担保で借りた1000億円を使って市場に勝負を仕掛けていました。ところが、リーマンショック後はそういうヘッジファンドにお金を貸していた投資銀行ゴールドマンとモルガンスタンレーが商業銀行(お行儀のよい銀行)になってしまったため、自然に日本国債に勝負できるヘッジファンドは消滅していきました。

ここが変だよ「日本経済破綻」論 その③ 金利が上昇したら!

金利が変動するというとまるで毎日のように変わっていくイメージを持つことでしょう。しかし、日本政府が我々民間からの借金している国債のほとんどは固定金利です。変動金利と言われるものは全体の15%しかありません。1年に以内に償還(返済してね)という国債も約14%程です。ということで、金利がすぐ上がることはありません。

「問題がない危険を問題」と考えてませんか?

「利用可能性ヒューリスティック」の意識と事実はかけ離れています。人の記憶とは、日を追うごとに他の情報と混ざり合って上書きされるため、人の意識はコントロールされやすいと認知心理学者で記憶研究の大家であるエリザベス・ロフタスは言います。

「明日、ママがいない」議論は、企業のその敏感な対応から、人の「利用可能性ヒューリスティック」を再認識させてくれました。そこからわかることは、大切な意思決定をするときには、自分が印象に残った出来事や経験に頼りすぎていいないかを強く意識することが大事かもしれませんね。


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JB SAITO 経済&英語コーチ

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