我が国で「生命保険」といえば、馴染みの深いのは「定期付終身保険」であろう。定期付終身保険とは、少額の終身保険契約をベースとして、定期保険を特約の形で付加したものであり、国内の大手生命保険会社は昭和の時代からこのタイプの保険の販売に力を入れてきた。 また、「定期付終身保険」には「全期型」と「更新型」の2種類があるのだが、「全期型」は終身保険の保険料払込期間ずっと定期保険の特約内容は一定であり、「更新型」は10年ないし15年といった一定期間ごとに特約を見直す設計になっている。我が国では、後者の「更新型の定期付終身保険」がメジャーな存在であった。 ■定期付終身保険が時代にそぐわない理由 この「更新型の定期付終身保険」には2つの大きな特徴がある。 1つ目の特徴は、最初は保険料が安いが、10年や15年間隔での更新の際に、保険料がどんどん上がっていくということだ。新入社員のころ、月々の保険料が1万円や2万円で入った保険が、50代で最後の更新を迎えたときには5万、6万の保険料になっていくイメージである。 2つ目の特徴は、60歳や65歳といった定期保険がかかっている間に被保険者が亡くなれば遺族は数千万円単位の保険金がもらえるが、定期保険の期間をたった1日でも過ぎてから亡くなると、100万円や200万円といった「スズメの涙」ほどの保険金しか戻ってこないということである。 このような特徴があるにもかかわらず、更新型の定期付終身保険が主力商品になりえたのは、日本人の多くが終身雇用で働き、年功序列で給料が上がっていくということと、60歳を過ぎたら年金なり退職金なりが充分にもらえるという2つの社会的前提があったからだ。 だが、平成26年現在、終身雇用や年功序列は既に崩壊し、年金不安もささやかれている。つまり、「更新型の定期付終身保険」が成り立つ社会的前提は、その基盤が大きく揺らいでいるのだ。 それでも、国内大手の生保会社は引き続き「更新型の定期付終身保険」を主力商品として位置づけ、銀行の窓口などでも積極的に販売している。 その結果、給料は上がらないのに保険料だけがどんどん上がり、保険を解約せざるを得なかったり、定期保険と終身保険の区別がつかないまま契約していて、実際に60歳を過ぎてから被保険者が亡くなったら、支払われた保険金の少なさに驚いて遺族が途方に暮れたり、ということが起こっているようだ。 私は、20世紀の代表選手であった「更新型の定期付終身保険」は、21世紀の現在、もはや時代のニーズにマッチすることが難しい保険商品なのではないかと懸念している。 ■貯蓄性の高い保険を契約するときの注意点 では、今後、私たちはどのような生命保険商品を契約すればよいのだろうか。 候補として考えられるものには、まず、養老保険や終身保険がある。 養老保険は保険期間中に死亡した場合は死亡保険金が、死亡しなかった場合にも、満期保険金(一般的には死亡保険紺と同額)を受け取ることができる保険商品だ。 また、終身保険は、一生涯にわたって死亡保険金が支払われるという保険であり、商品にもよるが、一定期間経過後に解約しても相当額の解約返戻金が戻ってくることになっている。 このように、貯蓄性が高い設計の保険商品である養老保険や終身保険は、年金不安が叫ばれている中、保険と同時に老後の準備をするという意味では21世紀のニーズに合った保険商品ということができよう。 だが、問題として残るのは、払い込む保険料の額だ。 養老保険や終身保険は貯蓄性が高い分、得られる補償額に対して保険料が高額になってしまう。このような保険に加入した場合のリスクは、失業や自営業の失敗などによって保険料が払えなくなったとき、保険を解約せざるを得なくなってしまう可能性があることだ。 この点、「払済保険」に切り替えるなど保険契約を維持するための技術的テクニックはあるが、肝心な補償額が小さくなってしまうのでは「必要なときに必要な補償が得られる」という保険の根本的な目的を達することができず、本末転倒になってしまうことになりかねない。 とするならば、確かに公務員や医師のように、安定した収入を長期にわたって得られることが期待できる職業についているという人にとっては、貯蓄性の高い養老保険や終身保険は、「保険と貯蓄」を同時に行うことができる利便性の高い保険商品だということが言えよう。だが、将来に渡って安定した所得の維持に確信が持てない場合には、養老保険や終身保険の契約には慎重になったほうが良いということである。 ■純粋に保険としての補償を得たいならば定期保険だ 養老保険や終身保険の対抗馬として考えられるのは、定期保険である。 一般的に定期保険は、満期保険金や解約返戻金を設定せず、貯蓄性がないかわりに、安い保険料で死亡のリスクに供えることができるのが特徴である。 我が国においては、純粋な定期保険にはこれまであまりスポットライトが当たってこなかった。 既に述べたよう、国内の大手生保会社の主力商品は定期付終身保険であったし、その後参入してきた外資系の生保会社も養老保険や終身保険の販売に力を入れてきたからだ。 そのため、保険の営業マンの方などと話をしていると、足元の死亡保障に備えたいとう要望をしただったはずが、いつのまにか満期保険金の解約返戻金など「貯蓄」の話が混じってきて、純粋に「保険」として、万一のときの保障を受けるために必要な保険料はいくらなのかということが、契約者にとってわかりにくくなっていたのだ。 