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前回「よいお母さんのレベルが高すぎる日本。働く女性は意識と行動をどうやって変えたらいいの?」という記事で「働き方マトリックスの『ルーチンワーク志向、仕事セーブ要因のある女性』のカテゴリーは競争が激しくなる」という記載をしました。では、こういう働き方をしたい従業員になってしまったら、もう働き口がないのでしょうか?あるいは、経営者は、こうした人たちを活用する方法についての解はないのでしょうか?

■経営者側はまず従業員の現状を把握する努力を
最初に、マトリックスを再度掲載しておきます。今回のテーマとなるのは、④の「定型業務型」のカテゴリーです。
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経営者はまず、自分の従業員やスタッフのうち、このカテゴリーに入る人たちがいるかどうかを確認します。このカテゴリーに入る人たちは、「仕事はそこそこでよく、自分の時間を優先させたい」人たちです。しかし、一人ひとりを見ると、仕事へのスタンスやモチベーションには「ずれ」があるはずです。

仕事セーブ要因を抱えながら働く人たちは、「どうしても家族にケアすべき人(子どもや高齢者など)がいる」「自分自身ががんなどの病気と付き合いながら働く必要がある」など、働く時間以外に、自分の家族や自分自身の生活にどうしても時間を割かなくてはならない、という事情を抱えています。経営者、あるいは管理者側は、こうした「本当の事情」を十分に話し合い、対応策をとる必要があります。

大企業であれば、産業カウンセラーや人事部との連携をとって働き方を話し合い、仕事セーブ要因を考慮しながら働く、ということを実施しているところがあります。人材が不足しがちな中小企業では、なかなかこうした制度を整備するのは難しいという面はあるかもしれませんが、一方で採用状況が厳しいことを考えると、経営者・管理者が従業員の事情に気を配り時間を使う必要が出てくるはずです。

■中小企業こそこうした対応に有利
仕事セーブ要因を抱えた人たちを活用する場合、個々人の事情を斟酌した上での個別対応が必要となるため、実は規模が小さく、仕事の範囲が見えやすい中小企業の方が有利な状況があります。

業種にもよりますが、たとえば現場作業であれば、一人の人が実施する仕事を二人でわけてするだけで、計算上は一日の勤務時間が単純に2分の1になります。これはワークシェアリングといって、雇用対策で検討されることが多かったのですが、これからは仕事セーブ要因を抱えた人たちの活用手段として検討する余地があると思います。高齢化が進み、育児のみならず介護を抱える人たちが増えることが想定される今後において、長時間労働ができなくなる人たちが増えることは確実です。その意味で、今後は、一人の人に大きな仕事量を抱えさせることは、従業員に負担となることが考えられると同時に、企業としてはリスクともなりえます。であれば、働く時間を管理するのではなく、一日ごとの各個人のタスクを事前に取り決めて、それをすべて実行できたらその日の仕事は終わり、とする管理の方法もあるでしょう。

これを実現するためには、管理側と従業員の双方とで仕事のたな卸しをすることが必要です。各従業員が実際に何をしているのかを全て把握し、その必要性を検証、不要なものを廃止した上で、業務を定型化することが第一歩となります。その上で、それぞれの業務に必要な時間を見積もっていきます。最初のうちは見積もり通りにいかないと思いますが、実際時間との差異を業務効率改善か見積もり適正化によって修正していきます。

もちろん、経営者の側はただ仕事を与えるだけではなく、決められた仕事量以上を実施し生産性を上げたスタッフについては適切に評価で答える必要があります。働く時間が同じなのに追加手当なんて、と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ダラダラ残業に残業代を支払うのと、決まった時間内に期待値以上の成果を上げたスタッフに報いるのと、どちらが職場のモチベーションを高めるでしょうか。企業にとって、少ない経営資源で多くの利益を得ることは、継続拡大のためには必要なことであり、それを実現する社員にこそ評価で還元する必然性があるのです。

■従業員、スタッフは生産性を上げる努力が必要
経営者の側だけではなく、従業員の側も努力が必要です。前述の通り「仕事はそこそこでよいという志向」カテゴリーの競争は厳しくなっていくため、働く時間は短くとも、その時間の中でどれだけの仕事をしたかが重要になるからです。働く時間をセーブする以上、ほかの人と手分けしてやる作業が増えることになり、時間までに終わらなければほかの人の仕事にも影響が出ます。

「そこそこの仕事」という響きとはうらはらに、働く時間内に求められる結果を出す厳しさが求められるようになります(実際、時短勤務で働いているお母さんたちの多くが、まさに今、「時間内で仕事を仕上げる」時間との闘いに直面しています)。厳しい競争にさらされる中、「いい加減な仕事」を続けられてしまうと、ヒトの力が経営に大きく影響する中小企業では特に経営者は困ってしまうのです。

一定程度の報酬を得たい、やりがいを得たいということであれば、当然、限られた時間の中で決められた仕事量をこなすことは最低限の条件になります。そして、その中で生産性を上げようとすることによって、会社全体の仕事にも貢献することができます。

■長時間働かなくてもよい仕組みを双方で考える
ここまで読まれてお気づきの方も多いと思うのですが、「仕事そこそこ、仕事セーブ要因あり」のカテゴリーの人たちが、自分の仕事を確保し続け、報酬を得たいと思った場合には、結局マトリックス左上②の「WLB型~高付加価値志向、仕事セーブ要因あり」を目指すケースが増えてくると考えられます。今までと同じ成果を長時間働かなくても出せるようにするために知恵をしぼる、ということはこちらのカテゴリーへの変化を意味しているからです。

働き方マトリックスでは、経営者の側がそれぞれのカテゴリーにいる従業員やスタッフに対して、経営の維持拡大という観点からどのように働きかけたらいいかということを書いています。もちろん、どういう働き方を選択するか、は両者によるコミュニケーションによります。仕事セーブ要因のある従業員やスタッフを「長時間働けないから」といづらくするのではなく、セーブ要因のあるスタッフをどのように仕事に取り込んでいくか、また、モチベーションを上げてもらうかという努力が経営者側には必要になります。

「仕事はそこそこで、生活を充実させたい!」は、わがままなのではありません。ただ、経営者側と従業員、スタッフがお互いに歩み寄り、経営者は従業員側の抱える事情を踏まえ、従業員側は組織への貢献という観点を忘れず、仕事の量と種類を考慮する、というきめ細かい計画が必要になってきているのです。生産年齢人口が減り、さまざまな事情を抱えて働く人たちが増える中、経営者はこれまで活用仕切れていなかった人的リソースを最大活用していかに成果を出すか、お互い様、の精神でのりきっていけたら、新しい働き方が実現するのではないでしょうか。

《参考記事》
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html
■「良いお母さん」のレベルが高すぎる日本。働く女性は意識と行動をどうやって変えたらいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/39261507-20140608.html
■女性が経営者にむいている理由 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38119326-20140407.html
■事業は永遠に生き続けられるか?~大事な事業を確実に引き継ぐためには  小紫恵美子
http://sharescafe.net/38572763-20140430.html

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