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下村文科大臣も出演する「恋するフォーチュンクッキー」の留学替え歌動画「トビタテ!フォーチュンクッキー」が賛否の波紋を広げているようですが、話題は話題を呼んでいる模様。もうすぐ動画再生回数46万回に達しようとしています。

「大臣がノリノリでワロタw」

このPV、日本各地に留学中の外国人学生をはじめ、海外留学中の日本人学生、留学促進を応援する各種団体職員などが出演し、AKB48のヒットソング「恋するフォーチュンクッキー(=恋チュン)」の歌詞を留学バージョンにした「トビタテ!フォーチュンクッキー(=トビチュン)」を歌い踊ります。「2020年までに海外留学生を倍増しよう」という文部科学省の留学促進プロジェクト『トビタテ!留学JAPAN』の一環です。

「トビチュン」はPV公開に先だって昨年末に開催された文科省肝入りイベント『第1回 Go Global Japan Expo』会場で既に披露されていますので、留学業界人の間ではよく知られた“業界ソング”。留学人カラオケでは、ついつい誰かが入曲してしまうという現象も一部に起きております。

ネット上の一般意見では「こんな動画作ってるお金あったら、留学の財政支援したほうがよい」「税金の無駄遣い」と言った反対論がある一方、「大臣がノリノリでワロタw」「ぱるるにしか目がいかない」「あのお堅い文科省がノリノリというのできたけど、おもしろいんじゃない?」などの動画コメントも寄せられており、ひとまず留学に関心がない層にリーチしたという点で一定の効果があることが伺い知れます。

こんな「僕」でもできるのか?

秋元康氏作詞の歌詞にも注目してみましょう。この曲の主人公「僕」にとって留学は「初めはただの夢だった」ようです。「遠い国を思い浮かべてた」だけの僕の姿から、歌は始まります。

明るいメロディーに勇気づけられるようにして、「僕」の心境はこんな風に変化をしていきます。

つけっぱなしのテレビのニュース
伝える世界情勢
ぼんやりと眺めていたら
傍観者で終わりそう
今の僕にできることは
トライ!トライ!トライ!トライ!ベイビー!
やってみよう


「僕」は、オリンピックで世界にチャレンジする同年代の姿でも見ながら、何かを考えたのでしょうか。それとも、内戦や貧困に関するニュースが目に飛び込んできたのでしょうか。あるいはパリの「ラーメンウィーク」イベント会場でフランス人が日本のラーメンを美味しく食べる姿に触発されたのかもしれませんし、ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝や入賞を果たした日本人若手ダンサーをまぶしく見たのかもしれません。「トライ!トライ!トライ!トライ!ベイビー!」というたかみなの声が「僕」の耳元に響きました。「やってみよう」と。

何度 失敗したっていいよ
今日より明日は近づいているんだ


「僕」にはまだ不安があります。留学に関心を持ったことのある人10人中7人は、思いとどまってしまうか、先送りにしてしまうと言われています。どんなに動画サイトで現地の様子を見ることができても、LINEでいつでも日本とつながってると言われても、留学の不安は簡単にはぬぐえません。現地で言葉が通じなくて笑われたりしないか、日本の学校を休んだり会社をやめたりして大丈夫か、日本の友だちや彼女と離れたら忘れられるんじゃないか・・・不安は留学をあきらめる「エサ」となって、次から次へと湧いて出てきます。心には「留学なんてやめておけ。やめておけ。」と第二の声がささやいてきます。

そんな「僕」に、峯岸みなみは、まゆゆは、「今日より明日は近づいているんだ」と珠玉の応援をくれます。そして、こう励ましてくれるのです。

世界は
全部 可能性だ
Hey ! Hey ! Hey !
冒険をしなきゃ
何も始まらない


「やめておけ。」という心の声に対して彼女たちは、何はともあれ「始めよう!」と言うのです。最後には、次の強い言葉で「僕」の精神を締めてくれます。

未来は
自分 信じること


しびれることを言ってくれるな、と思った人は、意外と多いのではないでしょうか。

「誰でも応援ソング」が共感を呼ぶ

ここのところ、社会のグローバル人材育成熱はグローバルエリート育成に偏りつつありました。「トビタテ!フォーチュンクッキー」はそれを万人のものに戻してくれているようにも見えます。

本来、グローバル教育とはエリートだけを育てるのではなく日本全体の底上げに注力すべきです。しかし、実情のグローバル人材育成論では誰もがやたらと高い英語力が必要で、リーダーシップとロジカル思考力と問題突破力と自己肯定力と、さらには日本の文化と歴史を知って・・・と、いつの間にかスーパーマン養成ムードになっています。多様性がキーであるべきグローバル教育は、気がついてみたら画一的な人材育成になっていなかったでしょうか。

そんななか「トビタテ!フォーチュンクッキー」は留学応援ソングの体をとりながら、実際には「僕らの挑戦、応援ソング」に聞こえます。留学する・しないに関わらず、グローバル人材育成の原点はここにあります。

この歌が、就職活動で悩む大学生に新しい目線を与えたり、人生一度も好きな女の子に告白したことのなかった男子に「冒険をしなきゃ何も始まらない」と勇気を与え、彼女を呼びだすきっかけになったとすれば、それこそが秋元氏の狙いだったかもしれません。

《参考記事》
秋元康氏の歌詞が秀逸!もうすぐ46万回再生の「トビタテ!フォーチュンクッキー」
「リスクをとれ。ビスケットが欲しいなら。」"Risk it to get the biscuit."
グローバル人材に日本史は必要か?~政府、高校で日本史必須化へ 若松千枝加
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留学ジャーナリスト 若松千枝加

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