鍵s
映画「イミテーション・ゲーム」を観たときに、チューリングたちが日々取り組む暗号解読作業にピンとこない方は少なくないかもしれません。この場合、まずは暗号がどんなものなのかを大雑把に理解するのが良いでしょう。

■暗号とはどういうものか、何となく理解したい
暗号は、簡単に言えば、暗号アルゴリズム(計算式)と暗号鍵(設定/パラメータ)から成ります。暗号化前のメッセージである平文を、暗号アルゴリズムで加工するのですが、どんな感じで加工するかというのが暗号鍵になります。そして、加工してできたのが暗号文です。

料理で例えると、平文である魚に対し、包丁で捌いて切り身にして小麦粉振ってバターで焼いてムニエルにするというのがアルゴリズムです。このとき、包丁でどのくらいの大きさにどんな感じに捌いて、どのくらいの小麦粉とバターで焼くかという「設定」が暗号鍵になります。で、その結果できて、お皿に盛られたムニエルが暗号文だと考えてください。

この場合、どんな設定(暗号鍵)だったかを知らなければ、ムニエルから元の魚の姿形やサイズを知ることは不可能です。(便宜上、そういうことにしておいて下さい。)

そして、どんな設定(暗号鍵)だったかを知っていれば、ムニエルから元の魚を知ることができるのです。(便宜上…)

ここでは、暗号鍵は同時に復号鍵でもありますが、暗号鍵と復号鍵が異なる暗号もあります。

■暗号の解読は、何をやっているのか
当時世界で最も洗練されたドイツの暗号機「エニグマ」は、この例で言えば、「包丁で捌いて切り身にして小麦粉振ってバターで焼いてムニエルにする」アルゴリズム(仕組み)を実装した機械です。

そして、映画の中でチューリングたちが長い時間を費やしてやっていたのは、平文である魚の情報がまったくない状態で、既知の暗号文である「お皿に盛られたムニエル」から未知の平文である「元の魚の姿形や大きさ」を言い当てるために必要な情報、すなわち日々改訂される「包丁での捌き方や小麦粉やバターの分量」の設定(=暗号鍵)を、その日が終わるまでに解明する作業だったわけです。

このような暗号解読法を、「暗号文単独攻撃」と言います。

暗号文しか分からないので、それをどうにかこうにかこねくり回して、何とか暗号鍵を見つけようという発想です。

この暗号文単独攻撃を、最初はありうる候補の全てを試す「全数探索」から始め、そこから合理的なロジックで暗号鍵の候補を絞り込み、計算を効率化することで解読しようとするのですが、これは結局上手くいきません。

その後、チューリングたちがエニグマの解読に成功したときに用いた暗号解読法は、「既知平文攻撃」というものでした。

上の魚の例で言えば、、、

と、ここではこのくらいで止めておきましょう。ここから先は、ぜひ映画を観て確認して下さい。

暗号というものが何となく分かった上で映画を観ると、おそらく、知らないで観るより何割か増しで楽しめるのではないでしょうか。

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■まとめ
・暗号について、魚のムニエルを例に説明してみました。
・暗号文だけから暗号鍵を見つけるのは、天才チューリングにも困難だったようです。
・暗号について何となく知っておくと、もともと面白い映画を一層楽しめるかもしれません。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家

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