![]() 2014年11月11日付けのIBMのニュースリリースの中に、下記のような発表があった。 日本IBM(社長:マーティン・イェッター)は、社会の変化を前提とした学校教育における教育内容の拡充と未来のデータサイエンティストの育成を推進するため、特定非営利活動法人企業教育研究会(代表:藤川大祐、以下企業教育研究会)と共同でデータ分析に関する中学生向け授業プログラムを発表します。 日本の大学に統計学科がないことからも分かるように、現在の日本では学生の内に統計やデータ分析を学ぶ機会が限られている。中学生という好奇心旺盛な時期に分析を学ぶ機会を提供するこのような取り組みは、分析に関わる一個人として、ぜひ応援したいと思う。 ■分析の題材をなぜ「選挙」にしたのか? 一方で、残念な点もある。分析の題材が「選挙」であることだ。ニュースリリースでは、以下のように述べられている。 授業プログラムの開発にあたる基本方針は、次のとおりになります。 学校では生徒会役員を選ぶために選挙を実施することから、学生に身近な題材として興味を持ってもらいやすいという思惑も、選挙を題材にした理由の一つではあったのだろう。しかし、この題材では統計について学ぶことはできるかもしれないが、データサイエンティストを育成するという観点においては、重要な視点を学ぶことができないと私は思う。 ■データサイエンティストの価値はどこにあるのか? 選挙において当選者が事前に予測できることのメリットは何があるだろうか?誰が当選するか事前に分かるため、選挙そのものを中止にすることは当然のことながらできるものではない。当選すると予測した立候補者に前もってアプローチしておき、当選後の便宜を図ってもらうことも考えられるが、立候補者からすれば、日和見的な支援者より、一緒にがんばってきた以前からの支援者をより優遇するだろう。 つまり選挙の予測を実施したとしても、その予測結果が利益を生む行動に結びつかないのだ。 統計学者であれば、それほど利益を重視する必要もないかもしれないが、授業の目的はデータサイエンティストの育成だ。では、データサイエンティストの価値とはなんだろうか? ネットを検索してみると、データサイエンティストの定義は、人によってさまざまな意見がある。しかし、企業に勤めていることを前提とするなら、データサイエンティストが経理や人事といった企業に不可欠な仕事ではない以上、高度な分析スキルを使って、企業に利益をもたらすことがデータサイエンティストの価値であるはずだ。 すなわち、データサイエンティストが、 分析によって得られる利益>データの取得コスト+分析コスト(データサイエンティストの雇用コストを含む)+分析結果のデリバリーコスト を実現できれば、そのデータサイエンティストには雇う価値があるのだ。 データサイエンティストがビッグデータと関連付けて語られるのは、ビッグデータのメインストリームであるインターネットが、データの取得と分析結果のデリバリーの仕組みを比較的構築しやすく、またB to Cのサービスとして、関心を引き付けやすいからに過ぎない。 利益を創出する算段があれば、データサイエンティストは、どこにあるどんなデータを使っても構わないのだ。 ■データサイエンティスト育成に必要な題材とは? 今回の授業プログラムが、データサイエンティスト育成のファーストステップとしての位置づけであり、セカンドステップが用意されているかどうかについては、ニュースリリースでは説明されていない。だが、もしセカンドステップが検討されているようであれば、ぜひ分析結果をデリバリーした時の利益をシミュレーションできるような題材を提供して欲しい。例えば、ソーシャルゲームのデータを題材にすれば、中学生も関心を持って取り組むのではないだろうか? 今後のIBMの活動に期待したい。 《参考記事》 ■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士) http://sharescafe.net/40838018-20140914.html ■メジャーで最も不運な投手?黒田博樹の安定力(村山聡 中小企業診断士) http://sharescafe.net/40241196-20140808.html ■ダルビッシュが異議を唱える100球制限の根拠PAPとは何か?(村山聡 中小企業診断士) http://sharescafe.net/39968949-20140721.html ■平均値をウソつき呼ばわりするのは、もうそろそろ終わりにしよう。 村山聡 http://sharescafe.net/39363307-20140614.html ■「飲み会は残業代出ますか?」と聞く前に新入社員が心得ておくべきこと 村山聡 http://sharescafe.net/38576145-20140430.html ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |