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私は一昨日から四国へ来ているのだが、松山市内で、ある地元企業の経営者の方と食事をしていたとき、どうすれば地方経済の衰退を止められるのかという話題になった。

この記事も高知市のホテルで執筆していて、夕方6時頃、市内で一番の繁華街といわれている「はりまや橋」へ食事に出かけたが、アーケード街の静かさに肩透かしというか、驚かされたものだ。

■地方でベンチャー企業が育たない理由
政治家も地方再生を声高に叫んでいるが、なぜ地方では、地域経済の起爆剤になるような新しい産業が育たないのであろうか。

例えば、クラウド上でサービスを展開するIT系の企業であれば、本来は事業を行う場所を選ばないはずであるから、オフィスの家賃や人件費の安い地方のほうが、むしろ固定費を抑えるという意味ではメリットがあるようにも思える。

しかし、多くの場合、画期的な製品やサービスを生み出すベンチャー企業の大半は、東京や大阪といった大都市で誕生している。

そこで、私なりに地方で新産業が育つことを阻害している要因と、その対策を考えてみることにした。

■ベンチャーを支える人材の確保が難しい
第1には人材の確保が難しいことである。

地方では、若者自体の数が少ないし、転職市場が都市部に比べて整備されておらず、ベンチャー企業が求める20代後半や30代くらいの即戦力となる人材が見つかりにくいようである。

私は、地方で起業したベンチャー企業へ、都市部から人材を送り込めないかということを考えている。

採用に当たっては、書類審査のための履歴書や職務経歴書は電子メールで即時に送ることができるし、面接だってスカイプを使えば、「顔と顔」を合わせて行うことができる時代である。

試用期間中はスカイプやクラウドを活用しながら自宅で仕事をしてもらい、本採用が決まったら実際に地方へ引っ越して来てもらうというような形をとれば、かなりの確立でミスマッチを防ぐこともできるであろう。

そして、政府は都市から地方への人材の移動を促すため、このように採用が決まって地方へ引っ越す人に対し、かかった費用を助成金として支給するのである。

現在でも、ハローワークの紹介で遠隔地への就職が決まった人に対して「移転費」という名目の給付金が存在するので、その拡大版と考えれば、政府としても受け入れやすい施策ではないだろうか。

合わせて、各地方自治体は、その地域で働くことの魅力をPRすべきである。少なからずの若者は大都市を離れることに抵抗を感じるであろうから、地域特有の素晴らしさをしっかりと伝え、心理的な面で引越しの後押しをするのことも重要なポイントである。

■地方から大都市への交通費の負担
第2は交通費の問題である。

ITを駆使するベンチャー企業でも重要な商談は顔を合わせて行うことが必要であるし、東京や大阪などで開催される展示会などに出展することもあるであろう。

確かに、新幹線や航空機が整備され、日本全国どこへでも短時間でアクセスできるようになった。

私は今回の旅程では朝6時にオフィスのある大宮を出発したが、7時台の飛行機でフライトし、9時過ぎには松山空港でアポイントのあった方と合流することができた。同様に、東北や北陸の地方都市と東京も、新幹線や飛行機で2、3時間あれば行き来することが可能である。

しかし、問題として残るのは「時間」より「費用」のほうだ。JRの新幹線は割引がほとんどきかないし、飛行機もビジネスで使うとなると臨機応変な対応が必要なので格安航空券は使いにくい。例えば、新潟→東京は上越新幹線で約1万円、松山→羽田はJALの正規運賃で約3.5万円もする。創業期で資金繰りが厳しいベンチャー企業にとっては、交通費も痛い出費なのである。

そうであるならば、地方で起業した場合と都市部で起業した場合の格差をなくすため、地方で創業した会社が東京や大阪などの取引先と商談をしたり、展示館などに出展したりするための交通費や宿泊費を支出した場合、その費用を補填するための助成金制度を創設することを私は提案したい。

■ベンチャー企業を支援できる専門家のインフラ
第3は、ベンチャー企業のためのインフラの格差の問題である。

米国のシリコンバレーが成功した理由のひとつは、起業家がそこにいただけではなく、起業家を支援できるスキルを持った弁護士や会計士、コンサルタント、ベンチャーキャピタルなどが揃っていたからだと言われている。

我が国においては、スタートアップ期のベンチャー企業を支援するために必要なノウハウは、これまでたくさんのベンチャー企業が立ち上がってきた都市部に集中していると考えられるので、そのノウハウを都市部から地方へ展開し、移植していかなければならない。

また、士業の世界では、もう少し日常的な部分でも、ミスマッチがあるようである。

ベンチャー企業が地方で起業して、顧問税理士や顧問社労士を依頼しようとしても、地域によっては、ITに精通した先生がなかなか見つからない場合もあるようだ。

ベンチャー企業のほうは、メールやクラウドで情報をやり取りしたいと希望しているのに、先生側が質問はFaxでしか受け付けないというような状態では、お互いの考え方に隔たりがありすぎて信頼関係は築くことは難しいであろう。先生に「クラウド」という言葉の意味を説明するだけで疲れてしまった、という話を聞いたこともある。

これらの事情を踏まえると、地方で起業したベンチャーが、その地域では手に入らないサービス受けたり、ノウハウを得たりするために都市部から専門家を呼んだ場合、負担した交通費や日当を国が助成金として支給するようにしたら、地方のベンチャー企業を支援することにつながるのではないだろうか。

■総括
このように、交通網の整備やITインフラの進化で、物理的なビジネス環境としての都市と地方の格差は小さくなっている。あとは、適切な助成金を支給することなどを通じて、コスト軸の問題さえ解決すれば、地方で産業の芽も出始めるのではないだろうか。

なお、産業を地域に分散させておくことは、首都圏直下型地震など災害時のリスクを分散させることになるし、考えたくはないが、万が一、戦争になったとき、東京を破壊されたら日本の政治・経済すべてが壊滅してしまうという一極集中のリスクも回避することができる。

地域経済の発展新興のため、また日本全体としてのバランスのとれた発展のためにも、地方で起業するベンチャー企業を支援し、地方経済の再生・発展へつなげたいものである。

《参考記事》
■女子高生のバイトの時給は、なぜパート主婦より安いのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40790237-20140912.html
■サラリーマンも長期稼動するための秘訣を山本昌投手に学ぼう 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40740710-20140909.html
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http://sharescafe.net/35377589-20131204.html
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あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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