こども
子供をめぐる虐待事件が後を絶たない。先日は子供をペット用のカゴに監禁したうえ十分な食事を与えず死亡させた疑いで、その両親が逮捕された。幼児虐待の背景は様々あり、一様に断定できるものではないが、遠因の一つには親の育児疲れ、産後うつ等があると思われる。

■子育てには「休み」がない!
子育て経験のある方はご承知のとおり、子育てには「休み」がない。特に子供が生まれたばかりは、母親の体調が安定しない中、昼夜を問わず授乳(思いのほか体力を消耗する。乳腺炎になろうものなら39度前後の高熱が出る)・抱っこ(思いのほか腰にくる)・寝かしつけ(なかなか寝ないうえに、布団におろすと起きてしまう)に忙殺されることになる。一生懸命にとりくむ人ほど、慢性的な睡眠不足に陥ることになるだろう。特に母親の場合は、産後のホルモンバランスの乱れもあり、簡単に心が折れてしまう状況となりえる。

では、男性はどうか。結論から言えば、パパでも「産後うつ」になる。ならない方法はただ一つ。「育児に関わらないこと」である(苦笑)が、昨今の「イクメン」ブームや、パパ側の意識の高まりもあり、育児に関わらないというスタンスをとる方が難しいのかもしれない。しかしながら、特に出産直後にパパにできることは極めて限定的である、というのが筆者の実感である。

■パパのやれることは限られている
たとえば、授乳である。近年子育てにおいては「完全母乳」が強く推奨されている。産院では、助産師がマンツーマンで手取り足取り指導をしてくれる。「完全母乳で育てば病気にもかかりにくい」と聞けば、我が子に母乳ではなくあえてミルクを飲ませるのは抵抗があるもの。かくしてママは昼夜を問わず授乳することとなり、物理的に母乳を出せないパパは出る幕がない(あらかじめ搾乳した母乳を冷凍しておき、哺乳瓶で与える方法もあるが、哺乳瓶の方が飲みやすく、おっぱいから母乳を飲む意欲を削ぐと言われているので、母乳育児の観点からお勧めできないらしい)。

抱っこ・寝かしつけにおいても、赤ちゃんにもよるのかもしれないが、ママでないと泣き止まない・寝ないことがままあり、自信喪失してしまうことになる(ちなみにちょっと成長してくると「ママがいい~、パパあっち行って」等と言葉で表現するようにもなり更に凹むことになる)。

それらに加え、産後疲弊している妻からの容赦のないダメだしの数々。出産前は許容されていた雑な食器洗いや掃除、何気のない言動にいたるまで、ホルモンバランスの乱れた妻の気に障るらしい。良かれと思ってやったことが否定され、動けば怒られ止まれば怒られる、というあたかもADになったかのような状況に陥ることももしばしばである。汚れの落ちていない茶碗を片手に、「これが噂の産後クライシスか・・・」と意気消沈した経験をお持ちの諸兄も多くいらっしゃるのではないか。

こんな状況下において、職場の理解が得られない場合は、要注意である。子育てについて相談するムードではない、早く帰ろうとするといい顔をされない(業務の効率化を意識しているのに!)、育児支援制度を利用したことにより、人事評価上で不当な評価を受けてしまう・・・。長時間労働や転居を伴う人事異動等、まだまだ企業側は「無制限な働き方」を求めるきらいがあり、イクメンに対する風当たりは強いもの。「俺は家でも職場でもこんなに頑張っているのに、誰も認めてくれないのか」と思えば、容易にうつ状態になってしまうことは想像に難くない。

■心身ともに健康なイクメンであるために
「ママ友」という言葉はあっても、「パパ友」というのはなかなか耳にしない。男性が人前で感情を露わにするのを良しとしない我が国の文化が関係しているのであろう。だが、こと育児に関しては愚痴らずにはやってられないものである。子育てしている同僚でもいいし、子供の保育園・幼稚園のパパ達でもいい、同じ状況下の同志と悩みを共有することが大切だ。イクメンを支援しているNPOもあるようなので、利用してみるのも良いだろう。

筆者は子供の健康診断には欠かさず出席している。そこでは子供の発育相談の後に、必ずママの相談の時間がある。育児における悩みや産後の体調面のチェックなど、結構な時間を割いて話を聞いてくれる。しかしながら、パパの悩みや体調の相談の時間は全くない。「育児の主体はママ」という世間の意識を感じる瞬間でもある(無論、現状はそれが大勢であることは否めないし、産後のママは心身ともに継続的なケアが必要ではあることは承知しているのだが)。しかしながら、冒頭述べた児童虐待の加害者がしばしば両親であることを鑑みれば、行政としても育児に携わるパパの心身の健康度チェックを行う必要があるのではないだろうか、と思う。

イクメンであろう、育児に積極的に携わろう、と思えば思うほど、パパが産後うつになる危険度は高まっていく。繰り返しになるが、大切なのは仲間を持つこと、感情を上手に吐露することである。子供の誕生直後は自分一人の時間はないかもしれない。ただ、たかだか2年余りの経験則であるが、子供の成長に従ってできることも増えてくるものである。生後半年も過ぎれば近場の温泉旅行やファミレスでの外食くらいはできるようになる。軽々しく「楽しんで育児を」とは言うつもりはないが、パパもママも、心身の健康を保ちながら、助け合って育児に励みたいものである。

【参考記事】
■メンタルが限界だと思ったら誰に相談すべきか?!-良いカウンセラー・悪いカウンセラーを見分けるポイント-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/43348690-20150212.html
■メンタルの救世主になりたい?!キャリアカウンセラーが教える「カウンセラーに転身する方法」(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)http://sharescafe.net/44287134-20150415.html
■「うつ」は「うつる」のか-職場でメンタル不調者が発生したときに考えるべきこと-(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44493262-20150428.html
■たかまつななさんの東大大学院合格に感銘を受けながら、社会人が大学院に入学することのメリットを考えてみた(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44721837-20150513.html
■保育園の懇談会で感じた、男女別「話の聴き方」のススメ(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44906053-20150526.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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