ハンバーガーs
あのマクドナルドが再び苦境に立たされています。今度は異物混入だそうです。日本人の衛生観念はたぶん世界でトップレベルで、食品への異物混入に対しても非常に厳しい意見が多いのだと思いますが、それにしても行き過ぎたマクドナルド叩きが目に付くような気がします。

■頻発する異物混入事故と対策の難しさ
食品加工業のことを知っていたり、あるいは直接知らなくても想像力を働かせられるなら、どんなに素晴らしい対策を講じていても食品加工で異物混入ゼロなんて世界はあり得ないというのは分かると思います。ですので、それを「絶対条件」として求めるほうがむしろ異常なのかもしれません。

例えば、イカリ消毒(株)という専門業者の分析センターだけでも、2010年時点で金属片だけで一日5件程度の検体が報告されていて、食品混入異物全体だとその6~8倍くらいで推移しているのだそうです。他にも同様の業者はたくさんあるでしょうし、当然報告されないものも多々あるはずで、実際の異物混入はいったいどのくらいあるのか想像もつかないようなレベルで日々発生しているのだと思います。たぶん。

対策は対策でできることをきっちりやってもらうとして、消費者のほうでも常に混入の可能性があることを理解しておくべきだと思います。本当に。

少し前に、ペヤングの商品に虫が入っていたという報道がありました。ペヤングは最終的には出荷自粛と全商品回収という対応を取らざるを得ないところまで追い込まれてしまいましたが、正直、あれには深く同情しています。日本人の衛生観念がおそらく世界でトップレベルで厳しいなんていう事情を知るわけがない小動物や虫、微生物たちがいつのまにか勝手に入り込んでしまうというのは、どれだけ気を付けていてもある程度しょうがない部分があるのではないかと思うのです。

先ほどのイカリ消毒のウェブサイトでは、食品への異物混入の実態とその対策について一般の人にも分かりやすく解説されています。それによれば、防除技術や防除機器が年々進化しているにもかかわらず、昆虫類による異物混入事故は減っていないのだそうです。

ペヤングの件はペヤングだからこそ注目ニュースとして拡散しましたが、食品事故としてはそれほど珍しいものではなかったのかもしれません。

■異物混入に関する法令・基準等の国際比較
異物混入に関して、おそらく世界中で最も理路整然と基準を決めているのは米国でしょう。FDAが「The Food Defect Action Levels」というのを決めていて、これが対策を取るべき異物混入の検知レベルを食品ごとに明らかにしています。つまり、「対策を取るべき異物混入」に満たないレベルを「異物混入の許容レベル」として規定しているわけです。

EUでは、上述のイカリ消毒(株)によれば、一般食品法規則178に食品への異物混入に関する説明を記載しているものの混入基準は明記されずとのことです。

韓国については、口腔内で異物を感知できるのが2mm程度以上との判断に従い、「長さ2.0mm以上の異物が検出されてはいけない」という基準を設定しているとのことです。

これに対して日本の基準がどうなっているかと言えば、いかにも日本らしい感じに仕上がっています。弁護士ドットコムによれば、食品衛生法6条4号で「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」の製造販売等を禁止する一方で、対象となる「異物」は特定されていないのだそうです。EUタイプですね。

検知レベルをどの程度にするかは企業の手に委ねられることになるのですが、規制でがんじがらめの中でこういう部分ばかりが自由というのは、如何なものなんでしょうか。

■「細かくは規定しないけどとにかく異物混入ダメ」という基準のもたらすもの
日本のような「細かくは規定しないけどとにかく異物混入ダメ」という基準は、結局のところ「やり方は問わず異物混入ゼロを目指せ」と言っていることになるのですが、そういうのってちょっと危ういように思います。

100%の安全というのはファンタジーです。いつまで経っても達成できるはずのないリスクゼロを目指す努力にはキリがないので、どんなに良心的な生産者でも、結局どこかのレベルで割り切ることが必要になるわけです。もちろん見込まれる収益マージンの中で許される範囲での努力しかできません。

生産者が守るべき具体的な基準がはっきりしていないと、多くの生真面目な生産者がやり過ぎなくらいやって生産性を落とす一方、一部の業者が生産効率重視のいい加減なやり方で時々問題を起こすような状況が起こりやすくなるかもしれません。また、いい加減な業者が価格競争で優位になる状況が続けば、良心的な業者も徐々に対策レベルを下げてコストカットせざるを得ないでしょう。悪貨が良貨を駆逐する状況が生じやすくなります。

誰も望まない異物混入を減らすためにも、事業者の生産性向上のためにも、米国的な合理性を許容する明確な基準の導入を厚労省には検討してもらいたいなと、切に思うわけです。

リスクや確率的な事象の考え方については、以下の記事も参考にしてください。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html
■「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~
http://sharescafe.net/42556186-20141224.html
■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。
http://sharescafe.net/42650114-20141230.html
■恒例の年初のご祝儀相場、今年は「微妙」と考える根拠。
http://sharescafe.net/42677785-20150102.html
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。
http://sharescafe.net/42781228-20150108.html

■まとめ
・食品への異物混入は、何としても避けたい事故です。
・食品への異物混入は、どうしてもゼロにはできない事故です。
・異物混入についての各国の基準は、具体的なものもあればお題目的なものもあります。日本は後者。
・お題目的な基準は、異物混入リスクを高め、生産性を阻害する可能性があります。
・異物が混入した食品に遭遇する可能性は誰にでもあります。不快ですが、寛容さは美徳です。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。