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最近、新聞やニュース番組などで話題になっているホワイトカラー・エグゼンプション制度をご存知だろうか? 働いた時間ではなく、仕事の成果を評価する仕組みを取り入れ、働く人の意欲や生産性の向上を図るというこの制度。要は、「残業代をゼロにしよう」という施策となる。現在のところ、「年収1000万円以上の高い能力を持つ人」が制度適用の対象になると言われているが、それ以外の働く女性にとっては全く関係のない話なのだろうか? 労働問題に詳しい法政大学の上西充子教授にお話を伺った。

■推進派と反対派の意見が交錯する
ホワイトカラー・エグゼンプション制度とは?


「ホワイトカラー・エグゼンプション」という言葉を耳にはしたことがあるものの、深く理解しているという人は意外と少ないのではないだろうか。なぜ、今このタイミングでホワイトカラー・エグゼンプション制度が話題になったかというと、2014年6月に発表された政府の「新たな成長戦略」がきっかけ。今後の審議を経て、詳細な対象職種や年収要件など制度設計の議論が始まるという。

労働基準法は労働時間を原則として1日8時間、週40時間に定め、それを超えた場合は残業代の支払いを企業に義務付けている。しかし、年収1000万円以上、かつ職務範囲が明確で高い能力を持つ労働者が希望した場合にこの労働基準法の適用を除外し、労働者が働く時間を自由に決められるようにしようというのが、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の概要。

一般的に言われているこの制度のメリットとデメリットは次の通りだ。

<メリット>
・時間で仕事が評価されることが無くなるため、労働時間を短くできる
・残業代がゼロになるため、労働者は仕事の効率化を図るようになる
・企業は不必要な残業代を支払う義務が無くなり、コストを削減できる

<デメリット>
・残業代が無くなっても残業が無くなるとは限らないので、収入だけが減る可能性がある
・労働時間の規制が無くなるため、長時間労働がさらに助長される恐れがある
・成果に見合った評価が正しく行われるとは限らない



■制度が適用される人の定義は曖昧
働く女性全体に影響を及ぼす可能性アリ


現在のところ、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の適用が検討されている人の範囲は、定義が非常に曖昧だと上西さんは話す。

「国会での議論を見ていると、制度適用対象者の定義が非常に曖昧。『年収1000万円以上』というボーダーラインがどんどん下がっていき、多くの労働者に影響が広がる可能性も十分にあります」

では、もしこの制度の導入が決まったら、「普段から残業代をもらってないから関係ない」「年収が1000万を越えることなど今のところないから関係ない」と思っている働く女性たちにはどのような影響が出るのだろうか。

「この制度を導入すれば、『残業代が出ないのだから、早く仕事を切り上げて帰ろう』という感情が生まれて仕事が効率的になるという意見が出ています。ですが、見方を変えれば企業が人件費を気にせず労働者を働かせることができるようになるということ。今のところ、企業には『残業代を抑制してコストを削減したい』という動機が働いていますが、抑制があるにも関わらず、日本人の長時間労働の問題は一向に解決していませんよね。ですから、残業代を無くしたからといって、仕事が効率化するとは限りません。もしかすると、あらかじめ給与に組み込まれていた『固定残業代』までゼロにされて、手取りの給与がガクッと減る人も出てくるかもしれませんよ」

現在は、企業が残業代を払わないというのは違法。そのため、不払い残業を伴う長時間労働などの問題から、法が労働者を守ってくれる。しかし、ホワイトカラー・エグゼンプション制度が導入されて企業が残業代を支払う必要がなくなった場合、損をする人が出てくる可能性があるのも事実。知らず知らずのうちにそうした状況に陥る前に、この制度の内実を深く理解し、働く女性たち自身が自らの意見を持っておくことが大切だ。

■物事を一面的に捉えるのはNG
自分の意見を持つために情報収集しよう


ホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入には反対意見も多く、推進派とのせめぎ合いが続いている。こうした注目度の高い問題について、自分なりの意見を持つために必要な視点や行動とは何なのだろうか。

「仕事を効率化すれば早く帰れるって本当? だらだら残業している人がお金をもらえるのはおかしいと言うけれど、本当にみんなお金目当てでだらだらしているの? 制度の適用対象者の範囲が広がる可能性は? そういった疑問を持ちながら、日々のニュースに接していくことが大切です。ニュースを見ていても分からないことが多いなら、接するメディアの種類を増やして多様な意見を集めてみるのが自分の意見を見つける近道。気になるニュースに詳しい専門家をTwitterでフォローしてみたり、雑誌の特集に目を通してみたり。そうすると、『自分には関係ない』と思っていたことが、実はそうではないと気付いたりするものです。今、国が推進しようとしている『女性活用』を例にとれば、『女性の活躍の場が増えて素敵!』と思う人も多いでしょう。でも、『それによって、女性の働く環境が悪くなる可能性は?』と逆の面にも目を配る癖を付けるようにしてほしいと思います」

ホワイトカラー・エグゼンプション制度のように、働く人の仕事や暮らしに関係が深そうな問題が浮上したとき、「私には関係ない」と言って思考停止してしまうのは危険。遠い問題のように感じても、「社会全体にはどんな影響が出るんだろう?」と一歩踏み込んで考えるようにすると、実は自分に関係のある問題であることに気付くことがある。一人の働く女性として、政治の動きや労働問題を自分ごととして捉えられるようにしておくとが、これからのより良い未来創りに繋がっていくはずだ。

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【お話を伺った方】
法政大学キャリアデザイン学部 教授
上西 充子先生
日本労働研究機構(現:労働政策研究・研修機構)研究員を経て、2003年から法政大学教員。共著に『大学のキャリア支援』『就職活動から一人目の組織人まで』『ブラック企業のない社会へ』など。共訳書にOECD編著『若者の能力開発 働くために学ぶ』。2013年9月よりブラック企業対策プロジェクトの就職・教育ユニットに参加。
『ブラック企業の見分け方~大学生向けガイド~』『企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―』の2冊の無料PDF冊子を共著で発行。
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■取材・文/朝倉真弓 

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