めがねの女性

転職願望はあっても、「収入がダウンするのでは?」とためらう人は少なくないだろう。25~34歳のビジネスパーソンを対象としたキャリア意識調査『キャリアデザインレポート2013』でも、それを裏付ける結果が出ている。

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出典:『キャリアデザインレポート 2013』(キャリアデザインセンター)より女性回答者の回答のみ抽出して作成


転職について「より良い会社や仕事の条件とはどのようなものか」という質問に対し、女性の約84%が 「給与・賃金待遇が良い」と回答し、最も高かった。
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出典:『キャリアデザインレポート 2013』(キャリアデザインセンター)より女性回答者の回答のみ抽出して作成


また、「転職しようとする際、ネック(障害)に感じることは何か」という質問では、「所得の変動が不安」との回答が約52%となっており、半数以上の女性が年収ダウンを心配していることが分かる。転職時の条件で“給与”を重要視する女性が多いにもかかわらず、一般的に「転職することで年収がダウンしてしまう」人が多いのはなぜなのだろうか。

過去に20,000人以上へのキャリアカウンセリングを行った実績を持つキャリアカウンセラー・水野順子さんに女性の転職と年収の実情を伺った。

■30代で広がる男女の年収格差
“交渉できない”女たち


景気が上向いてきた今の時代をチャンスととらえる人や、政府による「女性活用政策」に希望を感じて新たなキャリアに向かおうとする女性が増え、現在、転職希望者は増加傾向にあると水野さんは感じているそう。ただし、転職で年収アップする女性はまれ。これまでのキャリア支援の経験から、「女性の場合、転職による年収ダウンを経験する人は多い」と話す。

「男女ともに20代での転職は、年収ダウンする傾向が見られます。キャリアの浅い20代は、転職先で新卒と同じ給与や待遇となるケースが多いのです。一方、30代になると、男女で年収アップの割合に差が出てきます。男性は明確に年収アップを目指して交渉を行う傾向にありますが、女性の場合は自分のキャリアに自信が持てないためか、とにかく転職を決めるために給与交渉をあまりせずに終わるケースが大多数を占めてしまうんです」

また、年収アップを狙う女性でも、明確な目的を持たないままで安易な転職を繰り返し、新卒と同待遇に戻るループを続けるケースや、不採用通知をもらったことで心が折れ、低待遇でもしょうがないと諦めてしまうケース、周囲に相談し、「その年齢で転職しても給与は下がるに決まっている」とダメ出しされて自信をなくしてしまうケースなどがある。

「男性は現職の会社に残ることも視野に入れ、給与・待遇などの条件をシビアに見極めることが多いのですが、女性は仕事を辞めることが目的になってしまう傾向が強い。『早く決めなくては』と焦ると自分の軸がブレてしまうので、会社に残ることも踏まえた上で『自分の目指す転職条件』を貫くべきなのです」

■こんな動機ではNG!?
年収ダウン転職を引き起こす5つのパターン


年収ダウン転職を引き起こす人には、いくつかのパターンがある。水野さんに、女性に多い「年収ダウンを招く典型的な転職パターン」を教えてもらった。

【1】流され転職
周囲の状況に流されて転職するパターン。同期や友人が転職や結婚退職をしていく様子や、世の中の景気動向などの情報が転職動機に。若さという価値が下がる一方で、自分に新しい価値を見出せず不安になる20代女性が陥りやすい。明確なキャリアプランのないまま転職してしまうため、年収が低い仕事に就いてしまうケースも多い。

【2】いきなり転職
仕事を頑張り過ぎるタイプに多く、働き過ぎることで疲れ切ってしまい、いきなり仕事を辞めてしまうパターン。「すべてを投げ出してとにかく休みたい」という思いが引き金となるため、これまでの自分のキャリアへの自信を失った状態で次の職場を探すことに。自分の価値を低く見積もってしまうので、給与が低くても妥協してしまいがち。

