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内定を取るためのテクニック本は様々あるが、私は、ハウツー本で身につけたテクニックを振りかざすよりも、「正社員とは何か」ということの本質を理解することのほうが、内定を得る近道なのではないかと考えている。本稿では、日頃、我々が当たり前のように使っている「正社員」という言葉について、そこに込められた意味を実務に即した形で掘り下げてみたい。

採用活動は会社も学生も真剣勝負

会社が正社員を雇うというのは、学生が思っている以上に大変なことである。採用活動において多くの費用と人員をかけているし、いちど正社員として雇った以上、解雇をするのは日本の労働法上では非常に困難である。だから、採用における失敗は許されない。会社は、正社員を採用するのに命をかけている、と言っても過言ではないであろう。

就職活動をする学生も、そのことを受け止め、会社が求めている正社員像とはどのようなものなのだろうか、ということに想いを馳せてほしい。私のこの記事が、どれだけヒントになるかは分からないが、私は、会社が求めている正社員像は、大きく整理すると3つのポイントがあると考えている。

明日の会社を背負う

第1に、正社員は「明日の会社を背負う人」である。正社員になったら、日々の仕事をしている中で、ただ言われたことをやるのではなく、どうすれば今日よりも明日、会社が少しでも良くなるのかを考えなければならない。

例えば、4時間以内に伝票を100枚入力する、という仕事があったとしよう。アルバイトや派遣社員がこの仕事を任せられたなら、指示されたとおり、4時間以内にミスなく100枚の伝票入力が終われば100点だ。しかし、正社員はそれでは足りない。作業をしながら、さらに頭を働かせ、「このやり方では4時間かかるけど、こうやったら3時間で終わるのではないか」とか「そもそも紙の伝票自体が不要で、イントラネット上にフォーマットを置いて、各人が入力する仕組みにすれば、いまやっている作業自体が不要になるのではないか」とか、会社のために日々改善を考え、提案できるのが正社員である。正社員として高い給料をもらっていながら、アルバイトと同じことしかできない(しようとしない)のであれば、言い方は悪いが、「給料泥棒」である。(逆に、アルバイト待遇にも関わらず、正社員並の仕事を押し付ける会社があれば、それは「搾取」であろう。)

事務作業に限らず、製造現場でも同じだ。製造業の会社に就職すると、大卒の幹部候補社員であっても、最初は現場実習という形で工場のラインに入って、期間工や派遣社員と同じ仕事をすることが多い。このとき、正社員として入社したからには、ただ黙々と作業をしているだけではダメだ。作業をしていて辛かったことや、ミスをしてしまったことや、怪我をしそうでヒヤッとしたことなどがあれば、「何故そうなったのか?」と疑問に持ち、原因を考えなければならない。研修が終わった後、例えば、自分が工場のレイアウトを設計する部門に配属されたとしたら、現場で作業した経験を元に、「こうすれば現場の人が作業しやすいだろう」という意思を入れることが出来る。そうして、工場がより安全で快適になっていくのだ。

つまり、正社員は、日々の仕事を無難にこなしているだけでは「正社員」という身分でいる意味が無い。今日よりも明日、明日よりも明後日、少しでも会社を良くして行こう、という考えを、たとえ平社員であっても持ち、自分ができる改善を、ほんの小さなことでも日々積み上げていくことが期待されているのだ。そのような役割が期待されているからこそ、会社は正社員と「期間の定めの無い雇用契約」を結んでいるのだ。

会社のことを自分のことのように考える

第2に、正社員は「会社のことを自分のことのように考えられる人」である。正社員は何故、法律上も簡単には解雇されず、強い身分保障があるのかを考えてほしい。世の中は何事もGive&Takeである。強い身分保障の対価として、仕事が忙しいときには残業や休日出勤は当然しなければならないし、会社の人事異動に従って転勤や海外駐在もしなければならない。

