SCOL32

先日、研修の仕事でサウジアラビアの20代半ばの人たちとお会いする機会がありました。そのときに、日本の雇用が話題に出たのですが、「終身雇用が保証されているから会社に居続ける、ということがどうして働き続けるモチベーションになるのかわからない」という質問がありました。

「2~3年働いていいオファーをもらったら転職する、というのがグローバルスタンダードではないのか」とのこと。「安定を保証されることよりも、チャレンジして成功することをモチベーションとする方が普通なのでは?」という考え方ともいえます。これはほかの国の方からも多く受ける質問です。

■転職しなくても、チャレンジはできる
確かに転職を繰り返して、自分にチャレンジするという働き方が日本でも一部で見られるようになってきています。日本では今、終身雇用と年功序列のセットが崩壊しつつあり、今までのように一社に長期間忠誠を誓うことで最終的に報われるという期待を持ちづらくなってきていますから、こうした転職を重ねていく「グローバルスタンダード」も受け入れられやすくなってくるでしょう。

でも、ちょっと待って下さい。会社を辞めて転職することが目的そのものではないはずです。もっと大事なことは、自分が成し遂げたいことであり、挑戦して成長することではないでしょうか。もちろんお給料の金額も大切だと思います。人それぞれ仕事に対する想いもあるかと思いますが、いずれにせよ、将来にとらわれて今をおろそかにするのは本末転倒です。まず今できることをもっとうまく、もっと効率的に、もっと生産的にすることができないか。その工夫はいくらでもできるはずです。

こう思ったのには理由があります。先日、私はある企業の新入社員研修のお手伝いをしました。その日のうちに新入社員の皆さんが書いた研修日誌を読んでコメントを書くという仕事があったのですが、そこで強烈に自分も反省させられたのです。

講義の中で自分のウン十年前の新入社員時代を思い出し、そのときの体験から感じたことを自分の言葉で伝えた場面が何度かありました。日誌を読むと、多くの人がその言葉をきちんと覚えていて、「アルバイトもしていたし、頭でマナーのことなどわかっているつもりではいたが、そうではなかった、できるように頑張りたい」という素直な気持ちがつづられていました。具体的にマナーや身だしなみについて、自分はここができていないから研修期間でこう直したい、という記述もあり、その素直に聴く態度や研修の中でも実行している姿に感心するとともに、自分自身こそ、その態度を忘れていないか?と思ったのです。仕事に慣れるにつれ、人の言葉に耳を貸したり、すぐに直したりする態度を取ることができているかどうか、と。

■新しいことに挑戦し続けているか
新入社員のときと比べて、ある程度仕事に慣れてくると、仕事を進めるうえでの人間関係や組織の動き方なども見えてきます。もちろん、こうした能力は大切です。限られた時間の中で、目的を達成し組織に貢献していくには、どうやったら仕事を早く確実に遂行できるかを求めることは必要なことだからです。

しかし一方で、こうした周りのひとたちや組織そのものに甘えたり、そのせいにしてしまったりするようにもなってきます。新人のときにはすべてやることなすこと初めてでドキドキしながら挑戦していたのでは?

私自身、今でも胃が痛くなりそうな「人生最大の緊張場面」が3つくらい思い出されるのですが、ひとつが最初の飛び込み営業のときです。初めて会社の名刺をもって自己紹介をしながらご挨拶に伺い、まずは顔を覚えていただける努力を・・・頭の中で何度もシミュレーションして、いざお客様の前に出るとうまく話せなかったり邪険に追い払われて落ち込んだりしたものです。顧客リストを作りつつ、自分がお客様とどういうやりとりをしたのかを思い出し、何がまずかったのかその日のうちに考える・・・といったことをしていた記憶があります。

このときのようなある意味「真摯な態度」が継続しているか、自分自身を振り返ってみてもどうだったかと考えてしまいます。実際法人営業に配属されてしばらくたつと、社内のパワーバランスなどが見えてきて、お客様に文句を言われるのはほかの部署が動いてくれないからだ、など、自分以外の他者のせいにしていなかったか・・・そこを変えようという努力をしていたかしら、と。

■自分がまだできることを探して、ないと思ったら次の職場にチャレンジ
仕事で成果を上げるといっても華々しいことでなくていいのだと思います。今までは一日かかっていた仕事が半日でできるようになったり、クライアントと話をするときの自分のストレスがぐんと減ったり・・・。この1年/3年/5年で自分が出来るようになったことをリストアップして、自分をほめてみてはいかがでしょうか。私も、たった1か月の販売研修で、お客様のインターホンを押すときのドキドキ感はおそらく半分以下になったと思います。それだけ最初がきつかった、のですが。

その後で、今年一年でもっとできるようになりたいことはないか探してみると、新人のようにモチベーションがあがるかもしれません。人に言う必要はありませんが、一年後に振り返れるように手帳の空きスペースにメモしておくことをお勧めします。出来ることを増やすことは本人も周りも会社も楽に、楽しくなることです。逆に、いくら考えても、もうやりきったと思えるようなら、そのときは、新しい部署、あるいは新しい職場を求めるタイミングなのかもしれません。

新人の必死さを見て、すでに社会にどっぷり浸かっている私たちももう一度、チャレンジする気持ちを思い出すのにはいい季節です。4月も2週間を過ぎて、新人も少しだけ慣れてくる頃、私たちも新人に魅力的に映るように、チャレンジ精神をリニューアルしたいものですね。

《参考記事》
■新社会人女子が20代を楽しみながら成長するための3つのヒント(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44015731-20150328.html
■2015年は長時間労働崩壊元年に(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42734491-20150104.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html

小紫恵美子 OfficeCOM代表 中小企業診断士

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