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確定申告時になると、国税庁のホームページに「確定申告特集」というコーナーがトップの画面に現れます。その帯をクリックすると順序にしたがって自分の給料や支払った保険料などを画面に入力すれば、比較的簡単に確定申告書が出来上がるという仕組みになっています。このページをご覧になった方も実際に使って申告書を仕上げたことがある方もいるのではないでしょうか?

■着実に定着しつつある電子申告
電子申告は確定申告や手続きなどをインターネットを経由して行なうことのできるシステムで、平成16年2月に、名古屋の納税者を対象に始まりました。運用が本格的に開始されてから今年で11年目になります。市役所や無料の相談会場で確定申告をお手伝いする際には、このページを利用して確定申告を行っています。しかし今年の確定申告時には、いろいろな無料相談の申告会場に出向いたときにいつも「電子申告をすすめる」ことをせず、印刷によって申告書を提出する方法で処理することに変わっていました。

これだけ言うと、電子申告という行為に国税庁(税務署)が限界を感じて納税者のやりやすい方法を選択してもよいという妥協点に陥ったのかとも思えます。電子申告が開始された直後は、このシステムを世の中に浸透すべく、税務署の職員が税理士に電話を1件1件かけて「電子申告に協力して欲しい」と勧誘電話をし、中にはわざわざ訪問にきた税理士事務所もあったようです。税理士事務所は申告書をたくさん扱うので実績を容易に引き上げることにもつながると考えてのことでしょう。

■以前は利用拡大を狙った特典もあった
また一方、電子申告を普及しようと国税庁側も平成19年度の確定申告から22年度までは3月の15日までに確定申告をすると税金を5千円差し引くことができる(1回限り)という特典を作って電子申告の普及を促進してきました。イータックスの開発費用は約500億円、年間維持費は約90億とされており、そのコストを回収するために税務署も上からの命令や目標を達成すべく、必死だったのではないでしょうか。

その甲斐あってか国税庁の調査結果によると、平成22年度では44.1%が確定申告に電子申告を利用し、平成23年には前年比3.2%増、平成24年には3.1%,と順調に伸びていましたが、平成25年度には1.4%と伸びが鈍化しており、利用者も増えにくい状況になってきたのは確かなようです。

「e-Taxならこんないいこと」とメリットを国税庁のホームページには前面に出して宣伝する反面、申告をする納税者側からは、電子証明書搭載の住民基本台帳カード(住基カード)とこれを読み取るICカードリーダーなどを必要とし、費用とパソコン上のトラブル発生の多さなどが問題視されてきました。

いいことばかりを掲載している国税庁のページと、デメリットを主張する利用者との間に、かなりの温度差を感じる状況でした。やはりこれ以上の拡大は難しく、国民にメリットがない税務申告が普及せず、途中で頓挫したのかと思ったのですが、先日税務署に仕事で出向いたときにこのようなチラシを頂きました。

“平成29年度1月からe-Tax(イータックス)での申告がさらに便利に!!”
~「電子証明」と「ICカードライタ」を使用せず、ご自宅でe-Taxをご利用いただけます。~

■マイナンバー制度に合わせ、電子申告の方法も変化する?
平成29年1月には、国民一人一人に番号を付与し、社会保険や税金分野を中心に効率的に管理していこうとするマイナンバー制度が施行されます。これに合わせて、税金の申告も今までの住基カードを使用する代わりに個人のマイナンバーで電子申告をする方法に移行しようとしています。

住基カードはもう必要なくなりそうです。自治体でも今年度を以って住基カードの発行をしなくなります。そして、カードを読み込ませるという従来の方法とは別に電子申告をするようになります。

今までのように「電子申告は便利です。是非、電子申告しましょう。」などと新規の申告者を増加させても、間もなくそのカードが無駄となってしまいます。ですから税務署は、今までのように電子申告をすすめることをせず、今は現状維持に徹して移行するタイミングを待っているのです。

税務署ではマイナンバーが施行されるまで、「平成28年12月までは自宅で作成し郵送でご提出!」と印刷による提出に方向転換しています。来年(平成27年度)の申告時に住基カードの電子証明の有効期限が切れてしまう人は、延長せず書面で提出したほうがよさそうです。

もちろん今までの方法でも電子申告ができますが、電子証明の有効期限までとなり、マイナンバーを使った確定申告に自動的に吸収されるのは時間の問題です。「カードリーダーまで買わせておいて、今までのやり方は何だったのか」との批判も出てくるのではないでしょうか。

また、マイナンバー制度になれば、電子申告はもっと浸透するのかということにもなりますが、これまでより電子申告とどのくらい簡単にできるか、今まであった問題点を克服し電子申告はハードルが高いものというイメージをどのくらい払拭できるかが課題になってくるでしょう。そもそも以前から電子申告を行っていた人も新しい方法を覚える必要もあります。

■よりよい社会のナンバー制度となるために
来年から始まるマイナンバー制度。税理士も税金を扱ううえで非常に重要になってくる番号制度のため、勉強会も多く開催されています。しかし、私の周りでこの言葉を頻繁に発しているのはお役所と税理士だけのような気がしてなりません。今の時点ではまだまだ浸透していないように思えますが、施行まであと半年と着実に近づいています。マイナンバー制度の確立に関して、情報漏えいなどの国民の「不安」を解消して、利用面といった使い勝手の「不満」がないようなシステムになることを願っています。

【参考文献】
■終活もいいけれど・・・残された家族のためにも是非してほしいこと (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/44880501-20150524.html
■扶養親族15人。税金を取り戻す手段であるけど、これって節税対策?(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/44076796-20150401.html
■大人の租税教育のすゝめ (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/43139979-20150130.html
■高齢者はお金持ち?詐欺集団だけでない、その資産に目をつけているのは、、(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/43017490-20150122.html
■進む医療、広がる医療費控除~確定申告医療費の行方 (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/42332324-20141212.html

浅野千晴 税理士

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