7a8ae198bb0931245eae435184c0e775_s

社会保険労務士の仕事をしていると、経営者の方から社員の解雇に関する相談を受けることがたびたびある。

■業務命令に従わない社員を解雇したい
事情を伺っていると、「業務命令に従ってくれないので解雇したい」というパターンが圧倒的に多い。

解雇というと、世間一般的には能力不足をイメージする方も多いかもしれないが、少なくとも私のところに相談に来る経営者の方々は、本人が素直でやる気があれば、解雇をするよりも、何とか一人前に育ててあげたいという暖かい方のほうが多い。

だか、そんな暖かい経営者の方でも、会社の方針に従ってくれない社員には、手を焼いてしまっているのだ。

■社員は3タイプに分けられる
私は、社員は3つのタイプに分けられると考えている。

第1のタイプは、社長の考えに心から共感してくれる社員だ。このような社員は、モチベーションが高く前向きで、能力の高い低いに関わらず、全力で仕事に取り組んでくれる。能力が低かったとしても、努力でそれをカバーしようとするし、実務経験を積む中で最終的には成長してくれることが多い。会社として最も大切にしなければならない社員である。

第2のタイプは、社長の考えを理解し、与えられた仕事は確実にこなす社員だ。一般的な会社では、このタイプの社員が層としてはいちばん多いであろう。社長としては多かれ少なかれ物足りなさを感じることもあるかもしれないが、言われたことは素直にこなすので、安心して雇用できる人材であることは間違いないであろう。

第3のタイプは、社長の考えを否定して、素直に仕事に取り組もうとしない社員だ。業務命令を与えても「私はそうは思わない」とか「そんなことはやっても意味がない」とか、いちいち自分の意見を押し出さずにはいられない社員である。ある程度の能力がある人のほうが、このタイプになりやすいという気がしている。

■「自分の意見を言う」の意味を勘違いしてはならない
確かに、世間的には「イエスマンにならずに、自分の意見を言うべき」というような風潮があるが、私が思うに、第3のタイプは、これを勘違いしている人が多いようだ。

「自分の意見を言う」というのは、社長の考え共有した上で、社長が目指すものを実現するためのプロセスや手法についての意見を交えるのはOKということである。

だが、社長の考え自体を否定する人は、会社にとって百害あって一利なし。議論の余地はなく、社長としては、「君がそう思うなら、うちの会社を辞めて、自分で会社を作ればいいじゃないか」と言い放つしかない。

社長は自分の私財も担保にして、命懸けで経営をしているのである。そんな社長の考えを、立場の違う社員が否定できるはずはないのだ。

多くの社長は、経営理念を共有している限り、社員から意見が出ることを大いに歓迎していらっしゃると私は感じている。しかし、会社の理念自体を共有できなければ、それは「反発」「反抗」でしかない。

■ワタミの理念集について一言
この点、「24時間365日働け」などワタミの理念集が大きな社会問題となったが、理念集には、経営者としての視点で見ると、一理ある文言も散見される。

「どんな失敗をしても許してあげる。しかし、この理念集を否定したときは、君たちにこの会社を去ってもらう。」

たとえば、上記一文などは、会社の経営理念が「お題目」になっている会社も少なくない中、自社の経営理念を大切に扱うという意味において、経営者は見習うべき姿勢であると私は思う。

ワタミに対しては労務管理上の問題点があったことや、様々な社会的批判があることは私も重々承知しているが、「失敗をした社員よりも、経営理念に従わない社員のほうが経営にとっては問題である」ということを見抜いていたのは、素直に評価に値する話なのではないだろうか。

■業務命令違反は債務不履行だ
経営理念の話からもう少し具体的な話に進むと、会社の方針に従うよういくら指導しても、社員が聞く耳を持たなければ、それは明らかに業務命令違反である。極端な話、賃金を支払う必要はない。

民法上の原則に戻ると、「債務の本旨に従った履行」がなければ債務不履行である。

たとえば、会社としては「営業担当者」として採用し、外回りをしての営業活動を命じたのに、会社に閉じこもって調べものばかりしているような社員がいたら、そのような社員に給料を払う理由はないのである。

このとき、契約の解除、すなわち解雇も可能である。

■経営者は、解雇に関わる裁判は避けるべきだ
ただ、これはあくまでも純粋な法的ロジックの話であって、裁判になって勝てるかどうかは別問題であることに気をつけていただきたい。

会社には、再三指導しても被解雇者の勤務態度が改まらなかったことや、業務命令に従わなかったことなどの立証責任が求められる。

たとえ神様の目から見て正しいことであっても、立証ができなければ勝てないのが裁判というものだ。裁判は金銭的にも精神的にも大きな負担があるから、現実的に解雇に絡む裁判の当事者になることは会社にとって望ましいことではない。

■採用段階は能力よりも共感重視で
そこで私は、ひとつの結論に達した。

結局は、入り口で規制するしかないということだ。すなわち、能力よりも、「素直で謙虚さを持った人」や「社長の考え方に共感をしてくれる人」に重きをおいて採用活動をすべき、ということである。

人間の能力は、教育をすればそれなりに引き上げることはできるが、考え方や価値観というのは、容易に変わるものではない。

だから、どんなに能力が高い人であっても、会社の価値観に合わない人は絶対に採用すべきではないし、さらにいえば、能力が高い分、会社が目指すべき方向とは違う方向で、その能力が発揮されると、それは凶器にもなりかねない。

内定欲しさに表面上は「大変素晴らしい経営理念ですね」といったように同意をする応募者もいるかもしれないが、そこは、目や表情を見て、あるいは言葉の節々から、本当に共感をしているかを見極めてほしい。

■有期雇用契約を前置きすることで一石二鳥になる
なお、もうひとつ、社員を見極めるための有効な対応策としては、最初から正社員として採用するのではなく、まずは有期雇用契約を結ぶということである。

有期契約であれば、当該社員に問題があった場合、契約を更新しなければ当然に雇用関係は終了する。

これに対し、一般的によく見られる「試用期間を設ける」という場合は、あくまでも正社員としての雇用契約は成立しているので、試用期間中の解雇が許されるとは限らないし、14日を過ぎたら解雇予告手当の支払も必要である。

また、有期契約した社員を、6ヶ月以上経過後に正社員に昇格させた場合、それだけで50万円が受給できる「キャリアアップ助成金」という助成金制度が存在していることも、私が有期雇用を推奨する理由の1つである。

社員の適性を見極めることができ、しかも1人あたり50万の助成金が受けられるのだから、これを使わない手はない。

採用の失敗は会社にとっては大きな負担になってしまう。しかし、逆に採用が上手く行けば、本業の発展はもちろんのこと、助成金の受給チャンスにも恵まれ、会社にとってはまさに一石二鳥なのではないだろうか。

《参考記事》
■独立開業だけじゃない。「資格をとることのメリット」を改めて整理してみた。 榊 裕葵
http://seep-jp.com/seeplink/blog/2015/03/24/post-1636/
■我が国において、「いつ起業するか?今でしょ!」と断言できる理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42665218-20141231.html
■“myamya”の眼鏡が1本5万円でも次々に売れる理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41144431-20141003.html
■銀座久兵衛式!?社員に黙々と仕事をさせないから繁盛するステーキ屋さん「然」の秘密 榊 裕葵
http://sharescafe.net/42065984-20141125.html
■ライフネット生命は「保険」を「貯蓄」という足かせから解放した。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41835101-20141111.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。