花セラピー

私は社会保険労務士として仕事をしているので、企業から福利厚生について相談を受けたり、福利厚生サービスを請け負う業者の方からお話を伺ったりすることもある。

■福利厚生の変遷
我が国における福利厚生の歴史をたどると、高度経済成長期やバブル期の福利厚生は、「ハード」の面に重きがおかれ、大企業を中心に、豪華な社宅や保養所が建設された。

ところが、近年は、バブル崩壊、長引くデフレ、グローバル競争の激化など、様々な原因があって、企業の福利厚生は縮小される傾向が続いた。

また、成果主義的な賃金体系がとられるようになり、社員への還元は、成果に応じて賃金アップやボーナスで行うべきという考え方が広がったことも、福利厚生の縮小に影響を与えてきた。

しかしながら、近年、ワークライフバランスなどが注目されるようになり、大企業を中心にではあるが、福利厚生が形を変えて復活しつつある傾向にあると私は感じている。

■近年注目されているカフェテリアプラン
たとえば、近年のトレンドになっているのは「カフェテリアプラン」である。これは、企業が社員に一定のポイントを付与し、そのポイントの範囲内で、社員は企業が用意した福利厚生メニューを自由に組み合わせて使うことができるというものである。

社員が利用できるメニューには、提携するレジャー施設や保養所の利用、資格試験講座の受講、資産運用支援、メンタルヘルスのカウンセリングといったような、様々なメニューが含まれていることが一般的である。

■福利厚生で医療・健康メニューは使われていない!?
私は、このカフェテリアプランの利用状況の傾向を詳しく知りたいと思い、日本経済団体連合会が毎年発表をしている「福利厚生費調査結果報告」の最新版(第57回)を紐解いたことがあるのだが、意外な結果を知ることとなり、驚きを隠せなかった。

というのも、カフェテリアプランの利用状況を調査したページに目を通してみると、利用されているメニューの上位にはレジャー関係や資産形成関係が並んでいたのは予想通りであったのだが、一方で、医療・健康メニューの利用は、全体のたった2%(金額ベース)に過ぎなかったのだ。

これだけメンタルヘルスや過労死が社会問題となっているのだから、医療や健康に対する働く人の関心は、決して低くはないはずなのに、である。

私は、本当に働く人の医療や健康に関する福利厚生ニーズは低いのかな、と思い、勤務先にカフェテリアプランや、メンタルヘルスに関する福利厚生制度がある会社で働いている何人かの友人知人に話を聞いてみた。

その結果は統計のイメージに近く、「自分がメンタルを病むとは思わない」とか「確かに疲れているけど、まあ、中間管理職は疲れていて当然だよ」というような反応が多く、積極的にメンタルヘルスの問診を受けたいとか、疲れを取るためのカウンセリングを受けたい、というようなニーズはあまりなさそうであった。

一方で、私はメンタルヘルスに詳しい同業の社会保険労務士の先生にも疑問をぶつけてみたのだが、「なかなか自分が過労やメンタル不調であることを認めたがらない人も多い」、「上司が業務命令で診察を受けさせるくらいしなければクリニックに行きたがらない人も多い」、「我慢しすぎて、何かきっかけがあると深刻なメンタル不調に陥ってしまう」といった話を聞かせていただき、私は、なるほど、と思ったものだ。

企業側がいくら過労予防やメンタルヘルスに関する福利厚生メニューを用意しても、社員側に、それを利用するきっかけや、必要性があまり伝わっていないという傾向があるようだ。

■「花セラピー」との出会い
そんな折、私は、ある知人の紹介で、「花セラピー」というお仕事をなさっている宮摩耶子先生とお話をさせて頂く機会があった。

宮先生によると、花セラピーとは、花の力でこころを癒すセラピーで、その人にぴったりあった花を選ぶことで、仕事や恋愛で傷ついた心を癒したり、元気を求める人にパワーをあたえ勇気づけたりすることができるそうだ。