【3】夢ひきずり転職
新卒採用時に憧れていた仕事を諦めきれず、未経験からまったく違う職種にチャレンジするパターン。クリエイティブ系やマーケティング、広報などのいわゆる華やかな職種を目指す人が多い。「未経験の自分にとって、30歳になる前が最後のチャンス」と考えがちで、給与や待遇を二の次にする傾向が。

【4】隣の芝生は青い転職
今の自分がいる環境に満足できず、他の会社の人が輝いて見えて転職するパターン。「自分が評価されないのは、この会社のせいなんじゃ?」「自分にとってもっと良い会社があるはず!」と考えがちな人は多い。成果を出せないまま短期間での転職を繰り返し、新卒待遇ループに陥る傾向がある。

【5】逆走転職
職場の人間関係に疲れてしまい、これまでと真逆の環境を探すパターン。女性上司とうまくいかなかった人は“女性の少ない職場”、年配者にストレスを感じた場合は“若い職場”など、イメージのみで転職先を選択しがち。働く環境が最優先なので、年収まで考慮に入れて転職先を選ぶ人が少ない。

■「結婚したら家計を支えるのは夫」「年収より月収重視」――
年収ダウンを招く女性たちの仕事観


年収アップを希望して転職する女性ももちろんいるが、水野さんの実感としては「多くの女性は、“年収”を転職の最重要項目にはしていない」という印象だそう。そこには、結婚や子育てを考える女性ならではの仕事観があり、先に紹介した5つのパターンにも関係してくるという。

「今なお女性にとっては、『ゆくゆくは男性に稼いでもらおう』という考え方が一般的のようです。配偶者ありきの生活を大前提とし、将来的には『生活はダンナが支えるもの』と考える傾向がありますね。また、女子学生に話を聞いてみても、『仕事は一生したいけれど、結婚したら仕事はセーブしたい』との答えがほとんどでした。こうした思いがあるためか、具体的に結婚・出産の予定がなくても、『30歳までに転職して、将来に備えたい』と考える20代後半の女性は多いですね。そのため、休日数や残業時間数を優先し、給与は下がっても当然と考えるようです」

さらに、女性の場合は年収より月収に目が行きがちなため、ボーナスまで換算した金額を考えていないケースも多く、1年働いてみた結果、年収がダウンしていたことに気付く人もいる。長期的なスパンで働くことを考え、10年後の給与がどれくらい上がっているか想定して転職を決めたいところだが、そこまで把握するのは難しい社会情勢であることも否めない。女性が年収ダウンせずに働き続けるためには、何を気を付けたらよいのだろうか。

「今は、男性側から見ると『夫婦共働きで収入を得ること』が前提となっている時代ですし、結婚率そのものが低下している状況もあります。基本的には、『働くことをやめない』と考えて転職をすべきです。1人でも生きていくぐらいの気持ちで稼いでおけば、結婚した場合でも夫と合算した豊かな生活が手に入ります。仕事においての価値観はさまざまなので、収入を重視するかは人ぞれぞれですが、転職でステップアップした人の多くは、自分で実力をしっかりと身に付けた上で、能力や成果を冷静に伝える力があると感じます。まずは、今の職場で周囲から引き止められるような実力を付けてから転職することが大事だと言えるでしょう」

多くの女性は「若いうちでないと雇ってもらえない」と考え、30歳が転職時期の限界だととらえているようだが、水野さんによれば「実際のところは、実力のある人なら何歳になっても転職はできるもの」だという。漠然とした不安や先回りした転職を考えるより、今の会社でしっかりと実績を残す努力をするほうが最終的には得策と言えるだろう。いずれにしても、転職は自分の価値観次第。今の職場で働く中、仕事において何に重きを置くのかを見つめ直してみるといいかもしれない。

【お話を伺った方】
キャリアカウンセラー
水野順子さん
女性とキャリア研究所主宰、All About女性の転職ガイド。公務員・外資系大手人材サービス会社を経て独立。キャリアカウンセリングや研修・講演を通じ、メンタルケアや人間関係の築き方などを含めた女性のキャリア支援を行っている。過去に20,000人以上へのキャリアカウンセリングと、60,000人以上への講演・研修によるキャリア支援実績がある。

取材・文/上野 真理子

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