部品工場


中小企業の製造業に関わるすべての人に読んでほしい本です。中小企業で働く人はもちろんのこと、コンサルタントとして関わる人、発注者として関わる人にも読んでほしい、と思います。

<目次>
第1章 受注生産が日本企業の強みだ
第2章 取引先のわがまま要求の背景を知る
第3章 受注生産を取り巻く環境変化が起きている
第4章 受注生産メーカーの利益向上策
第5章 受注生産メーカーの工場運営の秘訣
第6章 受注生産メーカーに合った生産管理
第7章 小さくても戦える新規営業戦略

■大企業と同じやり方でいいのだろうか
日本企業の99%は中小企業です。製造業で考えれば、そのうちの9割は受注生産の形態にあると想像されます。つまり「B2B」企業です。

しかし、世の中に出回っているビジネス書は、大企業をモデルケースにしているものが大多数を占めます。一部、中小企業向けのものもありますが、そのほとんどは「B2C」企業を対象にしています。つまり、従来のマーケティング理論や戦略論、生産管理論は、受注生産をしている中小企業にとって、ダイレクトに利用できる考え方ではないのです。
困ったことに日本の経営学者、外資系コンサルタント、官僚などの中には、日本の受注生産メーカーが置かれている現実に気づかずに、欧米生まれのマーケティング理論を大上段に振りかざして、日本企業の未来をリードしようとする人がいる。(p80)

もちろん、突き詰めれば参考になることは多々ありますが、それを簡単に現場に活かせるわけではありません。アレンジをしないと使えないですし、アレンジできる人材にも限りがあります。その状況で一般的なマーケティング理論を振りかざしたところで、逆効果になることは目に見えています。

受注生産というからには発注者がいます。当然、発注者のほうが力関係では上になります。まして多くの場合、発注者側が大企業ですから受注側は圧倒的に不利な状況にあるわけです。

■発注者のわがまま
こうした力関係ですから、自社の努力でどうにかできる範囲はもともと狭いのです。発注者の意向を考慮に入れない施策は自己満足にすぎません。まして、大企業のわがままな要求は、平成不況化、増え続けていると言っても過言ではありません。

本書でもいつくか例があげられています。
・今日発注したものを今日中に納品しろ
・要求仕様が変わっても費用は追加しない
・エビデンス(注文書など)がない状態で非公式手配してくる
・納品後に注文主や支払条件を変更してくる 
受注側・発注側を問わず、このような経験をされている方は多いのではないでしょうか。
現在、日本の上場企業において半数以上の企業が実質無借金経営状態にある。彼らがJIT(ジャストインタイム)調達による流動在庫の削減(流動資産回転率の向上)を注力する意味がどれだけあるであろうか。(p50)

トヨタがなぜJIT調達が可能なのか。本社や主力工場を愛知県内に集約しているのはなぜか、ということを深く研究もせず、形だけJITなどトヨタのやり方を真似したところで成果があがるとは思えません。それどころか現場に混乱をきたし、逆効果になることすら予想されます。

いわゆる下請企業に無理を押し付けて、自分たちだけ利益を確保するやり方は、短期的には良さそうに思えるかもしれませんが、長期的に見れば、その企業を衰退させ、ひいては日本全体の製造業を疲弊させることになるのです。

■自分たちの強さに自信を持とう!
ただ、問題は大企業側だけではありません。
彼ら以上に問題なのは、対応する側の企業自らが、自分たちの要求対応力(受注生産力)がいかに優れているかに気がついていないことである。(p43)

つまり、受注企業側が、自分たちの強みをよく理解していないということです。日本では古くからの習慣で、無償で行われていることが、契約社会である海外との取引先であれば「有償」で受けることができる可能性があります。また、発注サイドから見ても、海外サプライヤーからモノを買った経験がある人なら、いかに日本企業の対応力が素晴らしいか痛感していると思います。要求対応力(受注生産力)そのものが差別化の要因になり得るのです。

差別化を図り、利益を生んでいくためにはどうすればいいか。本書の第4章以降でその点について解説しています。議論は多岐にわたりますから詳細は省きますが、端的に言えば、要求対応力(受注生産力)をいかに生産管理や工場運営、企業戦略に活かしていくか、ということになるのだと思います。“おもてなし"をどうやって利益に結びつつけるのか、ということです。

日本の製造業は、技術的にも利益的にも、受注生産企業が支えていると言っても過言ではないはありません。日本製造業の復活・発展のために、多くの人がこの本を活用してくれることを願います。

《参考記事》
■自ら動く。その先にやるべき支援が見えてくる~『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40194832-20140805.html
■企業再生とは「なにもなくなってしまった自分たちに、小さなイチを足していくことの積み重ねだ」~『黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語』 中郡久雄
http://sharescafe.net/37593720-20140311.html
■仕事に「自己実現」を求めるな! 中郡久雄
http://sharescafe.net/35179535-20131127.html
■退職時に有給消化をする従業員は「身勝手」なのか? (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/40070575-20140728.html
■【読書】受注生産に徹すれば利益はついてくる! / 本間峰一 THE ONE NIGHT STAND~NEVER END TOUR~
http://ameblo.jp/nakahisashi/entry-11937041222.html

中郡久雄 中小企業診断士

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