世界経済


いつの間にか衆議院の解散が決まりました。今回の選挙の争点は「アベノミクスの信任」であると総理自ら言われました。それが争点のすべてではないでしょうが、ひとつの大きな柱ではあることは間違いありません。経済政策の結果は生活に直結するので、関心を持たれている人も多いと思います。

一方、経済に苦手意識を持つ人はたくさんいます。ニュースを聴いているとわかったような気になれますが、ふり返ると結局よく分からない。どう判断していいか、基準がない。

そんな方にお薦めの1冊です。

やりなおす経済史---本当はよくわかっていない人の2時間で読む教養入門

<目次>
はじめに――経済史は「欲望のドラマ」だ
講義の前に――1300年間のピカレスク・ロマン
第1章 【8~19世紀半ば】今の弱肉強食社会はどのように生まれたのか?
第2章 【19世紀半ば~1918年】国獲りゲーム勃発! 新たな領土を求める仁義なき戦い
第3章 【1919~1945年】やっぱりカネ、カネだ! カネの流れを巡って史上最大の抗争へ
第4章 【1940年代後半】ついに組長交代! 戦後を牛耳るジャイアン体制とは?
第5章 【1950年代後半~1960年代】一触即発で抗争間近!? 東西組長のにらみ合い
第6章 【1970年代】親分負傷で戦々恐々! 世界をのみ込む新たな資本主義の妖怪
第7章 【1980年代】若頭も組長に立候補!? 死に体の親分を踏みつける日本の下剋上
第8章 【1990年代】カネが分ける新旧の明暗!? グローバル化する抗争劇の勃発
第9章 【2000年代】親分は重体、オジキは仲間割れで、抗争は血みどろ地獄へ
第10章【2000年代】ついに世代交代!? ニューフェイスが続々組長に立候補
第11章【2000年~現在】瀕死の日本はアベノミクスで再起できるか?
巻末付録 主要な経済学説
おわりに

■現在は歴史とつながっている
目次を見れば予想がつくと思いますが、世界経済を、お金を巡る(ヤクザの)抗争の歴史と捉えて解説しています。

この例えがとてもわかりやすい。劇画的でもあり、楽しみながら最後まで読み進めることができます。

人類の歴史は戦争の歴史といってもよく、戦争の大多数は経済的な対立が理由で起きていると言っても過言ではありません。特に19世紀半ば以降、帝国主義の時代はそれが露骨に表に出ていました。

第二次世界大戦後は、表向き協調路線を歩んできましたが、裏ではどうだったのか。表面的にはにこやかに握手を交わしながら、テーブルの下では蹴り合いをしている、というのが、本当のところだと思います。ですから、お金をめぐる抗争史として世界経済の歴史を解説していくのは、理解するためにはとても有効な手法だと思います。

さらにこの本の読みどころは、1990年代以降についての解説です。経済史の類書は、1990年代以降の世界経済情勢についてちゃんと解説しているものがとても少ない。日本のバブル崩壊とその後の推移については、経済史ではなく経済の本として扱われることがほとんどです。まだ「歴史」になっていないから、ということが主な理由なのでしょう。

しかし歴史は、現在とどうつながっているかを考えないとただの趣味になってしまいます。ですから、リーマンショックからアベノミクスという、時事問題と言っていいところまで一貫した歴史として捉えて解説しているのは、この本の価値を高めています。「アベノミクス」とは何かについても、端的に解説をされています。

また、日本のバブル発生からアメリカのITバブル、住宅バブル、そしてリーマンショックまでを一連のできごとを「バブル発生から崩壊までの繰り返し」の流れとして関連つけて解説されていのも、いま現在の経済情勢を理解するのに大いに役立ちます。

■批判をすることは簡単ですが、、、
もちろん、わかりやすくするために単純化し過ぎている面は否めません。世の中、原因は一面的ではありません。多面的な理由があります。それをすべて「金を巡る抗争」という視点から見ているわけですから、見る人が見れば
「それだけで話を終わらせるのか?」
と思う部分もあります。

しかし、この本の目的は「本当はよくわかっていない人」にむけて、ざっくりと世界経済史を知ってもらい、現在の状況の理解に役立てることにあります。経済(史)に詳しい人に向けて書かれてモノではありません。そうであるならば、この本はその目的を十二分にはたいしているのです。

この本を読んで、経済(史)に興味が湧いたら、さらに詳しいものへと読み進めていけばいい。そうやって知見は広がっていくのですから。

■私には不要だと思う人にも
ある程度、経済史に詳しい人にとっては、ほとんど既知のことだと思います。ですからあまり読む意味はないかもしれません。しかし、いままでの常識を疑うような記述も含まれた本です。
「そういう見方もありか!」
と思う部分もあると思います。

前提知識があれば、本当に2時間で読めます。目を通してみるのも悪くはないと思います。ちょっとした新しい視点を手にすることができるかもしれません。

《参考記事》
■投資はお洒落で知的でかっこいい社会貢献だ!~新しい資金調達先としてのクラウドファンディングの可能性(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40855841-20140916.html
■自ら動く。その先にやるべき支援が見えてくる~『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40194832-20140805.html
■企業再生とは「なにもなくなってしまった自分たちに、小さなイチを足していくことの積み重ねだ」~『黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語』 中郡久雄
http://sharescafe.net/37593720-20140311.html
■仕事に「自己実現」を求めるな! 中郡久雄
http://sharescafe.net/35179535-20131127.html
■「従業員満足」で企業業績は上がるのか?  中郡久雄
http://sharescafe.net/34307228-20131029.html

中小企業診断士 中郡久雄

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