■女性が活躍できる職場づくりとは?
周知のとおり、日本は人口減少・少子高齢化の時代を迎え、今後の経済発展において「女性活躍の推進」による労働力の確保が重要という声が多方面から聞かれるようになりました。

IT企業で人事を務める一社員としての経験を踏まえ、社内の取り組みや事例にも触れながら、女性ITエンジニアの活躍を促進するために何が求められるかを考えてみたいと思います。

■需要の高まるIT業界
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によれば、情報サービス業は過去10年間に売上高合計が15%上昇している成長領域ですが、最近では2015年を開発ピークとする複数の大規模プロジェクトにより、多くのIT企業が「2015年問題」と呼ばれる人手不足に悩まされています。

2015年をピークとする大規模プロジェクトとしては、みずほ銀行の新勘定システム構築(開発規模3000億円、ピーク時開発要員数8000人)、マイナンバー制度システム構築(同3000億円)、日本郵政グループのシステム刷新(同4900億円、ピーク時開発要員数1万人)、東京電力の持ち株会社制移行に伴うシステム改修(同600億円)などがある。

「スクラッチ開発偏重が引き起こす人材不足」 ITmedia エンタープライズ 2014/08/06


情報処理推進機構が発表した「2014IT人材白書」によれば、IT企業の8割以上が「人材が大幅に不足している」または「やや不足している」と回答しており、まさに人材への需要が高い業界と言えます。

■IT業界の女性の職場環境について【掲載画像】リクルートテクノロジーズ様
IT業界の人材不足が叫ばれる一方で、「2013年労働力調査」の結果も示しているように、IT 企業が含まれる「情報通信業」の女性従業員の割合は26%(右記グラフ)と、他業界と比較して低水準です。

実際にIT企業の採用現場にいると、ITエンジニア中途応募者に占める女性比率は10%程度。ITエンジニアは男性が圧倒的多数です。
年齢ごとに見ると20代の応募者は女性比率が比較的高く、30代以上になると大きく低下する傾向があります。さらに、数少ない30代以上の女性エンジニアの応募者を見ると、ある共通点が浮かび上がります。一概には言えませんが、出産・育児などのライフイベントが落ち着いて、かつ前職で管理職やプロフェッショナルとして活躍していた女性の応募が多い。これは、何を物語っているのでしょうか?

■なぜ女性エンジニアは30代でキャリアを変えるのか
エンジニアの仕事は”専門性が高い”、言い換えれば”他人による代替の難しい仕事“であると言われます。例えばシステムの保守運用を担うエンジニアの場合、システム障害が起これば、深夜休日問わずに対応が求められることが多々ありえます。また、開発案件に参加している場合は、納期間際や開発途中のトラブルなどで夜通し作業が発生する可能性もあるでしょう。

こうした状況を踏まえ、結婚や出産といったライフイベントを迎える30代を前に、エンジニアとしてのキャリアを見直す女性が多いのではないかと感じています。たとえば、妊娠・出産を考えてみても、様々なリスクが女性にはついて回ります。妊娠中の体調は個人差が大きく、つわりがひどいなど体調が安定しない人も多くいますが、こればかりはなってみて初めてわかるというケースがほとんどです。そうした先の読めない状況に不安を感じやすいため、結果的に、30代以上でエンジニアとして働く女性には、いくつかの障壁を乗り越えてきた人々、またそういった障壁を乗り越えるだけの環境や専門性があった人々という共通項が見られるのかもしれません。

加えて女性エンジニアが少ないこと自体も、女性がエンジニアとして働き続ける弊害となっている可能性があります。IT業界自体が比較的新しい産業分野であるため、子供を育てながら現場のエンジニアとしてキャリアを積んでいく女性は少数派で、そうした働き方が「当たり前」となるにはまだ時間がかかりそうです。女性エンジニアの母数がそもそも少なく、かつ身近にいるのは突出したスキルや成果を残してきた先輩社員だけ、という状況では、「スゴ過ぎて私にはできない」と捉えられてしまうリスクも多分にあるように思います。こうした「自社の社員だけではロールモデルが不足している」という課題意識から、会社を超えた規模で女性エンジニアを対象としたセミナーを企画し、多様な働き方やキャリアの築き方の選択肢を提示しようとする企業も存在します。

■女性ITエンジニアが長く活躍できる職場作り
様々なライフイベントを抱える女性にとって働き続けることが難しい業界だからこそ、企業は、女性がキャリアを構築していける環境作りに力を入れていく必要があると感じています。その取り組みが、女性に限らず近い将来、親の介護を迎えるであろう男性社員にとっても働きやすい環境になるはずです。採用の面接現場でも、最近では「介護休暇の有無や利用状況」について質問する男性の応募者が増えています。

そうした背景のもと、「最適な配置転換」と「多様な働き方を支援する仕組みや制度」の2点が重要であると考えます。

1つ目の「最適な配置転換」とは、各々の状況や要望に合わせ「最適な」組織体制を模索することを指しています。実際に、出産前は開発現場でディレクション業務に従事していた女性エンジニアが、育休後、緊急対応が発生しにくく、比較的時間の融通がつけやすいデータ分析部門にキャリアチェンジした事例や、育休後、開発現場に復帰しながらも、周囲の協力を得て、16時帰宅の時短勤務でプロジェクトリーダーを務めるといった事例などが身近にありました。

単に役割を減らし、「誰でもできる簡単な業務をやってもらう」のではなく、日々のマネージャーとのコミュニケーションにおいて、「プライベートを踏まえ、どんな働き方をしたいか。次にどんなテーマにチャレンジしたいか」を協議し、双方が納得した状態でライフスタイルに合わせたキャリアの築き方を設定することが重要であると感じています。

2つ目の「多様な働き方を支援する仕組みや制度」については、育児休暇や介護休暇といった休暇制度を初めとして、勤務時間や勤務場所の選択肢を広げる制度など、様々な切り口からアプローチする企業が増えています。私の身近でも、3年ごとに約1ヶ月間の長期休暇と特別手当が支給される制度を、育児休暇の直後の女性社員が取得して「ならし保育」に活用した例や、子どもが誕生した男性社員が取得し、育児のために利用した例など、多様な需要があるのだと実感しています。

他にも、退職した従業員の再雇用を促進する制度や、在宅勤務制度など、その時々に合った多様なライフスタイルを想定し、男女の別に関わらず「働きやすさ」を向上するための制度を設計・導入する事例が増えています。

■様々なライフイベントを越えた後であっても活躍できる職場であるか?
さまざまな軸を起点に会社の制度や働きやすさを考え直していくフェーズに多くの企業が来ていると思います。結婚や出産、ひいては介護といったライフイベントがキャリアの曲がり角ではなく、通過点として受け止められるような職場環境を目指して、これまでの「働き方」や「当たり前」に疑問を投げかけ、会社の制度や取り組みを見直していくことが、今後ますます求められていくと感じています。

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鈴木もも 株式会社リクルートテクノロジーズ 人事部 採用グループ 

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