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2月から3月にかけて、進学や仕事のために新たに賃貸住宅の契約をするという方が増える時期だ。賃貸住宅を巡るトラブルとしては敷金の清算をめぐるものがとても多い。ドラマ「びったれ!!」の第3話でも司法書士が代理人として敷金の返還をめぐる裁判のお手伝いをする話が出てきた。

これまで退去する際の清算をめぐるトラブルを中心に賃貸住宅にまつわる記事を書いてきたが(「裁判官も巻き込まれる賃貸住宅の清算トラブル」)、今回は、日頃の相談事例をもとに、賃貸住宅の契約をする際の注意点をまとめてみる。

■契約をする前に物件を必ず確認する。
賃貸住宅の契約をする際に、これから借りようとする物件を一度も見ないまま契約をする…という方が少なからずいる。しかしこれは入居後にトラブルとなりやすいので避けた方がよい。よほど急ぐ事情でもない限り、必ず現場を見に行くべきだ。

不動産業者を訪れると、物件情報が記載された書類を見せられる。この書類には、部屋の間取りや備え付けられている備品類などの記載がある。物件を実際に見に行かない方はこの書類の情報だけを頼りに契約をしてしまっているのだ。

しかし、不動産業者が準備しているこの物件案内の書類は、誤った情報が記載されていることがある。仲介を依頼した不動産業者が自ら管理している物件であればそのようなことは少ないのだろうが、他の不動産業者の管理している物件となると、物件の状況をいちいち確認していないという例も多いのだ。

このような場合、例えば、部屋の間取り図を確認したときにはシャンプードレッサーがついていたはずなのに実際に入居してみたらなかった…などという、予想していた備品がないといったことでトラブルとなる。

入居者からよくある相談は「こんなはずじゃなかった。思っていたのと違うから契約を解除したい」というものだ。しかし、これはなかなか難しい交渉を迫られる。

大家さんとしては自分に落ち度がないのに契約を解除されてはたまったものではない…と言うだろう。不動産業者としても案内図面はあくまで参考程度のものでしかない…と考えていることが多い。

個人的なこだわりのポイントというのは、時として契約を解除しなければならないほど大きな問題ではないだろう…ととらえられてしまう。こうなると契約を解除して損害を賠償してもらうというのはとても難しい。

入居を検討している物件を見に行って自分の目で確かめるということをしておけば、このようなトラブルを避けることはできるはずだ。賃貸住宅の契約は場合によっては長期間となる契約だ。先々のことを考え、契約をするときはしっかりと準備をした方がよい。

■自分の考える契約の条件は、申込書に記載する。
契約をする前に物件を確認することで避けることのできるトラブルはある…と書いたが、それに加えてお勧めしていることがある。それは「契約の条件は申込書に記載しておく」というものだ。

先ほどシャンプードレッサーがあるかないか…という例を出したが、入居する際に自分で重要視しているポイントがあれば、仲介を依頼する際の申込書などの文書に記載をしておくとよい。

契約をする際の条件として考えている…ということが書類に残っていれば、不動産業者も注意をして調査をしてくれるだろう。調査不足であった際には、内容にもよるだろうが、損害の賠償を求めることができるケースもあるだろう。

書面に残しておくと「契約をする際に条件としてちゃんと伝えたはずだ」「いやそんな話は聞いていない」などの伝えた・聞いていないというトラブルを避けることもできるのだ。

■入居時の部屋の確認も忘れずに
賃貸住宅のトラブルで一番多いのは敷金や原状回復費用の清算だ。入居当初は退去するときのことなど頭にないものだが、退去する際に見つかったキズが入居前からあったものか、入居期間中についたものか…という点でトラブルとなる例はとても多い。

このようなトラブルを避けるために、入居当初の状況を確認しておくということはとても大切だ。

入居する際に不動産業者と立ち会って最初からあるキズを確認して書類に残しておくという方法がある。これは国土交通省の発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも推奨している方法だ。

入居の際にそのような立ち会いをすることができない場合は、入居当初からキズがある旨を不動産業者に文書で送付しておくという方法もある。

例えば「入居してみたところ、リビングのフローリングにキズがついていることを確認したのでお知らせします」という文書を記録つきの郵便で送付しておくというやり方だ(これについては「俳優田中圭さん主演「びったれ!!」にみる司法書士の使い方 裁判を不利にしないための準備とは?」を参考にして欲しい)。

■まとめ
賃貸住宅のトラブルというのは生活の本拠地をめぐるトラブルであるので、トラブルがこじれると日常生活に対する影響がとても大きくなるものだ。

しかし、今回ご紹介したようにちょっとした工夫をすることで回避できるトラブルもある。

さらに、今回ご紹介した「書類に残す」ことで最終的にトラブルがこじれて裁判となってしまった場合には「証拠」として役に立ってくれる。入居者は、万が一のために証拠を残しておく…という意識が薄いので、トラブルがこじれると不利な交渉や裁判を強いられてしまう。

トラブルになることが予想される場合は何らかの形で書類に残す…という癖をつけておくとよいだろう。

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及川修平 司法書士

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