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小僧寿し。なかなか食べられないお寿司を自宅で気軽に食べられるようにして発展した企業。筆者も子供のころ、滅多に食べられないごちそうとして小僧寿しに親しんできた世代ですので、小僧寿しという名前には少し特別な思いがあります。

さて、その小僧寿しが、経営方針に関する意見を公募するというIRを出したという事が話題になっています。小僧寿しはここ数年業績の低迷に苦しめられており、状況を打開するための一手を打ちたいという考えから経営方針に関する意見を公募するというあまり聞いたことのない手を打ち出しているようです。

IRでは、意見募集の理由として

抜本的な経営改革を行い、早期黒字化を目指し、安定的な収益を計上できるスリムで筋肉質な経営体質に転換するために、社内外から広く意見を募集し、経営改革案を立案するため。  小僧寿し IR情報 2014年8月7日


と言っており、報道機関は

持ち帰りずしチェーン「小僧寿(ず)し」は7日、今後の経営方針について、一般からの意見募集を始めた。回転ずしなどに押されて業績悪化が続くなか、客や取引先など広く社外からの知恵を集める狙いだ。 朝日新聞デジタル 2014年8月8日


……と報道しています。

「公募されているなら自分も応募してみるか」と考える方もいるかもしれませんが、そもそも経営方針って何なのでしょうか?これがあやふやなまま応募してしまうと、せっかくの貴重な意見が小僧寿しの経営陣の求めているものと異なってしまうかもしれません。

それではもったいないですよね。そこで、経営方針を考えるためにはどんなことを押さえればいいのかを考えていきたいと思います。

■経営理念が前提となります
さて、経営方針というと「弊社の経営方針は…」と社長さんが説明しているような図が頭に浮かびます。しかし、具体的にどのような事を経営方針に盛り込むべきかについてはあまり知られていないと思います。なんとなく「企業の今後の方針を示したものなんだろうな…」といった理解の人が多いと思います。

また、「公募するぐらいだから、思いつきレベルでいいのかな?」と思われる方もいるかもしれませんね。しかし経営方針は企業の価値観を反映している必要があるのです。というのは、企業の価値観を反映していない経営方針は『絵に描いた餅』どころか有害なものになりかねないからです。

例えば「地域の食文化の継承に貢献する」という企業の考え方を持っていて、地域の食材を伝統的な方法で調理したお弁当を作っているような企業が、「流行っているようだから、本格派メキシコ料理の販売事業に取り組もう」なんて言い出したら、「あれ?」って思いますよね。

また、「本物の味がわかる大人に上質の時を過ごしてもらう」という考え方を持っている企業が、「今は不況だから安い方が良いんだよね。だったら、料理の質は落とすけれども、ワンコインで食べられるディナーを提供しよう」なんて言い出したら、なんだか迷走している感じがしますし、既存の顧客も離れていってしまいそうですよね。

このように、企業の経営方針は場当たり的に決めるようなモノではないのです。また、これらの方針を元に具体的な事業展開をしていくと、今まで企業が培ってきた強みを殺してしまう結果になる可能性があります。

そのため、経営方針とは、その企業の基本的な価値観である経営理念が背景にあってそれを反映しているものであることが必要なのです。

■小僧寿しの経営理念をふまえて
小僧寿しも40年以上経営を続けてきているわけですから、立派な経営理念を持っています。参考のために小僧寿しの経営理念を引用してみたいと思います。

『食生活の未来を創造する企業へ』
「お寿し」という日本の伝統食を通して、多くのお客様においしい笑顔とおいしさを届けること。
それが私たち小僧寿しの最大の使命です。
40年以上も愛されている持ち帰りの寿しの「小僧寿し」をはじめ、小僧寿し初のイートイン店舗「鉢巻太助」、2012年より小僧寿しに参画した「茶月」。
これらの多彩な店舗を運営する総合力、日本全国に展開するブランド力を活かしながら、これまでの寿しの伝統だけにとらわれない独自性を生み出し、より新しく、親しまれる「寿し文化」を創造していけるよう努力を続けてまいります。 小僧寿しHPより


『食生活の未来を創造する企業へ』というのが大前提で、『お寿し』、『お客様へおいしい笑顔とおいしさを届ける』『より新しく、親しまれる寿し文化』といったものがキーワードになってくると思います。このような経営理念がある企業なので、これらのキーワードを踏まえて経営方針を提案しなければ、あまり意味のある提案にはならなさそうですよね。

この辺りを押さえておかないと、上の例のように伝統的な食文化のお店が本格メキシコ料理、大人の上質なお店に質を落としたワンコインディナーという『ちぐはぐ』な経営方針になってしまいますからね。

例えば、小僧寿しチェーンの土地を活用して駐車場事業をはじめるとか、PCのパーツを販売するとか、寿司フィギュアを作るとか思いつきベースならいくらでもアイディアが出せると思いますが、そんなものをたくさん送られても小僧寿しの経営陣も困ってしまうはずです。

また、突飛なアイディアに飛びついて本業をおろそかにするような事をはじめてしまうと、40年以上の事業で培ってきた小僧寿しの持つ本質的な強みを殺してしまう可能性もあります。

■まとめ
ここまで「経営方針はどういうモノで、せっかく提案するからには経営理念を踏まえたものにしないといけないよね。」という記事を書いてきました。しかしながら、『小僧寿しの経営陣は経営方針についての意見を本気で集めたいとは考えていない』というのが筆者の見解です。

というのは、経営方針は上で述べたように経営理念を踏まえて考えていかなければあまり効果的ではないにもかかわらず、IRの文章には経営理念に言及する箇所がありません。また小僧寿しはどのような経営資源を持っているかも外部の人間からは分かりませんし、経営資源についての言及もありません。

さらに、参考となった意見に対する報酬も特にはなさそうですし(自社が扱っているお寿司の食事券ぐらい提供してもよさそうですよね)どうも、提案者が時間を割いて自社のために何かを考えてくれる事へのお礼という視点が欠けているというか、本気で意見を集めようとしていないように思えます。

但し、話題作りとしては非常にうまいやり方だと思いますし(筆者も久しぶりに小僧寿しの名前を聞きました)経営方針に関する意見でなくとも、販売促進の方法とか、新メニューの案など何らかのアイディアは得られる可能性も高いと思われます。

それだったら、『改善のためのアイディア募集』とした方がよさそうな気がしますが、『経営方針に関する意見募集』と比較して『アイディア募集』ではニュース性が乏しいと判断したのかもしれませんね。

ともあれ、今回の経営方針についての意見公募が小僧寿し復活の助けになればと思います。

【参考記事】
■女性が起業する前に特に慎重になるべき3つのこと(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40177561-20140804.html
■社会福祉法人の内部留保を『活用』させても何も改善しないですよね? (岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39628354-20140701.html
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html
■自ら動く。その先にやるべき支援が見えてくる~『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40194832-20140805.html
■経営理念
http://keieimanga.net/archives/7232691.html

中小企業診断士 岡崎よしひろ

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