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昨今のニュース報道を見ると、政府は「限定正社員」の普及・拡大を目指しているが、インターネット上の声は、「限定正社員」に否定的な意見が多いようだ。

「限定正社員は、正社員という甘い言葉で釣って、労働者を安く働かせる仕掛けだ」というような書き込みも、ネット上の掲示板で見かけた。

■限定正社員を普及させるべき理由
確かにそのような一面もあるかもしれないが、私は、限定正社員の制度は、言われているほど悪いものではなく、むしろ普及させるべきものであると考えている。

というのも、限定正社員の制度を設けることによって、多様な家庭環境や価値観を持った人に、正社員として働くチャンスを与えることができるからだ。

すなわち、従来型の正社員といえば、身分保障は強いかわりに、残業、配置替え、転勤、全てを受け入れて会社のために尽くさなければならないという暗黙の了解があった。そのため、家庭の事情で転勤ができないとか、働きながら夜間の大学院に通いたいとか、そのような事情を持つ人は、正社員になりたくても、中々なることができなかった。

また、平成24年の労働契約法の改正で、「契約を5年以上更新した有期雇用労働者が希望した場合は、正社員としなければならない」という義務が会社に課されたことは記憶に新しい。

しかし、限定正社員制度がなければ、鳴り物入りでスタートしたこの制度は、「絵に描いた餅」になってしまうのではないかと私は危惧している。

つまり、「正社員」の限定されない働き方がネックになって、心の中では無期雇用を望んでいるにも関わらず、正社員になりたいと申し出ることをためらってしまうということである。

このように考えていくと、確かに賃金という面では従来型の正社員には見劣りするが、安定した身分保障を得つつ、働き方に一定の制限が得られる限定正社員は、労働者にとって必要不可欠な制度なのではないだろうか。

限定正社員の制度が普及することによって、働く人にとってどのようなメリットがあるのかを、以下3つの観点から具体的に説明したい。

■限定正社員は勤務地が限定される
第1は勤務地が限定されるメリットである。

例えば、雇用契約を5年更新した有期雇用労働者が正社員になりたいと申し出てきたときを想定してみよう。企業は、「わかりました。法律上のルールですからあなたを正社員にします。ですが、当社はグローバル展開をしていますから、正社員になるからには、アフリカや南米に駐在になる可能性もありますが良いですね?」と言うかもしれない。

そうすると、育児や介護などで、現在の居住地を離れなれない従業員は、事実上、正社員になることを断念しなければならなくなってしまう。

確かに、たとえ正社員であっても、明かに嫌がらせ目的の場合や、私生活上被る不利益があまりにも大きい場合には転勤命令を拒否することができる。しかし、その結果受けた懲戒解雇などの処分の無効を裁判で争うのは簡単なことではないし、裁判にかける費用や時間も重い負担となるので、従業員にとっては、転勤を受け入れるか退職するかが事実上の選択肢になってしまう。

このような中、「限定性社員」であれば、はじめから転勤をしないことを労働条件の一部とすることができるので、私生活に不安を抱える人も安心して正社員になることができるのだ。

■限定正社員の職種は一定
第2は職種が限定されるメリットである、

たとえ転勤がなかったとしても、正社員であれば事業所内での職種の変更は起こりうる。

正社員として働くのならば、雇用が保障される対価として、企業が求める職務をこなすのは当然だ。

だが、一方で、そのような働き方しかできない人しか正社員になれないというならば、正社員の間口はあまりにも狭いのではないだろうか。

例えば、将来は税理士や会計士になることを目指して、働きながら試験合格を目指している人がいたとしよう。この人が非正規雇用であれば雇用契約で「経理の仕事」と限定されているのに、正社員に転化した途端、正社員は何でもやらなければいけないと言われて、営業や製造など、経理とはほとんど関係のない仕事に配置転換させられてしまったら、本人は仕事へのモチベーションを大きく失ってしまうに違いない。

このケースの場合には、正社員として雇用の安定を得ることと引き換えに、職務の限定を失ってしまうのは、本人が望むところではないであろう。限定正社員として、通常の正社員に賃金は見劣りするが、引き続き「経理の仕事」に限定した働き方を本人は求めているのではないだろうか。

確かに単なる好き嫌いやわがままで職務を選ぶのは社会人として正しい姿ではないと私は思う。しかし、何らかの目標に向かって一直線に頑張っている人を応援するような働き方はあっても良いのではないだろうか。

■限定正社員は定時退社
第3は時間外労働が限定されるメリットである。

時間外労働ができないことが、正社員になれないことに直結するのも、窮屈な世の中ではないだろうか。

例えば、子育てをしている親に関して言えば、確かに育児介護休業法においては、従来型の正社員であっても、時間外労働の免除を認めている。しかし、労使協定を結べば入社1年未満の者を適用除外にできたり、業務の必要上やむを得ない場合には残業を命じることができたりと、完全に残業が免除されるわけではない。

また、出産や育児以外の理由では、時間外労働を免除するような法的制度は存在しない。定時後に夜間の大学院に行きたいとか、資格試験の学校に通いたいと望んでも、従来型の正社員であれば、正当な時間外労働の命令を受けた場合には学校を休んで業務命令に服しなければならないのが原則である。本人も頭では理解していても、モヤモヤは残ってしまうであろう。

そこで、このような人の場合は、限定正社員として、はじめから残業をしないことを雇用条件としていれば、正社員としての安定は確保しつつ、安心して育児や自己啓発などのワークライフバランスを実現することができるというわけだ。

従来型の正社員に比べれば賃金や昇進の面では不利にはなるが、生涯を通じてワークライフバランスを重視する働き方を望む人や、一定期間を学問や資格取得に費やしたいという人にとっては、金銭よりも時間外労働を命じられないメリットのほうが大きいであろう。

■総括

このように、限定正社員の制度がなければ、多様なニーズを持つ者が安心して正社員になることはできない。

ブラック企業においては、「正社員」であることを悪用し、本人が望まない転勤や時間外労働を命じ、それを拒否したことを理由として懲戒処分を課し、最終的には退職へ追い込んでいくという恐れもある。そのような無茶振りからも、「契約条件」によって労働者を守ることができるのが、限定正社員の制度なのだ。

労使お互いが、「限定正社員」という制度を正しく理解し、我が国に定着させていきたいものである。

《参考記事》
■ デートの日に残業命令。残業を断って大丈夫!?: エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/31690024.html
■資格取得が転職活動を有利にする理由 : Seepのブログ
http://seep-jp.com/2014/04/30/post-2540/
■京都の市バスで足の不自由な女性を介助しようとして罵倒された運転士が気の毒だった件。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39775536-20140710.html
■社員のためのフェラーリ!?株主総会で知った島精機流「強い会社」の作り方 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39610027-20140629.html
■実は、我が国の労基法は世界水準に達していないのでは!?という警鐘。榊 裕葵
http://sharescafe.net/37110706-20140217.html

特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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