【図1】 2014年に会社員等の賃金が4年ぶりに増えたと発表されました。アベノミクスは成功するのでしょうか?私たちの生活は本当によくなっていくのでしょうか? ■アベノミクスがやろうとしていること 今更ながらですが、アベノミクスとはいったい何なのか?について、“庶民目線”から見てみたいと思います。ここで“庶民目線“という意味ですが、庶民の目が届くであろう範囲、すなわち自分の財布の中身(賃金)と物価をベースに見てみるということです。 話を簡単にするために、インフレ・デフレの軸と好況感・不況感の軸の2軸で作られる4つの領域を考えます(図1)。ここでは厳密性はさて置き、その概念を説明したいと思います。 改めて説明するまでもないかも知れませんが、インフレは、物価が上昇し、お金の価値が下がる、そして賃金が上昇する(はずの)状態です。デフレは、物価が下落し、お金の価値が上がる、そして賃金も上がらない(はずの)状態です。 好況感とは金回りが良く、自分のお財布に余裕がある状態、不況感というのは金回りが悪く、自分のお財布に余裕がない状態です。 歴史を振り返ると、戦後の日本は基本的にインフレ経済のなか、好況・不況の波はあったにせよ右肩上がりの経済成長の道を歩んできました。みんなが将来は今よりも豊かになるという期待感をもって頑張っていた時代とも言えます。そしてそれは最終的にバブル経済に行き着き、崩壊へとつながっていった訳です。バブルが崩壊して何が起こったかというとご存じの通り”失われた20年”と言われるような長期のデフレ不況に突入していきました(注1)。 アベノミクスですが、簡単に言ってしまえば、デフレ&不況感のポジションからインフレ&好況感のポジションへ人為的に、半ば強引に動かそうとするものに見えます。そのために3本の矢と呼ばれる政策を動員するといわれています。ただこのとき気をつけないといけないことがあります。それは、物価は上がるのに賃金が上がらないと、スタグフレーションという最悪の状態になってしまうことです。 ■実際はまだ予断を許さない状況 概念としてはそうなのですが実際はどうでしょうか?上記で示した概念を実際のデータを使ってプロットしたのが図2です。横軸にインフレ率(%)、縦軸に賃金水準指数/消費者物価指数の比を用いています。縦軸の値そのものには意味はありませんが、庶民が感じる好況感、すなわち自分のお財布の中身と物価を比較して余裕を感じるかどうかを表す代替指標とみなしています(庶民は貿易収支がどうとか、GDPがどうとか言われてもぴんと来ません)。データの出所は、インフレ率、消費者物価指数(CPI):総務省統計局、賃金水準指数(所定内賃金+賞与等):日本労働組合総連合会。 【図2】 図2を見ると分かるように、概念で示したように単純に割り切れるものではありませんが、大まかな傾向は合致していると言えそうです。バブル崩壊以降インフレからデフレへ移行していったこと(グラフが左方へ)、バブルの余韻が終わった後は物価水準に対して賃金水準がどんどん下がっていったこと(グラフが下方へ)、リーマンショックで大きく変動した(2008年→2009年)ことなどが見てとれます。 そして昨年2014年ですが、政策の狙い通りインフレは進み、インフレ率2.7%となりました。一方、賃金水準指数/消費者物価指数の比ですが思うように上昇していません(2014年は2/5発表データから推計)。つまり庶民のお財布の中身は物価に対して余裕がなく、まだ厳しい状態と見てとれます。一部の人以外の財布の紐が固いのもうなずけます。 ■アベノミクスの成功のカギは賃上げだが 当然政府関係者はスタグフレーションに陥ればアベノミクスの成功はおぼつかないことは承知しているはずです。だから首相自ら、そうならないように、企業に賃金を上げてくださいと半ば強制的に要請をしているわけです。そうしないと意図した方向に進まないからです。 ただ一方で今や経済活動は日本一国だけで完結するものではありません。グローバルな競争のなかでコストダウンを求めて世界に出て行った企業がどこまで日本の従業員の賃上げに踏み切ることができるのか?その恩恵は庶民まで行き渡るのか?企業経営の大きな決断が迫られていると言えます。少なくともすべての企業が賃上げをできる状況ではないはずなので2015年は勝ち組と負け組の差がまたはっきりしてくるのではないかと予想しています。 注1)デフレ不況の間に、企業はコストダウンのために、生産拠点の海外現地化を進めたり、非正規雇用者を増やしたりすることで、日本の産業構造が大きく変わり、大きな問題を生むことになりましたが、ここでは詳細は割愛します。 【関連・参考記事】 ■予想外の米国雇用統計が投げかけたアベノミクスへの疑問 http://sharescafe.net/42861415-20150114.html ■アベノミクスを信任するかどうかは歴史に学べ~【書評】やりなおす経済史---本当はよくわかっていない人の2時間で読む教養入門 http://sharescafe.net/42068772-20141125.html ■徳俵に足がかかった黒田日銀 ~「2%の物価安定目標達成のために何でもやる」が金融を崩壊させる http://sharescafe.net/43006207-20150123.html ■円が1ドル120円を突破 円安の功罪 http://bit.ly/16s9gnR 皆川芳輝 ファイナンシャルプランナー/経営アドバイザ グローバルライフプランナーズ合同会社代表 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |