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1月29日、スカイマーク社が民事再生法を申請した。

経営破たんは、大型旅客機のA380を購入して国際線に進出しようとした計画に無理があり、これが頓挫したことが原因であると、新社長の有森正和氏は会見で認めていた。

■席が広いことがビジネスクラスのサービスではない
後出しジャンケンと言われるかもしれないが、私は、スカイマーク社の国際線進出は、失敗する可能性が高いと懸念していた。

というのも、スカイマーク社の国際線サービスのコンセプトは、「大型機を導入して、ビジネスクラスやプレミアムエコノミークラスを安く提供する」というものであるが、会社から発表されるアナウンスでは「座席の広さ」以外が話題になることはほとんどなかったからだ。

私はサラリーマン時代、「海外事業室」という部署に所属していた期間が長く、たびたび海外出張にも出かけていたので、座席を広くしただけで利用者が選んでくれるほど国際線のビジネスクラスは甘い世界ではないことを体感していた。だからこそ、座席の広さしか話題にならないスカイマークの国際線参入は、ビジネスとして成り立つのか心配だったのだ。

■ホテル並みのビュッフェもあるラウンジサービス
ビジネスクラスのサービスは、エコノミークラスとは大きく異なる。

まず、飛行機に搭乗する前から、ビジネスクラスのサービスは始まっている。

たとえばJALでいえば、ビジネスクラス以上(最近はエコノミー正規運賃も利用可)の乗客が利用できる成田空港のサクララウンジは本当に快適な空間である。

朝食、昼食、夕食の時間帯に合わせて高級ホテル顔負けのビュッフェが無料で提供され、あらゆるアルコール類も無料だ。

電源の取れるPC作業スペースも用意されており、ビジネスマンにとっては、搭乗前の時間の有効活用ができる。私も、食事をとったあと、搭乗前に最後のメールチェックを行ったり、現地情報の確認をしたりするのに重宝してきた。

同行者がいる場合には、ラウンジで待ち合わせをするのも便利である。

このような点から、ビジネスクラスの主な利用者であるビジネスマンを囲い込むためには、空港ラウンジの提供は欠かせないサービスの1つであると私は思う。

だが、スカイマーク社が1日1便や2便国際線を飛ばしたとしても、採算性の観点から自社でラウンジを持つことは難しかったであろう。他の航空会社のラウンジを間借りするなどできなければ、集客には致命的になったはずだ。

■スカイマークはビジネスクラスの機内サービスを提供できたのか
次に、機内サービスである。

座席のゆとりももちろん大切であるが、ビジネスクラスの機内食というのは、かなりハイレベルである。

どの航空会社も、陶器の皿でコースとして提供される形であるし、メニューもミシュランで星のつくレストランと提携して開発したりしていて、地上のレストランも顔負けの豪勢さである。

私がとくにJALで感動したサービスに、和食を頼んだ場合、機内で炊き立てご飯がいただけるということがあった。CAさんに聞いたところ、地上との気圧の違いで苦労したが、試行錯誤を重ねて、空の上でも美味しいご飯を炊く技術を確立したとのことである。

間食も、ビジネスクラスでは、サンドウィッチやチーズのような定番のものだけでなく、ラーメンや明石焼など、B級グルメも選ぶことができ、そのバリエーションには目を見張ったものである。

このように、ビジネスクラスの食事のサービスには、どの航空会社も研究に余念がない。

食事だけではなくサービス一般にも同じことが言えよう。

JALやANAが長年蓄積してきた国際線サービスのノウハウを、スカイマーク社が一朝一夕に得ることはできないし、そもそも、これまで乗客の荷物の収納を手伝わないなど、「サービスの簡素化」を標榜してきたスカイマークが、国際線だけは「至れり、つくせり」に転換できたのであろうか。

「サービスの簡素化」をうたっていながらビジネスクラスに参入したこと自体がそもそも矛盾している気がしてならないし、まさかサービスは二の次でよく、「席が広いことがビジネスクラスだ」と考えていたとしたら、相当に的外れな話である。

■欧米線ビジネスクラス40万円でもコスト競争力は弱い
そして、スカイマークにとって最大の誤算になるかもしれないと私が思っていたのは、彼らが標榜している「価格の優位性」も崩れかねないということである。

確かに、JALやANAの欧州線や北米線のビジネスクラスの正規運賃は100万円程度だ。

だが、利用頻度の高い優良顧客となりうる、商社や大手メーカーなどに対しては、JALやANAも法人向けの特別運賃を提供している。

私もサラリーマン時代は、大手メーカーに勤めていたので、自分が出張したときの航空券が実際にどれくらいの値段だったのかを聞いてみたことがあるのだが、正規運賃からの割引率に驚いたことがある。

差支えがあるかもしれないので、具体的な数字をここで出すことは控えるが、スカイマークが「大手航空会社の半額で40万円」と言っていたのは、そこまでのインパクトにはならない、というのが実感である。

また、このような法人割引が受けられない場合であっても、最近は、ビジネスクラスの早割運賃もよく見かけるようになった。

そこまで大きく運賃が変わらないのであれば、多くのビジネスマンは、引き続き実績と安心感のあるJALやANAを選び続けるであろう。

■現地到着後の乗り継ぎネットワークはどうするのか
さらに言えば、現地に到着した後の乗継である。北米路線であればJALはアメリカン航空、ANAはユナイテッド航空と提携しており、米国に到着したあとの乗り継ぎがスムーズだ。

たとえば、日系の自動車メーカーであれば、インディアナ、アラバマ、オハイオ、ケンタッキーなどに工場があるので、出張者は、日本から米国主要都市の空港に到着したあと、国内線で移動しなければならないケースが多い。

スカイマークは、JALやANAのような国際線ネットワークに加入していないので、現地における乗り継ぎでも不便さが露呈してしまうであろう。

■今後のスカイマークに期待したいこと
結局のところ、多少運賃が安くなったとしても、「広いシートを提供する」というだけでは、ビジネスクラスの乗客のニーズをほとんど捉えきれていないということだ。

「広いシート」というのはあくまでも手段の一つで、「ビジネスマンが快適に出張を行えるようにサポートする」ということが、航空会社のビジネスクラスのサービスにおける真の目的のはずである。

西久保前社長の独自路線は全てが失敗だったとは思わないが、飛行機に乗る乗客のニーズに本当に耳を傾けていたのか、という点で、経営判断に疑問が残るのである。

乗務員のミニスカ制服のときも然りで、話題性があり客も喜ぶだろうという会社側の目論見は外れ、「そんなミニスカで緊急時に対応できるのか」とか「目のやり場に困って落ち着いて搭乗できない」とか、批判の声のほうが高まってしまったことは記憶に新しい。

今後、新体制で会社の再建を目指すことになるが、「JALやANAのようなフルサービスではないが、LCCとも違う」という立ち位置で何ができるのかを考え、「顧客のニーズ」と「スカイマークらしさ」が両立できるようなサービスを開発して、見事復活をとげてほしいものである。

《参考記事》
■スカイマークがミニスカ制服の代償として負う経営リスク 榊 裕葵
http://sharescafe.net/37786981-20140321.html
■東京都内の企業が有期社員を正社員へ転換したら助成金100万円支給へ! 榊 裕葵
http://ore-no-jyoseikin.blog.jp/archives/20377991.html
■“myamya”の眼鏡が1本5万円でも次々に売れる理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41144431-20141003.html
■銀座久兵衛式!?社員に黙々と仕事をさせないから繁盛するステーキ屋さん「然」の秘密 榊 裕葵
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あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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