3月6日、フジテレビ系でオンエアされた「奇跡体験!アンビリバボー」。その中で、北海道のローカルバス会社のエピソードが紹介されました。題して「幸せの黄色いバスが巻き起こした奇跡」。この『黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語』はその基となった本です。長期間、衰退の一途をたどってきた、北海道帯広市の十勝バスがどのように再生していたったのか、その様子がストーリー仕立てで描かれています。
十勝バスは、北海道帯広市に本社を置くバス会社です。十勝バスに限ったことではありませんが、地方のバス会社は経営が厳しいところが多いのが現状です。自家用車の普及によってバス利用者が減り、そのため減便せざるを得なくってさらに利用者が減る、という悪循環のサイクルが続いています。 多くは「公共交通機関」として行政から補助金が出ていて、それで何とか存続しているのが実態なのですが、その補助金も一定以上の利用者がいなければ打ち切られてしまします。 私は以前、ホテルや旅行という業界に従事していたことがあります。その時、バス業界とかなりお付き合いさせていただきました。そのためある程度、内情は知っているつもりです。札幌のような大都市ならいざ知らず、帯広の十勝地方を中心とするローカルバス会社が自力で再生を果たす、というのは並の努力ではできないことだ、というのは簡単に想像がつきます。 そんな中、十勝バスは、2011年、40年ぶりに「運送収入」で前年比プラスを達成しました。それはどうして可能だったのでしょうか。
本書を読む前、昨年の12月に、著者である吉田理宏さんと、この本の主人公である、十勝バス社長・野村文吾さんの出版記念トークショーに参加してきました。 「この話は事実に基づくフィクションです」 と注釈されていますが、トークショーを伺う限り、ほとんど「事実」なんだと感じました。 物語は、文吾さんが会社を継ぐところから始まります。父上で先代社長である文彦さんが「会社をたたもうと思う(会社更生法を申請する)」という話を聞き、文吾さんが会社に戻り、再建を担おうと決意します。 しかし、その後の展開に華々しいことはなにひとつありません。V字回復したわけでもありません。会社の雰囲気が変わり、業績が回復するまで10年以上の月日がかかっています。 その間の、文吾社長の悪戦苦闘、試行錯誤について書かれた本だと言っても過言ではありません。言い換えると、野村文吾社長の成長物語としても読めると思います。 ちょっと考えてください。「40年ぶりに業績が上向いた」ということは、40年間下がり続けてきたということです。そういう会社がどんな雰囲気になっているか、想像できるでしょうか。 普通の企業なら、とっくに廃業しているはずです。しかし、公共交通としての責任を担っている以上、そう簡単にやめられません。でも業績は悪化し続け、不本意ながらリストラの連続になる。そんな会社を立て直すのは並大抵のことではありません。 しかも文吾社長は、別な会社で「経営の勉強」をされていたわけではありません。跡を継ぐことを前提にせず、普通にサラリーマンとして働いていました。もちろん、そこで学んだことがのちのち活かされる、という面があることは本書を読み進めればわかりますが、しかし、再生請負人のような経営のプロが就任したのとはわけが違います。 でも、だからこそ、多くの中小企業の方には参考になるはずだ、と思います。よほどの大企業でない限り、白馬に乗ってカルロス・ゴーンのような経営者がやってくることはあり得ないのです。血道に、まさに「なにもない(なくなってしまった)自分たちに小さなイチを足して、積み上げていく」ことでしか再生は果たせないのだと思います。
あとがきにこう書かれています。 時代は今、リーダーシップのあり方を模索しています。 まさに「結局はどうしたらいいのか、何をしたらいいのか見えない」時代だと思います。多くのビジネス書は、大企業の成功体験をきれいにまとめていますが、それを自分事に引きつけて考えるには、自分たちとは差がありすぎる、と大多数の中小企業の方は思っているのではないでしょうか。 この本はそうした人たちに、ヒントを示してくれるはずです。まだまだやれることがある、と確信させてくれると思います。ストーリー仕立てで描かれていますから、手軽に読むことができます。読んでみれば、きっと勇気つけられ、そして、明日への活力が湧いてくるに違いありません。 《参考記事》 ■【読書】黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語/吉田理宏 ■【読書】小さな会社を強くする ブランドづくりの教科書/岩崎邦彦 ■「従業員満足」で企業業績は上がるのか? 中郡久雄 ■承継シリーズ 社長になる女性の最初の心得 小紫恵美子 ■事業承継をドロドロなものにしないために大事なこと 小紫恵美子 ■『お金をかけずに今日から』仕事に効く!たった4つの大切な事 岡崎よしひろ ■大塚食品が1%の利益と引き換えに25%もの社員を削減するのは正義と言えるのか? 榊 裕葵 中郡久雄 中小企業診断士 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |