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ライフネット生命は開業7周年を迎えました。それを記念して、5月26日に記念イベントを開催。ニューズピックス取締役の佐々木紀彦さんをモデレーターに迎え、「新しい時代の働き方におけるリスクとチャンス」について語り合っていただきました。

独立や起業、ベンチャーへの就職など、働き方はどんどん多様化しています。しかし、女性のリーダーがまだまだ不足していたり、子育てと仕事の両立が難しかったりと、解決すべき問題は山積しています。

そんななかで、これからの働き方はどう変わっていくのか。出口治明(代表取締役会長兼CEO)、岩瀬大輔(代表取締役社長兼COO)、中田華寿子(常務取締役)の「3者3様」なライフネット生命の経営陣に、佐々木さんが疑問をぶつけます。


■働く人にとって良い時代、悪い時代?
佐々木:今日は開業から7年が経ったみなさんに、これからの新しい働き方についてうかがっていきます。まずは世の中全体について、マクロな視点からいかがでしょうか。

出口:少なくともデータを見る限り、若い人にとって、こんなに良い時代はないと思っています。僕は1948年という、団塊の世代の真ん中に生まれましたが、同世代で現役の人が2百数十万人いるんですね。それがこれから退場していく。

反対に新しく入って来る世代は半分くらいしかいません。だから需要と供給の関係でいえば、若い人に新しいチャンスがどんどん回ってくるはずです。働く人にとって、非常に良い時代がやってくるんです。

岩瀬:その点について補足すると、僕は1976年生まれですけど、同世代の人やもっと若い人と、出口の世代で違うのは、昔は多くの方が企業に就職していたんですよね。でも今は選択肢がすごく多い。ベンチャー、NPO、海外……と、やりたいと思ったことが実現できる環境が整っている。

それは自由で素晴らしいことではあるんですが、自由には責任が伴います。そしてリスクもある。前向きでやる気のある人にはチャンスな時代ではあるけど、多様な選択肢のなか、どれを選び取っていくのか、あらゆる人が考えなければならない時代なんですよね。でも、僕はそれをポジティブに「チャンスだ」と捉えていいと思っています。

佐々木:出口さんも岩瀬さんも、リスクをすごくポジティブに見てますよね。中田さんは女性という立場から、新しい働き方をどう考えますか。

中田:女性は結婚や出産といった人生の節目で、「自分の生き方はこのままで良いのか」と見直す機会があるんです。働き方が多様化すれば、そのときの選択肢が増えますよね。会社に残ってもいいし、クラウドソーシングみたいな仕組みを活用してもいい。だから私もふたりと同じで、女性にとってもワクワクするような時代になってきていると感じています。

佐々木:変わりつつあると思う一方で、未だに男性は「家事を女性に押し付ける」傾向があるともいわれています。先日も20代の子から、そういう話を聞きました。

中田:ただ、男性も価値観が多様化しているので、自分に合ったパートーナーを見つけたり、託児所のある会社を選んだりすることもできますよね。重要なのは選択ができることです。諸外国に比べたら、もちろんまだまだですけど、選択肢が増えているのは間違いないです。

岩瀬:イクメンという言葉が定着してから、同世代の男性の意識はやっぱり変わりましたよ。

出口:ある若い経営者の方と話していたら、「昨日作った晩御飯を奥さんにすごく褒められたんです」と嬉しそうにおっしゃったんですね。僕が会社に入った頃は、「そんな暇があるなら仕事せんかい」と周りから言われそうな空気があって、とても言えなかったですよ。その頃からは確実に変わってきています。

ただ、世界標準から見ると、男女の平等指数は142か国中の104位(世界経済フォーラムの2014年版「ジェンダー・ギャップ指数」より)という状況ですから、これからもっと改善していかなきゃならない。


■大企業が世の中の変化に追いつけない理由
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佐々木:最近はベンチャー企業を中心に、これまでの常識にとらわれない新しい働き方が広まっていると感じます。しかし、どうしても大企業はまだ変化していない、変化に対応しきれないように見えるのですが、その点はいかがでしょう?