この点、私はライフネット生命の取り組みを評価したい。それは、掛け捨て型の定期保険に真正面から光を当て、「保険」と「貯蓄」の概念を意識的に切り分けたということである。 ライフネット生命はいわゆる「ネット系生保」の代表格であるが、WEBサイトで定期保険をわかりやすく販売していて、オンラインで契約を完結することができるので、「貯蓄」の話はひとまず横に置いて、誰にも横槍を入れられずに、シンプルに「保険」のみを契約することができるのだ。 近年、このようなネット系生保のシンプルな販売スタイルが注目され始めてきたおかげで、所得が高くなかったり、安定していなかったりする人でも、安心して生命保険に加入して、足元の補償を得ることができる環境が醸成されてきたのではないだろうか。 私自身も、「保険」と「貯蓄」は区別して考えるべきという考え方には大いに賛成である。終身雇用も年功序列も保障されていない21世紀型の社会においては、少なからずの人々にとって、保険は「掛け捨て」と割り切るほうが、本来の保険の目的を果たせるのではないかと思うからだ。 たとえば、万一の場合に備え、1000万円の保険金を受け取る保険契約を結ぶ場合、月々の保険料が5万円もする終身保険に入るのではなく、同額の保険金を得られるのならば1万円の定期保険に入るとともに、残りの4万円は投資信託や国債のような別の金融商品で運用するということである。 そうすれば、失業や自営業の失敗で生活が苦しくなったときも、「保険部分」は1万円なら何とか保険料を支払い続けられるし、「貯蓄部分」の4万円は、投資信託や国債の積立投資をストップさせればいいし、逆に必要に応じて過去に積み立てた分を現金化することもできる。 つまり、「保険部分」は従来どおりの補償額を維持しながら、足元の生活のために必要なキャッシュフローを柔軟に調整できるということだ。 逆に、5万円を全て保険につぎ込んでいたら、解約するか、払済保険にして補償額を下げるかしかなく、高い保険料で契約したばかりに、必要なときに必要な保障が受けられないという悲しい結末になる恐れがある。 ■ライフネット生命とクラウドワークスが提携した意味 11月5日、ライフネット生命と、クライドソーシング大手のクラウドワークス社との提携が発表されたが、これなどは、まさに定期保険が脚光を浴びる好例であろう。 クラウドワークス社に登録する188業種、23万人のフリーランスの方に、ライフネット生命が保険加入の機会を提供するとのことである。 フリーランスで働く方は、収入に波があることが一般的であるし、業種によっては、実績を積み上げるまではなかなか収入に結びつかないということもあろう。 そんなフリーランスの方が安心して入れる生命保険というのは、やはり、保険料を抑え、「保険部分」に特化した掛け捨て型の定期保険ではないだろうか。 私は、ライフネット生命とクラウドワークスの提携が発表された日の説明会に参加していたのだが、ライフネット生命の岩瀬社長も、クラウドワークスの吉田社長も、口をそろえて契約者の方やフリーランスの方向けに、勉強の機会を積極的に提供していきたいとおっしゃっていたことに共感した。 クラウドワークスで働くフリーランスの方々のように、働き方が多様化している現在、どのような保険が自分に合うのかは、人それぞれであるし、同じ人でも人生のステージにおいて変わってくるであろう。 駆け出しのフリーランスの方には保険料の安い定期保険がベストマッチかもしれないが、将来成功をして大きな収入を得たときには終身保険のほうがその人にとってぴったりの商品になるかもしれないのだ。 つまり、これからの時代、保険契約というものは、保険会社から一方的に与えられるのではない。契約者側がしっかりと勉強し、自分のライフスタイルならばどのような保険に加入すべきかを熟慮した上で、保険会社と契約を結んでいかなければならないのではないだろうか。 《参考記事》 ■「クラウドママ」を普及させて、働く女性が子育てをしやすい国にしよう! 榊 裕葵 http://sharescafe.net/41752066-20141106.html ■「引継ぎはしっかり、有給消化はきっちり」が、独立成功の第一歩だ。 榊 裕葵 http://sharescafe.net/41768044-20141107.html ■偽装請負の被害者にならないために知っておきたい最低限のこと 榊 裕葵 http://sharescafe.net/35179827-20131127.html ■2014年宅建試験を振り返る 竹井 弘二 Seeplink http://seep-jp.com/seeplink/blog/2014/10/21/post-315/ ■宅建の次はこれを取ろう1 「管理業務主任者」 竹井 弘二 Seeplink http://seep-jp.com/seeplink/blog/2014/10/23/post-328/ あおいヒューマンリソースコンサルティング代表 特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |