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6月4日に年金事業改善法が成立した。

今回の法案の最重要テーマは「国民年金保険料の納付率の向上」であったが、その狙いに対し、どのような施策が導入されたのかいうことと、それに対する私なりの所感を述べたい。

■保険料の納付猶予制度の対象が50歳未満に拡大
まず、最も注目すべき施策は、国民年金保険料の納付猶予制度の対象年齢の拡大である。

話を遡ると、平成17年に若年者納付猶予制度が創設された。この制度は読んで字のごとく、収入が少ない若年者に保険料の納付を猶予するという制度である。対象は一定の所得以下の20歳以上30歳未満の国民年金第1号被保険者とされた。

そして、この制度は、「今は若くて収入が少ないけど、将来安定した仕事に就けば、保険料を追納できるようになりますよね。そしたら保険料を払ってね。」という考え方が大前提であった。

ところが、今回の改正では、この制度の対象者を、なんと、50歳未満にまで拡大することになったのだ。50歳はもはや若年ではないから、厚生労働省の資料からも、しれっと「若年者」の文字が消え、単なる「納付猶予制度」となっていた。

しかし、冷静に考えてほしい。50歳といえば、正社員として勤めるサラリーマンでさえも年収が頭打ちになり、早期退職や子会社出向などの対象となる年齢である。50歳まで納付猶予を受けても、その後、追納が可能となるには、宝くじにでも当たらない限り無理な話ではないだろうか。

■国の狙いは保険料納付率のアップへのこだわりか?
ところで、何故このような若年者納付猶予制度を作る必要があったかというと、従来から年齢に関わらず所得に応じた保険料免除制度はあったのだが、原則的な保険料免除制度は世帯単位の所得で判断されるため、保険料の未納者本人がフリーターや無職であったとしても、同居している親に収入があれば免除の対象とはならなかったのだ。

親の中には、自らの所得の中から子の国民年金の保険料を支払っている人もいるかもしれないが、そこまで優しい親ばかりではないだろうし、親が定年退職を迎えて年金をもらう側に回れば、子の保険料の肩代わりは経済的に難しいであろう。まさにこれから、就職氷河期などの影響で非正規雇用に就かざるを得なかった30代~40代の親が、定年退職を迎える年齢になりつつある。

とするならば、このまま放置しておくと、ますます未納率が拡大してしまう。だから、今回の納付猶予制度の50歳までの拡大は、50歳以降に後納してもらうことを本気で考えたというよりも、むしろ、国民年金を払えない30代~40代の未納層を母数から除き、見かけ上の納付率をアップさせるためのパフォーマンス的な狙いがあるのではないかと私は思えてならない。

他にも、法律上は保険料を過去2年分しか遡って後納できないのが原則なのを、平成30年までは過去5年遡って後納できるようにしたり(なお、平成27年までは過去10年追納できる時限法が施行済)、延滞金の利率を14.6%から9.2%に下げたりと、保険料を後納しやすくする制度がいくつか導入されることとなったが、結局は保険料を納められる経済的余裕がなければ、これらも絵に描いた餅であろう。

少し古いデータになるが、保険料10年後納制度が導入されてしばらくして、2013/1/8付の日本経済新聞電子版には下記の記事が掲載されている。

国民年金の保険料の未納分を過去10年分まで遡って納めることができる「後納制度」の利用が低調だ。納付の申し込みは昨年11月までの2カ月間で、制度対象者の約2%弱の約33万件にとどまっている。(日本経済新聞電子版 2013/1/8)


記事では、制度の周知ができていないことが原因ではないかとも書かれていたが、2%という数字から逆算すると、制度対象者1700万人のうち、33万にしか利用していないということであるから、いかに後納制度が現実的に利用されていないのかということが分かるであろう。

なお、今回の改正では良い点もあったことを付言しておきたい。これまで学生納付特例制度を利用するためには、学生自らが役所で手続をしなければならなかったが、その事務を大学が受託できるようになるのだ。また、保険料の全額免除を受けるにあたっても、厚生労働大臣の指定する民間業者が申請を受託できるようになるとのことだ。これらの利用者の利便性に資する改正内容については評価をしたい。

■保険料納付率のアップと年金財政の改善は別問題
しかしながら、見かけ上の納付率が改善することと、年金財政が改善することは全くの別問題である。保険料を納付してくれる人が増えなければ、年金財政は改善しないのだ。

とはいえ、年収200万円のフリーターの方に、年間20万円近い保険料を納めろと言うほうが無理な話なのであるし、年収200万円に留まっていることを本人の努力不足だと責めるのも酷な話である。現在の日本は、製造業もサービス業も自動化やシステム化、競争の激化といった様々な背景はあるが、安い労働力を大量に必要とする世の中になってしまったのだ。

そして、このようなマニュアル化された仕事は、熟練によって給与がアップするということはありえない。だから、年収200万円の人は、もちろん断定はできないが、一生年収200万円になってしまう可能性が高い。

そのような世の中であることを前提とするならば、保険料後納制度を50歳にまで拡大しても、あとで収入が増えて保険料を後納できるようになることはありえないので、決して本質的な解決にはつながらないと私は考えている。

■年金制度改革の方向性への提言
最後に、批判で終わっては後味が悪いので、どのように年金制度を改革していくべきなのかという解決策であるが、私は制度の根本的な改革が不可避だと考えている。

私案で恐縮だが、

①憲法で定める「健康で文化的な最低限度の生活」を送れるだけのベーシック年金を全国民へ保障すること
②現物給付の導入により給付総額を抑制すること
③保険料未納者への社会奉仕の義務化で納付者との不公平感を緩和すること

などを私は提案したい。

詳細は、別記事の「1億層中流時代の年金制度を維持するのは無理な話だ」で書いているので、こちらをあわせて読んでいただければ幸いである。

《参考記事》
学生が国民年金の保険料を払うのは損か?得か?
国民年金保険料2年前納制度のメリット・デメリット
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特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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