都心風景s
先月26日、「平成25年住宅・土地統計調査」の確報値が公表されました。5年ごとに公表されるこの調査は、日本の住宅と土地について、その居住や保有の現状と推移を様々な切り口から明らかにしています。また、その中から住宅数と空き家数にかかわるいくつかの項目を用いることで、空き家率が計算できます。

■意外に多い? 東京23区の空き家
首都圏の空き家率の推移については、BLOGOS等にも配信されている「マンション・チラシの定点観測」ブログの3月5日の記事「空き家率 1都3県の15年間の変化が分かる地図アニメ」が紹介しています。アニメーションで変化を視覚的に理解できるのは、分かりやすいし、面白いと思います。

記事をご覧になった方は、おそらく、「都心も意外に空き家があるんだなぁ」と、思われたのではないでしょうか?

実際、都心にはたくさん空き家があるのですが、その理由について考えるために、ここでは空室率について少し細かくブレークダウンしてみました。データ時点は2013年10月です。表中の「ボロ」は、元の統計表で「腐朽・破損あり」とされているものです。
空き家
こうして細かく見てみることで、いろいろ気づくことがあるものです。

例えば、
・東京の空き家率は、賃貸物件の空室率の影響が大きい。(23区は全体の52%が賃貸物件、全国では38%。)
・賃貸物件の空室率がかなり高い。特に豊島区、大田区、中野区等。
・千代田区、港区等、都心の空き家率は高いが、相対的には、特に賃貸以外について顕著な傾向。
・江東区はいずれの切り口でも空き家率が低い。
・足立区はボロ空き家は多いが、非ボロ空き家は少ない。
等々。

こうした気づきを片っ端から深掘りしてみるのも面白いかもしれませんが、ここでは特に都心三区(千代田、中央、港)の空き家率が、特に非賃貸で高い点に注目してみました。

■なぜ都心で空き家が放置されるのか?
表の右上、賃貸以外の物件の空き家率で上位となったのが、千代田区、中央区、港区の都心三区です。賃貸物件のランキングで中央区だけ空室率が低いように、切り口によっては必ずしも同じ傾向とはなりませんが、賃貸以外の物件に限って言えば、かなり似ています。

結論から言ってしまうと、都心三区で空き家が多いのは、これらの区では活発に不動産開発が行われているからなのです。

空き家が増えているというと過疎化が進むイメージを思い浮かべるのがたぶん普通なのですが、じつはそれとは真逆のことが起こっている場合もあるのです。

例えば、六本木ヒルズの開発では、元々500世帯ほどが住んでいた地区を地上げし、現在の形にするまでに、計画の公表から考えても約17年かかったと言われています。地上げは計画発表前から徐々に進められますし、途中でいったん頓挫して他の業者に引き継がれる場合等もあり、長い場合では数十年もの時間をかけて、その間徐々に、着工に至るまで空き家が増え続けます。

また、六本木ヒルズのような大規模開発ではなくとも、都心では至る所で様々な規模の不動産開発が進行中です。開発が進めば進むほど、一時的には空き家が増加するのです。

ただ、開発は何も都心三区のみで進行しているわけではありません。最も空き家率が低い江東区は、オリンピックに向けて大プロジェクトが目白押しですし、東急による駅周辺の大型開発が計画されている渋谷などもあります。では、なぜこれらの区ではそれほど空き家率が高くないのでしょうか?

これは、都心三区では、多くの一般地権者が関係する地区の開発プロジェクトが多いのに対し、江東区では都等が所有する埋め立て地、渋谷区では東急電鉄の鉄道跡地等、地上げの必要がほとんどないような地区が主な開発の対象となっているためでしょう。

グラフは、Googleトレンドで「区名+”開発”」による検索状況を調べた結果(2015/3/6取得)を、別途まとめたものです。(度数は相対的な値です。)
Gトレンド都心開発1
都心三区の開発への関心が相対的に高いのは、明らかでしょう。ただ、おそらくそれは、多くの人が待ちわびているから関心が高いというわけではなく、開発が自分自身に直接関係するという人が多くいるからなのだろうと思います。

■東京23区の空き家問題とは?
東京都区部では、地方で問題視される戸建ての老朽化した建物が放置されるケースも少なからずあるものの、重要な問題とまでは言えません。もともと割合は小さい上に、その多くは新たな開発に伴うものと考えられるからです。

では、東京都区部では空き家問題が重要ではないのかと言えば、そうではありません。東京には東京で、それとは別の問題があるのです。

東京で本当に問題視すべきなのは、賃貸物件の空室率の高さに象徴される、老朽化した集合住宅の空き家の問題です。老朽化した集合住宅が建て替えできず空室が増えることで、そうした集合住宅がスラム化することも考えられます。

集合住宅は、権利関係者が多いという特徴があります。古い物件の中には現在の建築基準では同じように建て替えできないものも少なくないこともあり、その中で権利関係者間で建て替えの合意に至るというのは、簡単なプロセスではないのです。

空き家が放置される問題では、東京には東京の事情、地方には地方の事情があります。地域特有の問題もいろいろあるでしょう。

空き家問題解決のために何らかの法改正等も期待されるところですが、現状を詳しく吟味することで、そうした様々な事情を汲みつつ、効果的な対策を考えていかなければなりません。

一人一人が当事者として、空き家問題について真剣に考えるべき時が来ているのではないでしょうか。

是非、以下の記事も参考にしてください。
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42894098-20150115.html
■新相続税制で注目が増す賃貸併用住宅、本当に怖いのは国税庁よりも空室率です。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42770251-20150108.html
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42781228-20150108.html
■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42650114-20141230.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html

■まとめ
・最近公表された「平成25年住宅・土地統計調査」確報値で、各地の空き家率の上昇傾向が確認されています。
・東京23区は空き家率の高い賃貸物件の割合が高く、全体の空き家率を押し上げています。
・都心三区で賃貸以外の空き家率が高い理由は、大勢の権利関係者がいる不動産開発が多いためです。
・東京の空き家問題は、老朽化する集合住宅の建て替え問題と大きく係っています。
・東京には東京の、地方には地方の空き家問題があり、効果的な対策が必要です。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家

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