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この3月から、再び小規模事業者やこれから創業するという人たちに対する補助金メニューが出始めています。起業をしようとする人たちにはとてもありがたい補助金ですが、「お金がもらえる」という意識でいると、あとから「そうなの?」と思うことも少なくないものです。

政府は、先進国の中でも目立って低い開業率を上げるため(10%を超えるフランス、イギリスに比べ、日本は5%台)昨年からベンチャー企業への投資の所得税優遇や、会社員の副業規制の緩和、補助金で起業家に年収500万円を保証する、といった政策を掲げています。政府がもろ手を挙げて起業を推進しているようにも見える現在、起業を目指していた人にはチャンス、と映るかもしれません。そんなときだからこそ、女性経営者を目指す人たちに、「お金の話、ここに注意して!」というところをお伝えしたいと思います。

■事業をやることと、組織の中で働くことの決定的な違い
組織の中で働いているときには、毎月自動的に入ってくるお給料=自分の収入、ですが、独立して個人として事業をする場合には、売上(収入)を上げ、その売上を上げるためにかけた費用を引いたものが利益、すなわち「自分の手元に残る収入」の源泉になります。少なくとも、かけた費用をわずかでも上回る売上を現金で回収し続けないと、新たな投資をしない限り、翌年には事業規模を小さくしていかなくてはなりません。だからこそ、なるべく少ないコストで売上を上げる努力を尽くし、きちんと利益を上げる、すなわち、「稼ぐ」ことが事業継続していくためには大前提になります。

稼ぐことは事業を進める上で、絶対に避けては通れないことです。「うなるほどお金があり、永遠に事業に手持ちのお金を出し続けることができます」というウラヤマシイ方はともかく、基本的に、事業に自分でお金を出す場合には「投資」となります。つまり、出したお金より多いお金がリターンとしてかえってこない場合、事業を続けていくにはさらに自分のお金をつぎ込まなくてはならなくなります。それは、自分のお金が目減りしていくことを意味します。もしこれが株に投資することを考えたら、出したらお金が減っていくような株に投資が続かないのと同じで、事業も続けられません。事業を続けるには、きちんと稼ぐことが必要なのです。

■女性に多い「稼ぐ」ことへの抵抗感の要因二つ
ところが、特に女性から、この「稼ぐ」ことに抵抗感がある、という声を多く聞きます。なぜなら、稼ぐという言葉に対するネガティブなイメージと、消費のプロであるという特性があるからです。

よく起業準備のためのセミナーでもお話するのですが、事業を通じて稼ぐことができなければ、年々事業投資できる大きさが減るため、事業は先細り、お客様の要望に応える商品やサービスを提供し続けたり、スタッフを雇い続けることもできません。いずれは事業から撤退せざるを得なくなることも。事業を継続することがお客様やお取引先を大事にすることにつながります。そのためにはもうけ「なければならない」のです。今まで私たちが受けてきた教育によるところも大きいとは思うのですが、ぜひ、事業継続のために「利益を出す」ことに対するネガティブなイメージを払拭していただきたい、と思います。

また、消費の64%は女性が決めているという調査データもある通り、どうしても女性は「消費者目線」に立ちがちです。しかしこれが諸刃の剣で、「安くしないと売れない」という誤った視点を持ってしまう危険性もあるのです。ぜひ、専門家に相談するなどして、価格戦略も含め、しっかりとした事業計画をたててから事業を始めてほしいと思います。

■注意しよう。補助金は永続するわけではない
補助金はあくまでも税金を使って、最初のスタートアップを補助するものにすぎません。また、資金繰りの観点から言えば、事業をやる前からお金が出るのではなく、実際に事業でかかった中で補助の対象となる部分についてきちんと領収書等をそろえて申請して、認められたものが出てくるという手続きを踏みます。順番としてはお金が出ていくほうが補助金で入ってくるより先なのです。最初のお金は自分で準備しなければなりません。業種にもよりますが、だからこそ、起業するには一定程度の自己資金が必ず必要です。

最初の年に何かと目減りしてしまいがちな資金が、補助金の形でおよそ1年後に戻ってくるのはその後の事業継続のためにはとてもありがたいものです。また、昨年あった所得補償も、不安な起業の船出の心のハードルを下げてはくれるでしょう。しかし、こうした「後払い」、そして、一回限りで永遠に出続けるものではない、ということを考えると、「お金がもらえる」という意識では危険ですし、一度補助金に助けてもらったあとは自分で「投資回収できない」リスクを取り続けることに変わりはありません。

事業をやるからには利益を生み出し、それを現金で回収して、継続することが大前提。そのために、ちゃんと知って、賢く補助金を遣いましょう。

小紫恵美子 中小企業診断士 OfficeCOM代表

《参考記事》
■起業した貴女に伝えたい、事業継続するために大切なこと (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40388849-20140817.html
■会計を知らずに経営をするべからず (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42067634-20141124.html
■「ママたちのプチ起業」論争が炎上中。その理由は? (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/41811124-20141109.html
■女性が経営者にむいている理由 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38119326-20140407.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206

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