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■高度先進医療と車の両輪を成すべき概念とは?
『セルフメディケーション』という言葉をご存知だろうか?たしか2000年頃から耳にする機会は増えた、端的に言えば「自分で自身の健康を管理する」という概念を指す。しかし残念ながら未だに社会に浸透しているとは言いがたい、「くすぶっている」印象の強い言葉でもある。

古くから日本では「病気になったら医者にかかって治してもらう」という固定観念が多数派であったのだが、「誰でもどこでも自由に病医院を受診できる」という先進国の中でも稀有な福祉環境整備である「国民皆保険制度」が1961年に確立されて以来、急を要する病状でも無いのに、自分の懐をあまり痛めず少ない負担額で、漫然と医者通いをする人たちが急増した。

■安易な医者通いが医療費を圧迫
最新の先進医療にかかる費用なども想像を超える額になる場合があるが、それらを考慮してもこれだけ各保険組合の財政難が叫ばれているにも関わらず一向に改善されない医療費増大問題の大きな原因の一つが「安易な受診・無用の投薬」であることは当時から変わっていない。

それ以前は少なからず誰もが抱いていた、「なるべく病気になりたくない、病気になる前に予防に励もう、自分の健康は自分で守るべき」という、今回取り上げた「セルフメディケーション」という当たり前でありながらも非常に重要な意識をこの制度がますます薄れさせ、「自分の健康は医師に、かかる費用は保険に」それぞれどっぷりと依存する傾向を増長させてしまったように見える。

今や毎日の血圧、脈拍、呼吸、体温、意識(顔色や気分の変化)といったバイタルサインをはじめ睡眠時間やその質(寝相までも!)などが市販の専用機器はもちろん、スマホ(高機能携帯電話:スマートフォン)やApple Watchに代表されるようなスマートウォッチなどで自動的にトレースすることが可能なヘルスケアアプリもあり、ハード・ソフト共に技術の進歩も目覚ましい。

それだけ「体調変化」に関心をもてるならば、歩数や消費エネルギー、ジョギングやゴルフ、サーフィン、フィットネスといったスポーツ時の記録などをするためだけではなく、適度な運動や食事バランスの検討、禁煙や酒量の調節など積極的に自身や家族の健康管理に務めるべきであり、大切なカラダを他人である医師や医療関係者に任せきりにしてはいけない。

■医療用医薬品の大衆薬(OTC薬)への転用を促進する動き

ところで2015年3月27日、日本経済新聞に次のような記事が掲載された。
処方薬を大衆薬に転用しやすく 店頭販売を拡大

厚生労働省は医師の処方箋が必要な医療用医薬品を、ドラッグストアなどの店頭で処方箋なしで買える大衆薬に転用しやすくする。

同じ成分を転用する要望を製薬会社だけでなく、健康保険組合や消費者からも受け付ける仕組みを年内につくる。胃腸薬や点眼薬が候補となる見通し。

医療薬と大衆薬の垣根を下げ、保険適用になっている医療薬を減らし、薬剤費の抑制にもつなげる。

2015/3/27 日本経済新聞

このニュースは「セルフメディケーション」を国民に啓蒙するためにも、地味ながら大変喜ばしいことのように思う。

財政難にあえぐ保険組合は、仮に少数だとしてでも大衆薬に流れる国民が増えればその分医療費の支払いを抑えることが出来るので、まさに医療費圧縮のための小さな一歩となる。

転用する薬は誰にでも分かりやすく、かつ取り扱いやすい花粉症やアレルギーに用いる薬や胃腸薬、点眼剤などが候補に挙がっている。メーカーとしても消費者への認知が広がり売り上げ増を期待出来るようなタイプの薬ならば開発意欲も高まるのではないか。

件の記事によれば厚労省も安全性が確認される薬は承認する方針で、これを受けた日本薬学会は既に大衆薬として安全に利用が可能な成分についての報告をまとめたという。

健康保険組合連合会もこのうち胃薬や点眼剤など6つの成分を要望する方針を打ち出しており、これが通るだけでも1,500億円の保険財政改善が見込めるのだそうだ。

大衆薬転用候補の6成分
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■国民の一人一人がセルフメディケーションを意識するべき
ここで声を大にして伝えたいことは、「病医院に行かず、我々薬局・薬店で薬を購入するべきだ」などという度量の狭い話では勿論ない。(… と、ここまで書いて調べてみたら実際に私の薬局におけるOTC薬を含む「医薬品」の売上は、全体の11.9%しか無かった(苦笑))

そんな事よりも限りある保険財源の垂れ流しを止めることが肝要であり、試算とはいえたった6成分を処方薬から大衆薬に転用するだけで1,500億円もの医療費を節約することが出来るのならば、私たち国民一人一人がもっと意識を改めて、無駄な受診・投薬を減らし疲弊した保険財政を支えることで、浮いた額を他の福祉に回すなどして次世代が安心して生活できるような地盤を残すべきではないかという事なのである。

【その他、こちらも参考にされたい】
■医薬品ネット販売の賛否は一旦さておき、現場ではたらく薬剤師が考える他愛もないけど重要な事。(山浦卓)
http://sharescafe.net/34951271-20131119.html
■コンビニ弁当で健康に?厚労省が来年4月に認証マーク導入という愚。(山浦卓)
http://sharescafe.net/40235965-20140807.html
■厚労省「健康な食事」のあり方に関する検討会の最終報告への3つの懸念。(山浦卓)
http://sharescafe.net/41272120-20141010.html
■厚労省「健康な食事マーク」の4月導入を目前に急遽見送り。(山浦卓)
http://045310.com/blog/kenkounasyokuji-mark-enki-kettei/
■市販の漢方薬と漢方薬局で調合される漢方薬は同じ?違う?(山浦卓)
http://045310.com/blog/how-to-choose-a-herbal-medicine/

※念のため付け加えておくが、「セルフメディケーション」とは医師や薬剤師など医療関係者の判断・意見を無視して好き勝手な健康法を行うということではない。くれぐれも取り違えをされないように。

山浦卓 漢方サント薬局 薬剤師 医学博士

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