出口:まさに僕は大手の生命保険会社出身ですが、まだやっぱり、変化がゆっくりという気がします。歴史を見れば、社会の中枢を担っている組織ほど変化しにくいんですね。それも当然で、中央にいるということは、それだけ大きな柱を担っているということですから、存在する意義も大きいんです。

やはり変化は、常に辺境から訪れると思いますね。それが少しずつ、中枢にまで広がっていくと。

佐々木:働き方が変わるためにはロールモデルが必要だと思います。そういう意味では、ライフネット生命のようなベンチャーが辺境として新しい働き方の仕組みを作って、ロールモデルになることが大切ですよね。

中田:私は大企業で働いたことはないんですが、バブル時代に大学生だったので、同期の女性のほとんどが大企業に就職したんですよ。でも、残念ながら現在、まったく会社に残っていない。それはやっぱりロールモデルがいなかったからで、目指すべきものがはっきりしていけば、そこに追従していく人も増えると思います。


■ライフネットは新しい働き方のロールモデルになれるか
佐々木:例えば育児と仕事の両立に関して、ライフネット生命ではどんな取り組みをされていますか?

岩瀬:それについてすごく思うのは、制度よりも運用が重要なんですよね。うちは男性社員が「子どもが熱を出して」とか「子どもが運動会で」と言って帰ったり休んだりするんですよ。一度、「奥さんは?」と聞いてみたこともあるんですが、「妻の会社は帰りづらいので、僕が帰ります」。僕はこれをとても良いことだと思っているんです。

ほかの会社で働いている人に聞いてみると、「制度はあっても帰りづらい」という話がほとんどです。でもライフネット生命では、「あとはやっておくから、早く帰りな」と言うのが普通になっています。上司にあたる人も子育てをしているので、気持ちがわかるんです。

そう考えると、育児休暇の制度があるかどうかよりも、会社の風土や制度の運用のほうが、子育てフレンドリーな会社には大切じゃないかなと感じています。年に一度、ファミリーDAYというイベントを設けていますね。家族を連れて半日会社で過ごすのですが、そんな風に家族ぐるみでサポートしてもらえるような仕組みを作ることが、これからの企業には欠かせないのではないでしょうか。

佐々木:大企業も育児休暇などの制度はありますけど、ほとんどの場合は制度倒れになっているのが実情ですね。

出口:制度よりも意識を変えるのが難しいんですよ。士業ってありますよね。弁護士とか税理士といった職業です。若い世代の士業の方々の勉強会があって、勉強会の主催者から「この人は一児のお母さんで、育児も仕事も頑張っているんですよ」と、すごく元気な女性の方を紹介されたんです。

それで話していたら、彼女が「女性ばかりが『一児の母』と呼ばれるのはおかしい。男性の方も『一児の父』と紹介されるようにならないとダメですよね」と言ったんです。僕はそれを聞いて、ああ、その通りだなと。そんなことにも気がつかないくらい、意識はなかなか変わっていかない。

佐々木:なかなか変われない組織を変えていくためには、何が必要でしょうか。

出口:ある県庁で知事が育児休暇をとったんです。そうしたら、職員が「あ、本当にとっていいんだ」と一斉にとり始めたなんて話もあります。制度倒れにしないためには、リーダーが自らロールモデルになることは大切ですよね。

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佐々木:中田さんから見て、ロールモデルとしての出口さん、岩瀬さんはいかがですか?

中田:ふたりは見てのとおり自然体なので(笑)、こうあるべきというのはあまり聞いたことはないですね。でも、社内では女性社員も育休をとって、出産後に戻ってくるケースがすごく多いんです。

しかも、彼女たちは17時、18時には子どもを保育園や学校に迎えに行かないといけないから、ものすごく効率良く業務をこなします。私も舌を巻くことが多くて、子どもがいない社員も、そこから学ぶべきことはあるし、彼女たちがいることで、社内に良い影響が出ていると思いますね。


<プロフィール>
佐々木紀彦(ささき・のりひこ)
ニューズピックス取締役・編集長。1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月でビジネス誌系サイトNo.1に導く。2014年7月より現職。NewsPicks編集長業務と合わせて、ビジネスモデルの開発などに取り組む。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』がある



【参考記事】
■子育ては頼っていい。1時間500円~で子育てを支援する仕組みとは | ライフネットジャーナル オンライン
http://media.lifenet-seimei.co.jp/2015/04/21/3119/
■「自分の価値観を主張できる大人」に育てるための文章力向上メソッド | ライフネットジャーナル オンライン
http://media.lifenet-seimei.co.jp/2015/05/08/3325/
■「残業代ゼロ法案」は正しい。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/44298878-20150416.html
■新しい働き方で、企業と個人双方がつけなくてはいけない力。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45172807-20150614.html
■保育園の懇談会で感じた、男女別「話の聴き方」のススメ(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/44906053-20150526.html


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