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司法書士を主人公としたドラマ「びったれ!!」第二話である。今回は、会社を解雇されてしまった旧友を助けるために俳優田中圭さん演じる主人公の司法書士が奮闘する…という内容だった。

■雇用をめぐるトラブルは、簡易裁判所の取り扱い事件として多い分野だ。
前回と同様、今回も雇用をめぐるトラブルを題材に取り上げたものだ。未払いの賃金、残業代、解雇予告手当を請求したりする事件というのは、内容によっては大きな金額とならないこともある。簡易裁判所の取り扱う事件としても多い事件だ。

このような雇用に関するトラブルで問題となることの一つに、「具体的に働いていた日にちや時間をどうやって証明するか」というものがある。タイムカードがない会社もあるだろう。またタイムカードがあっても定時で退社したことにされているものであれば、どのくらい残業しているのか…ということについては、証明の役には立たない。

それどころか、このようなタイムカードは不利な証拠にさえなってしまう。

以前、裁判所は、証拠のなかでも書類を重視する傾向にあるという記事を書いたことがある(「賃貸住宅を退去するときは「裁判」を意識して書類にサインをする」)。偽ったタイムカードであっても証拠書類として裁判のなかで登場することがある。これに対して、未払い金を請求する側として提示する証拠が何もない…となると、不利な裁判を強いられることもあるのだ。

■トラブルとなっているときは、書類に残す癖をつける。
ではこのような場合、どうすればよいか。

私は、事務所に相談に来る方に「トラブルとなっているときは、書類に残すようにしておきましょう」とアドバイスしている。

先ほど残業代などの請求の例を取り上げたが、勤務日や時間を手帳などにつけておく…ということでもよい。これも立派な証拠の一つとなる。よく「手帳のメモなんて自分で作れるものだから証拠にはならないんじゃないの」などと言われることがあるが、そんなことはない。少なくとも手帳のメモさえない場合は「いつ、何時まで働いたか」ということをはっきり主張することも難しくなる。手帳などにメモを取るという行為が、後の裁判の状況を大きく変えることになるのだ。

■トラブルとなっている場合は、相手に書面を送る。
書面に残す…というものは、もちろん雇用をめぐるトラブルに限らない。これまで度々取り上げてきた賃貸住宅のトラブルなどでもいえることだ。

例えば、賃貸住宅に入居したとき、すでにフローリングにキズがあったらどうであろうか。古い賃貸物件に入居した人であれば「多少、傷がついていることもあるだろう…」などとほったらかしてしまうこともあるだろう。しかし、退去するときになって大家さんから「入居中についたキズではないか」と言われてトラブルとなる可能性もある。

入居したばかりのころは、退去するときのことなど頭にないので、ついついそのままにしてしまいがちだ。以前紹介したとおり、賃貸住宅に関するトラブルはとても多い状況にあるのだから、トラブルに巻き込まれたときのことも想定しておく必要がある(「結局、敷金は返還されるのか?」)

期間の長い契約は途中で事情が変わることがよくある。途中で大家さんや管理会社が変わる…といったことも珍しくない。

このような事態を想定して何ができるだろうか。電話などの口頭でのやり取りで十分だろうか。

「前の管理会社の担当者に電話をしておいたから安心だろう」といっても、これが次の管理会社にしっかりと引き継がれるかは不透明だ。引き継ぎが不十分な場合、事情を知らずに新しい管理会社が入居者に修繕費用を請求するといったこともよくある話だ。「以前の管理会社にちゃんと伝えたはずだ」「いや、そんな話は聞いていない」という、この手のトラブルはとても多いのだ。

このようなときは、例えば「入居してみたところ、リビングのフローリングにキズがついていることを確認したのでお知らせします」という程度の文書を記録つきの郵便で送付しておくとよいだろう。内容証明郵便を利用するなど大袈裟なことをする必要はない。書留などの郵便でも十分だ。送った文書の控えと一緒に保管しておくとよい。

このような文書を出しておくだけで「キズが入居当初からあったものかどうか」という点についてはトラブルを回避することができる。裁判となった際に証拠として利用できるということだけではなく、そもそもトラブルとなること自体を防ぐ効果もあるのだ。

入居当初に限らず、入居期間中でも同じだ。トイレの水を流すレバーの調子が悪いが管理会社に電話をしても修理をしてくれない…といった場合、何度連絡をしても修理をしてくれないので面倒くさくなってほったらかすという人も多い。このようなケースも入居当初の例と同じく、文書を送っておくとよいだろう。

■まとめ
裁判となってからはじめて証拠となりそうなものは何があるか…と考えるよりも、トラブルとなることが想定される場合は、万が一裁判になってしまったときのことを意識していかに準備をしておくかということがとても大切だ。

今回ご紹介した「文書で残す」という方法もその一つだ。訴訟となったときに証明の材料となる。その文書があることで「言ったはずだ」「いや聞いていない」といったタイプのトラブルを避けることもできる。

「びったれ!!」第二話の雇用に関する問題やこれまでご紹介してきた賃貸住宅に関するトラブルなど、身近にあるトラブルに巻き込まれてしまった場合、トラブルがこじれる前にできることは案外とあるものだ。

司法書士を利用して情報収集をしてみるのも一つの方法だろう。司法書士と話をしながら、トラブルの展開を予想してみる。そして「今、どのような準備ができるか」を一緒に検討してみるのだ。

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及川修平 司法書士

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