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今年に入って毎月のように、「審査件数が増えているため決定の通知が届くまでに、今まで以上の期間がかかることが予想されます。」と管轄官公庁より言われる、非正規雇用労働者を対象とした助成金があります。

厚生労働省の雇用関係助成金に関する手続きは、社会保険労務士の独占業務となっているため、私の場合は主に神奈川や東京の官公庁に申請してきましたが、実際にこの助成金の効果は表れているのでしょうか。

この機会に、非正規雇用と現状、対策、今後について順を追って見ていきたいと思います。

■最近の非正規雇用の状況
非正規雇用とは、正規雇用以外のパート・アルバイト・契約社員・嘱託・派遣労働者などです。「平成27年2月労働力調査結果」(総務省統計局)によると前年の同月に比べて、この非正規雇用労働者が減少し、正規雇用が増えたことが分かりました。

昨年では、アベノミクス効果により完全失業率は低下したものの、実態は、非正規雇用が増えただけとの指摘もありました。実際に、平成26年の非正規雇用労働者の割合は過去最高の記録を更新しています。

しかし、現時点で最新の今年3月までの労働力調査の結果を前年同月と比べて詳しく見てみると、正規雇用労働者が増えています。そして、非正規雇用の増え幅は前年より減少傾向にあります。

これには、国が非正規雇用問題対策として力を入れてきた、冒頭で述べたキャリアアップ助成金や、法改正などによる効果が表れてきたことが要因の可能性の一つとして考えられます。

ただし、あくまでも対前年同月で見た場合ですので、まだ効果が表れているとまでは言いきれません。今後の変化がどのようになってくのか期待されるところです。 

■非正規雇用が長期に増え続けた原因
バブル経済が崩壊し、平成の不況が続く中、コスト削減・法律による解雇規制への対策として非正規雇用労働者を雇入れる企業が増えた背景があります。そして、続くリーマンショックにより、さらに景気の回復が遅れ、正規雇用に慎重になる企業が非正規雇用を代用してきたことなどが原因にあげられます。

■データに基づく非正規雇用の実態と改善の兆し
非正規雇用労働者の割合は、平成15年から平成25年にかけてゆるやかに増え続け、平成26年が過去最多となりました。 

「労働力調査結果」(総務省統計局)
       正規雇用  非正規雇用  非正規雇用労働者の割合
平成10年  3794万人, 1173万人  (23.6%)
平成15年  3444万人, 1504万人  (30.4%)
平成20年  3410万人, 1765万人  (34.1%)
平成25年  3294万人, 1906万人  (36.7%)
平成26年  3287万人, 1962万人  (37.4%)

しかし、前述したとおり、今年の前年同月に対しての増減をみると、正規雇用労働者が増え、今年2月には非正規雇用労働者が減り、昨年に比べ全体的に改善傾向にあるようです。

「労働力調査」(総務省統計局)平成27年3月分まで 対前年同月増減(単位:万人)
         3月 2月 1月 12月 11月 10月 9月 8月 7月
正規雇用労働者  38 58 31  18 -29   7 36 -4 -6
非正規雇用労働者  9-15 33  49  48  16 30 42 60

これは、国が力を入れてきた、非正規雇用対策への効果が出始めたということなのでしょうか。 

■なぜ非正規雇用が増えることに問題があるのか
それではまず、非正規雇用の問題にはどのようなものがあるのかあげてみることにします。

1.正規雇用と比べ、賃金が低い
2.雇用が不安定
3.キャリアアップの機会が乏しい(教育訓練を実施している事業所は正社員の約半分)

上記の他にも、昇給、賞与、退職金、社会保険などの待遇も正社員に比べて大きく下回っていることなど、様々な問題があります。

このような非正規雇用労働者が増え続ける状況を改善するために、国では総合的な施策を進めるとともに、法令・制度の改正も行ってきました。その中の一つとして、キャリアアップ助成金の創設や労働契約法の改正などがあります。

■長期化する非正規雇用への国の対策
キャリアアップ助成金とは、有期契約労働者・短時間労働者・派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者の正規雇用への転換、人材育成、処遇改善など、事業所内でのキャリアアップを促進するため、これらの取組を実施した事業主に対して助成をするものです。
計画的に活用することで、労働者の仕事の能力を向上させ、さらに、優秀な人材を確保するためにも有効な助成金です。(注:但し、助成金を受給するには一定の要件を満たす必要があります。)

