うつはうつる
俳優の萩原流行さんがバイク事故で亡くなった。心からご冥福をお祈り申し上げたい。一部報道によれば、事故の遠因として「うつ病」に罹患していたことが挙げられている。

■「うつ」は「うつる」のか
萩原さんといえば、夫婦でうつ病であることを赤裸々につづった著書「Wうつ ~うつが、ふたりを本当の夫婦にした。~」を出版したことで知られている。20年以上にわたりうつ病の妻の看病に励み、自身もうつ病の治療中であったという。

さて、「夫婦でうつ病」と聞くと、例えば空気感染のように「うつ病はうつるのか」という疑問が生じるかもしれない。萩原さんのように家族間で精神疾患歴を有する場合もある。研究から、「うつ」を含めた精神疾患において遺伝的素因が関係することが分かっているが、原因のすべてではない。いくつかの原因が複合的に影響して発症すると考えられており、ストレスを受けやすいまじめな性格(生物学的要因や心理学的要因)、ストレス(環境要因)などが複合的に作用し、発症が促されると考えられている。

■職場でメンタル不調者が発生したら
とはいえ、職場で一たびメンタル不調者が発生したところ、同じ部署でメンタル不調者が続出してしまった、という経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないか。まるで感染症が一気に広まったかのように。

職場でのメンタル不調の要因はさまざまである。厚労省による「平成24年労働者健康状況調査」結果によれば、労働者が強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄の内容(3つ以内の複数回答)をみると、「職場の人間関係の問題」(41.3%)が最も多く、次いで「仕事の質の問題」(33.1%)、「仕事の量の問題」(30.3%)となっている。例えば、近年社会問題化しているブラック企業に勤めてしまえば、ほとんどの人は心を病んでしまうであろう。

職場でメンタル不調が蔓延しないためには、労働者自身のセルフケアだけでは対応は難しい。筆者の組織人としての経験からも、組織の末端である労働者個々人でできることには限界がある。職場のメンタル不調を低減させるには、上司によるラインケアや管理監督者によるケアが必須だ。「人が欠けた部署には柔軟に人を配置する」「欠員分業務が過多となっている社員と適宜面談を行い、心身の健康状態に配慮する」等、柔軟かつ具体の措置が肝要だ。

不幸にも職場でメンタル不調者が発生した場合、起こりがちなのは「詳細の状況を末端にはクローズしてしまう」ことである。ある日出勤すると、あれ?Aさんが出社していない・・・課長も係長もそれには触れないし、何か周りに事情を聞きづらい感じ。しかもAさんの抱えていた案件が僕のデスクに・・・。

上司としては、従業員間に無用な心配を与えたくなかったのかもしれない。近年、病歴を含めたプライバシーにも配慮が求められる時代である。しかしながら、どこの会社にも事情通は存在するものだし、1~2週間出社しない社員がいたら、自ずと異常事態であることはだれの目にも明らかとなってしまう。勿論ケースバイケースの対応とはなるが、同じチームのメンバーには、最低限の状況を説明し、暫時の業務分担について指示し、向かうべき方向を示すことが必要だろう。先が見えない不透明な状況においては、お互いに疑心暗鬼となり、いい結果は生まれない。不満の矛先は、事実を隠す上司や、不幸にもメンタル不調で休んでいる社員自身に向く。先々の復職においても悪影響を及ぼす懸念がある。

■メンタル不調者は職場のカナリヤである
先日、「メンタル不調者は職場のカナリヤである」という言葉を耳にした。カナリアはかつて炭鉱で、ガスの異常を感知するために使われていたことによるそうである。カナリアの異常は多くの炭鉱夫の身に危険が差し迫っているということ、つまりは、職場に1人でもメンタル不調者が出たら、潜在的な予備軍はほかにもいると考えたほうがいい、ということであろう。

「メンタル不調になったのは、あいつが弱かったからだ」と結論付けるのは簡単なことだ。ただ、現実にはメンタル不調に陥るまで十数年問題なく働き続け、成果を上げ続けてきた人が大勢いる。倒れた人を叩くという易き道を進むのではなく、「職場環境のマネジメント」という視点から、この問題について考察する必要があるのではないだろうか。

【参考記事】
■メンタルが限界だと思ったら誰に相談すべきか?!-良いカウンセラー・悪いカウンセラーを見分けるポイント-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/43348690-20150212.html
■メンタルの救世主になりたい?!キャリアカウンセラーが教える「カウンセラーに転身する方法」(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)http://sharescafe.net/44287134-20150415.html
■「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~ (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/42556186-20141224.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43405362.html
■大学で簿記3級を教える事は正しい。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/41604444-20141029.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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