えすこる38-2

先日発売された雑誌AERA7月13日号に、「日本から課長が消える?」という見出しが躍っています。これはAERAと、経済情報に特化したニュースアプリNEWSPICKSとの共同企画です。記事を読むと、課長の生き方、企業の事例、役割、働き方、給与、学習・・・と多岐にわたって課長のリアルが記載されています。その中でも私がとりわけ気になったのが、課長の給与の決まり方が変わる、というところです。

■役割給へ
同特集では、ソニーやPanasonicで人事・給与制度が大きく変わったことにも触れ、こうした流れの中で、給与の決め方を「役割給」に変更する流れができていると説明しています。能力や実力、実績で払っていた従来の決め方から、「それぞれのポジションに値段がつき、そのポジションにふさわしい人を探す、社内にいなければ外から探して連れてくる」という方向性に移動しつつあるとのこと。それぞれのポジションに必要とされる能力、責任の大きさ等に応じて、市場の需給に応じて給与水準を決めることとなります。

■成長なくして昇格(昇給)なし
その結果、何が起こるのでしょうか?一言でいえば、「社内価値」ではなく、「市場価値」を高めることが必要となる、ということだと思います。それぞれのポジションに求められる技量を持った人が内部・外部から登用されるということは、その会社における経験・人脈・実績の評価ではなく、そのポジションに必要とされる能力は備わっているかどうかで判断されることを意味するからです。

もちろん、各社ごとで求められる固有の仕事のやり方や社内人脈というものは引き続き重要です。人事担当者としても、出来れば社内の人を登用したいと思っています。しかし、それよりも、そのポジションに必要な能力の有無が大事ということです。新規事業の立ち上げや、ネット対応、海外進出等、いままでの業務の知見だけでは太刀打ちできない業務から徐々に、しかし着実にそういった人材登用が進むことになります。

これが意味するところはとてもシンプルです。会社に付加価値をもたらした人、もっと言えば、会社に明日付加価値をもたらす人だけが昇進できるということです。

■会社からではなく、顧客からのお金が会社を通じて再分配されている
シンプルな、というのは、「そもそもの企業のありかたに対して」ということです。企業は、当たり前に存続しているのではありません。モノ・サービスを提供し、その対価としてお客様からおカネを頂きます。計上した売上をキャッシュできちんと回収し、そこから人件費や仕入代金等必要なコストを支払っていくのです。その結果として利益が残れば、初めて翌年の事業にお金を投入することができます。当たり前の話ですが従業員の給与は、どこからか湧いて出てくるわけではなく、顧客から入ってきたお金がその源泉です。

顧客から対価としての売上をもらう、そのためにはどういうサービスを提供していったらいいのか、市場を見ながらそうしたアイデアを考え続けることができる、自分の頭で考えて工夫できる人が成長する、ということになるのです。誰が「顧客」なのか、というのは経営における最大の課題ですが、顧客、そして彼らが求めるものは変わり続けます。競争も存在します。つまり、より多くの給与が欲しければ、競争に打ち勝って、「顧客」から対価を頂けるだけの価値を企業に与えなければならない、ということです。

■組織に入っても勉強、成長し続けることが当たり前に求められる
今までの日本ではいい大学を出ていい企業に入ってしまえばあとは安泰、という考えがありました。もちろん、実際には終身雇用であっても社内での競争はありましたが、全体としては年功序列もベースアップも期待できました。しかし、これは企業の「成長」が大前提となっています。社員全員の給与を上げ続け、昇格したポジションを提供し続けるためには成長するほかないからです。

現在、日本市場が安定的に成長する時代はとっくに終わり、日本の製品を輸出して稼げる時代も終わりました。今後は、常に変化する「顧客」へ提供する価値の質を変えていかなければいけません。そのため、その動きにあわせて新しい価値を提供するような人は、今後ますます貴重になり、むしろ給与は今よりも上がるでしょう。会社としてはそのような人を他社へ引き抜かれては困るので、市場水準を意識した給与を支払い、なんとか引き留めようとします。一方、それが出来ない人には、その業務の市場価値水準の給与までしか支払わないということになるのです。

所属で食べられる時代は終わりました。自分が仕事で何をするか、どうするか、について、人生で仕事をする50年近くの間、考えていかなくてはならない局面に入ります。会社に価値を提供出来る人の給与だけが上昇するという時代に入るのです。それが出来ない人は、国際化・情報処理技術の向上によりますます競争力を増している代替ソリューション(外国人労働者、人口知能等)との終わりなき価格競争を強いられることとなります。

小紫恵美子 OfficeCOM代表 中小企業診断士

《参考記事》
■新しい働き方で、企業と個人双方がつけなくてはいけない力。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45172807-20150614.html
■2015年は長時間労働崩壊元年に (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42734491-20150104.html
■新人配属の季節。この機会に先輩社員も○○をリニューアルしよう (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44247703-20150413.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206

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