それが嫌ならば、正社員にはなれないし、仮になれたとしても責任ある仕事は任せられないであろう。

もちろん、いわゆる「社畜」になれという意味ではない。有給休暇は労働者の権利であるから取得することを躊躇する必要はないし、育児や介護を無視してまでモーレツ社員になる必要もない。

言いたいことは、正社員ならば「会社の都合」を「自分の都合」と同じくらい大切に考えなければならないということである。学生時代のアルバイトであれば、「来週の水曜日はコンパがあるので休みます」とか、自分の都合だけを言えばよかった。しかし、正社員であれば「来週の水曜日」に有給休暇を取りたいと考えたなら、水曜日までにやり切らなければならない仕事は何があるのかとか、自分が不在の水曜日、緊急の電話がかかってきたら誰にフォローしてもらうのかとか、「責任ある休み方」をしなければならないということだ。

その水曜日は会社全体が忙しくて、自分の予定は翌日でも差し支えないならば、休みを変更するということも当然考えるべきである。労働基準法上、会社には「時季変更権」という権利が認められていて、社員が有給を申請してきたとき、その日に休まれると会社の業務に差支えがある場合、会社は「その有給は別の日に取得しなさい」と命じることができる。正社員として仕事をしていて、有給を申請したときに、会社から「時季変更権」を申し渡されたら、それは恥ずかしいことだと思わなければならない。なぜならば、自分は仕事が忙しい日だということを知らなかったか、知った上でどうしても有給を取りたいと思ったならば事前調整が足りなかったか、ということだからである。

会社全体のことを考える

第3に、正社員は「会社全体のことを考えられる人」である。大企業ではとくに分業化が進んでいて、若手社員が会社の全体像を掴むことは難しいかもしれない。しかし、少なくとも、今自分が任されている仕事が、どこにどうつながっているのか、くらいは考えてほしいものである。

例えば、自分が経理課に所属していて、上司から、「現在、売掛金に上がっている請求書を整理してほしい」という指示を受けたとしよう。自分がアルバイトや派遣社員であれば、その仕事を粛々と終わらせ「整理が終わりました」と報告すればよい。

しかし、正社員であれば、そのような「作業」に留まってはならない。請求書には、入金期限が書かれているので、期限が到来しているにも関わらず、未入金になっている請求書がないか、最低限それくらいはチェックしながら整理しなければ、正社員の仕事をしているとは言えないであろう。勿論、逐一上司から指示されなくても、である。

会社は、いくら大きな売上が上がったとしても、その売上を回収することができなければ、資金繰りが悪化してしまう。資金繰りが悪化したら社員への給料も払えないし、銀行への返済もできずに、最悪倒産してしまうのだ。正社員であれば、「売掛金が回収できなければ会社がどういうことになってしまうのか?」まで頭を回さなければならない。単なる作業者ではなく、「想い」を持って仕事に取り組まなければならないのだ。

請求書の整理を指示した上司に、「整理が終わりました。しかし、うち○件、金額にして△△円分の請求書について、期限が到来しているのも関わらず、未入金となっております。」と報告すれば、上司は直ちに営業部門の責任者のところへ行って、客先へ入金を促すようアクションを取ってくれるであろう。そして、入金期限をオーバーしたままになっている請求書があることを教えてくれた、その部下への評価や信頼は、大きく上がるはずだ。

結び

私の主観も幾分入っているが、私自身の10年近い社会人としての経験や、過去の上司から教えを受けたこと、現在社会保険労務士として関わっている事業主様との話の中から抽出すると、正社員として求められている人物像は、おおよそ以上のような考え方や行動ができる人材ではないかと思うのだ。

正社員とは何か、ということを理解し、「私は御社の正社員として責任ある仕事をしていきたいのです!」、という熱い想いを持って面接に臨めば、質問に対する受け答えの1つ1つにも力強いものが出てきて、面接官にも「彼(彼女)ならば正社員として活躍くれるだろう」という、熱意が伝わるのではないだろうか。

《参考記事》
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特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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