平成 25 年度予算で、アベノミクス助成金の一つとして創設され、平成26年、27年と助成内容のコースが一部増設されたり、金額が増額されたりして拡充してきました。
さらに、同じような趣旨で、若者チャレンジ奨励金というものがあります。時限措置のため既に受付は終了していますが、35歳未満の非正規雇用の若者を人材育成した後に正規雇用への転換に繋げるという内容のものです。この奨励金も、長期化する若者の非正規雇用に対する対策として創設されたものです。

これらの助成金を活用することにより、最初は非正規雇用として労働者を雇い入れ、人材育成をしたり、後に優秀な人材を正規雇用へ転換したりする事業所が、地域により差はあるものの、徐々に増えてきていることが予想されます。

平成25年~26年に非正規雇用の求人件数が増えたのは、非正規雇用労働者を対象とするキャリアアップ助成金等の影響も一つの要因だと考えられます。また、その際に雇い入れられた非正規労働者の正規雇用への転換が増えてきたことが、ここ数か月の労働力調査の結果に反映されている可能性も考えられます。

ただし、キャリアアップ助成金は一定の要件を満たす企業(個人事業を含む)が対象であり、助成金の存在自体も知っている必要があるため、あくまでも労働力調査の対象者の一部となります。正確な統計は今のところ非公開となっており、地域によっても差はありますが、2月・3月・4月と件数がかなり増えていると聞いています。

法改正についてもいくつかあげられますが、主なものとして労働契約法の改正があります。労働契約法においては、平成25年4月に全面施行された、「無期労働契約への転換」により、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みによって、期間の定めのない労働契約に転換できるルールができました。

■雇用の安定と事業の継続に向けて
現在、経営者は次の2つを同時に視野に入れなければならない状況にあると思われます。

1.リスク回避や業績不振の場合の人件費削減
2.これから加速する人材不足に備えた優秀な人材の確保

経費の中でも、人件費は高額であり、その分リスクをともなうため、雇い入れにはより慎重になります。上記の二つを同時に補うことのできる機能を備えた補助があれば、雇用に踏み切れる小さな会社も増えます。

新規雇用や既存の非正規労働者に対して戦力となるための教育訓練をしている間に賃金助成があり、さらに、正規雇用転換を対象とした助成金の存在が、キャリアアップして目標を達成した優秀な労働者を正規雇用へと転換するきっかけとなる。この仕組みを備えたキャリアアップ助成金は、上手に活用することで、前述の1と2を実現する可能性があるだけでなく、経営者自身にも、人を育てる経験を積み、事業を継続するための能力が磨かれる機会にもなるでしょう。

■これからの非正規雇用に対する改善への期待
東京都では、国と連携して、キャリアアップ助成金に上乗せされる「正規雇用転換促進助成金」というものが新設され、4月15日から受付が開始されています。内容は、非正規労働者を正規雇用転換した事業主に、国のキャリアアップ助成金の正規雇用等転換コースに一人当たり最大50万円を上乗するというものです。

非正規雇用問題対策のための助成金は、このように、非正規雇用から正規雇用へと転換する流れがあることもあり、いきなり効果が見えるものではありませんが、徐々に効果が出始めると予想されます。私も、最新の研修や説明を受け、多くの助成金申請業務を受任してきましたが、今年度は「多様な正社員コース」が新しく追加され、女性の活躍推進と合わせて、国が益々力を入れるという姿勢が伝わってきます。

ただし、仮に、数字で今年の正規雇用労働者の割合が増えたとしても、単純に喜んではいられない状況にあることも考えられます。助成金による一時的、且つ一部の効果だけでは限界もあるでしょうし、日本経済の成長のためには、解雇規制の緩和を含めた、雇用の仕組み自体を見直さなければならない時期にきていることをも視野に入れて、長期的に先を見据えていく必要もあると思われます。


【参考記事】
■起業大国を実現するための、女性の『小さな起業』とは? (漆原かなえ 特定社会保険労務士)
http://sharescafe.net/43701838-20150308.html
■マクドナルドの「原価」を調べてみた。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/44389378-20150422.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか? (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/44175529-20150408.html
■子育てしながら働き続けることを決めた女性に伝えたい、「大変な今」の過ごし方(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43392651-20150215.html
■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44386900-20150421.html

漆原かなえ 特定社会保険労務士 かなえ社会保険労務士事務所代表

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