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新年の一面トップ記事に日本経済新聞が選んだ記事は、ニッポンの働き方を変革する必要性を訴えるものでした。ここ数年、毎年読む前に、今年は何がくるのかしらと思いながら手に取っていますが、「やはり」という印象でした。それ以上に、「長時間労働や年功を前提にした働き方はもう限界です」という表現に、代表的な経済紙である日経がここまで書ききれるようになってきたのだ、という想いを深くしました。記事にもありますが、「働き手の中心となる15~64歳は毎年数十万人規模で減り続ける。一方で育児や介護で働く時間が限られる『制約社員』は職場で増える。彼ら、彼女らが部長になり、役員になり、社長になる。それが当たり前の時代が、もうそこまで来ている」のです。

■「脇道」整備に留まらず、長時間労働そのものにメスを入れる時
同日の日経電子版では、イー・ウーマン社長の佐々木かをり氏の「脇道だけの整備、脱却を」とのインタビューが掲載されています。これまでの男性による長時間労働には手をつけず、その他の部分で制度を充実させてきた。・・・(中略)・・・でも、『脇道』だけの整備をそろそろやめなければいけない」と述べられています。佐々木氏が指摘している通り、これまで女性活躍推進がなかなか進んでいない根本原因は、会社の働き方が長時間労働を前提にしていることだと思います。ここを変えなければ、結局のところ、女性活躍推進はいつまでも「意識を変えなくては」という気の長い、あるいは「子どもを産む女性だけのためのもの」という認識から抜け出せません。長時間労働の見直しという人事戦略としての取り組みが求められます。

■働く男性が減っていく現実は無視できない
日経記事の中では、職場の最前線で女性が増えた一方で、育児休業取得者と短時間勤務者が増えたことによって業務が回らなくなっている事例が紹介されています。しかしながら、今後は出産育児よりも、むしろ介護に従事する人が増えます。男性も介護を理由に職場を離れざるを得なくなるのです。

男性の生涯未婚者は2020年には4人にひとりになると推計されています。介護離職者の8割は依然女性であるものの、平成14年から19年の5年で、男性は14,700人から25,600人に上昇しています。(内閣府「仕事と生活の調和レポート2011」より)。今までは働く男性が妻に介護を任せるという構図でしたが、それがどんどんできなくなっていく、ということを男性自身も、そして企業経営者も肝に銘じなくてはなりません。

このような環境に対応するためには、少ない時間しか働けない人たちをうまく組み合わせて、今まで以上に生産性を上げることが必要です。そのためには、業務内容・進め方・評価の方法全ての見直しも求められます。これは、休暇制度整備等の福利厚生だけでは対応出来ません。企業が生産性を上げていくための人事戦略ですし、企業経営そのものといえると思います。

■中小企業こそ取り組む必要性が高く、かつ、取り組みやすい
日本の企業で働く人のうち約7割は中小企業に所属しています。ここで長時間労働が減っていかない限り、日本での長時間労働が減ったとはいえません。また中小企業では一般に、人材確保が難しいとされており、今後、長時間労働できる人だけで運営することはより難しいと考えられます。短時間なら働ける、という人の活用は中小企業の方が必要性は高いのです。

また、長時間労働を廃止し、フレキシブルな労働時間を導入することは、むしろ中小企業の方がやりやすい側面もあります。大企業ですと、そもそも対象となる人数が多いですし、いろいろなケースの方がいるため、想定しなくてはいけないケースも多数になり、部署間の調整等、様々な要素が絡んできます。

中小企業においては、経営者が組織全体を見渡しやすいため、こうした大組織特有のわずらわしさは少なくて済みます。経営者と従業員の距離が近いということは大きなメリットなのです。各従業員一人ひとりの能力や将来の希望を踏まえて、各従業員が最大限に力を発揮し会社へ貢献してもらうにはどうしたらいいかをお互い話し合い、制度の整備等に先行して実質的に対応することが可能です。

実際に従業員数約15名の小規模企業の女性経営者で、短時間しか働けない優秀なスタッフの力を活用している方がいます。1か月前にスタッフの予定を聞き、かつ、店舗ごとの人件費予算の中で調整して業務管理を行っているのです。スタッフは、家庭や育児、介護等それぞれ「制約」がある人がほとんど。業務が早く終われば、早く帰るようにスタッフに伝えるため、スタッフの側には「必要なときに、必要なだけ効率的に仕事ができる」というメリットが感じられ、経営者とスタッフの間の関係は極めて良好です。人が集まらない、と嘆く前に、どうしたら細切れ時間しか働けない人たちに活躍してもらうかを考えることが大事です。

■新しい評価制度の導入を
これまで、従業員の評価は、どういった身分で(正社員・非正規社員)、どれだけの期間その会社で働き(年功性)、どれだけの時間仕事をしたか(残業制度)を中心に行われてきました。しかし、今後、制約社員が増える中で企業が業績を上げるためには、評価制度を創設する必要があります。ここが、おそらくほとんどの日本企業にとって直面する大きな壁になります。

売上を作る部署なら、会社に利益をどれくらいもたらしたのか、あるいは、スタッフ部門なら、どれくらいコスト削減に結び付く仕事をしたのか等、会社への貢献の軸をいくつか提示します。定数的な要素、定性的な要素、それぞれを列挙し、各項目5段階評価を複数の人によって行い、総合的に報酬を決定するなど、その方法については各社で議論をしていく必要があります。

労働時間はとてもわかりやすい指標でした。でも、もうそれだけに頼ることはできません。冒頭の日経新聞の記事は「一人ひとりが変化を恐れず、職場を見つめ直そう。その先に次のニッポンの働き方が見えてくる」という記述で結んでいます。2015年は、まさに、各企業でこの壁を越えていく、長時間労働が当たり前とされた労働習慣を打ち破っていく元年になるでしょう。

《参考記事》
■「大丈夫」じゃないのはお母さんだけじゃない。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42520618-20141222.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■「ママたちのプチ起業」論争が炎上中。その理由は? (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/41811124-20141109.html
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html

小紫恵美子 OfficeCOM代表 中小企業診断士

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