また、選んだ花、生けた花やフラワーアレンジメントから、深層心理を読み解き、本人も気づかなかった「本当の自分」を知るヒントを得ることができるのも大きな特徴ということである。

私は、宮先生の花セラピーを実際に体験させていただいたのだが、私が作ったフラワーアレンジメントを見て、先生はまず、「榊さんのアレンジメントは360度、どこから見てもまんべんないですね。」とおっしゃった。

続けて先生は、「ほとんどの人は多かれ少なかれ、自分の手前にある部分を重点的にアレンジする傾向にありますが、榊さんの場合は、どこから見ても隙がないようにアレンジしようとしていているということが伝わってきました。無意識的に他人の目を気にしすぎているところがあるかもしれませんね。そのことでストレスをためてしまう傾向があるかもしれないので、気をつけてほしいです。」と、アドバイスをして下さった。

私は「なるほど!」と思い、確かに言われてみればそういう傾向はあるので、自分がストレスをためているであろう原因に改めて気付かせて頂いたという意味で、大変感動したものだ。

逆に、私がいきなりメンタルのクリニックに行って、「何かストレスを感じていることがありますか?」と聞かれても、よほどの自覚症状がなければ即答はできないであろうし、むしろ、そもそもクリニックに行こうとさえ思わないであろう。

その点、心の奥底に引っ掛っているものを浮き立たせてくれた花セラピーは、心のトラブルの早期予防として役立つことは間違いなさそうだと私は実感させられたものだ。

■「セラピー」が福利厚生に活用されている例
花セラピーに限らず、私はこれまで「○○セラピー」と呼ばれるものは、個人が趣味や贅沢で楽しむものとばかり思っていた。しかし、宮先生の一件で、「セラピー」は企業においても、社員のメンタルヘルスを守るためのツールとして役立つものであると気が付かされたのであった。

そこで、自分なりに調べてみると、たとえば奥多摩では、企業研修の一環として森林浴を行い、免疫力を高めたり、ストレスを解消するという「森林セラピー」が行われていた。他にも、アロマセラピストを企業へ派遣して、アロマの香りによって社員のストレスを緩和するサービスを提供する事業者があったりとか、まだまだメジャーではないが、随所において「セラピー」は福利厚生として活用されているということが分かったのだ。

■「セラピー」を企業の福利厚生に取り入れてよう
今後、まずは年収1075万円以上の人に限ってということにはなりそうだが「残業代ゼロ法案」が導入されたり、労働者派遣法の改正や解雇規制の緩和といった動きもあるので、働く人に対する心身の負担は増えることが懸念されよう。

このような状況の中、「相談窓口を設置するとか」「産業医を紹介する」といったような、これまで通りの教科書的な対応だけで、働く人への心身の配慮は、果たして充分であろうか。

この点、気軽に、そして楽しく使えるメニューとして、福利厚生に「セラピー」を採用してみるのも効果的なのではないだろうかと私は思っている。

そのようなセラピーが提供されていれば、社員の方々も病院に行くときのように必要以上に構えすぎることなく、セラピーを受け、早期にメンタル不調を発見するきっかけになったり、メンタルの回復につなげたりと、良い影響があるのではないだろうか。

その結果、企業にとっても、過労死や、メンタル不調による休職者、退職者の発生を防ぐことにもつながり、労務管理上、プラス効果は小さくないはずである。

《参考記事》
■スカイマークの国際線参入は失敗が運命づけられていたと言える理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/43177514-20150202.html
■東京都内の企業が有期社員を正社員へ転換したら助成金100万円支給へ! 榊 裕葵
http://ore-no-jyoseikin.blog.jp/archives/20377991.html
■“myamya”の眼鏡が1本5万円でも次々に売れる理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41144431-20141003.html
■銀座久兵衛式!?社員に黙々と仕事をさせないから繁盛するステーキ屋さん「然」の秘密 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42065984-20141125.html
■ライフネット生命は「保険」を「貯蓄」という足かせから解放した。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41835101-20141111.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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