将来受けとる年金額を増やすための有効策として確定拠出年金(DC:Defined Contribution)が注目されています。

確定拠出年金は、企業年金や日本版401Kとも呼ばれ会社員のための制度というイメージが強いのですが、2017年から加入対象者が拡大され、公務員や会社員の配偶者も加入できるようになるからです。しかし知名度はまだ低く、会社を退職後に適切な移管処置がされていないという問題があります。

■魅力は税制の優遇措置
確定拠出年金とは、年金制度において1階部分の基礎年金、2階部分の厚生年金にプラスされる3階部分に該当するものです。勤務先の会社が掛け金を出してくれる企業型と個人が掛け金を出す個人型の2種類に分けられます。確定拠出年金を導入していない会社に勤務している会社員や自営業者は、個人型に加入できます。いずれも投資信託、預貯金、保険商品などの金融商品のなかから、自分で商品を選んで運用します。この点が基礎年金や厚生年金と異なります。大きな利益を出せる反面、元本を割ってしまう商品もあります。

確定拠出年金のメリットは、積立金を持ち運びできることと税制上の優遇措置制度です。会社を退職した場合、転職先の会社の確定拠出年金へ移管できます。導入していない会社に転職した場合や独立開業した際には、積立金を個人型の確定拠出年金に移管して運用を続けられます。このしくみをポータビリティと呼んでいます。

一方、優遇措置は3つあります。1つめは運用結果として増えたお金に関する税金がかからないことです。投資信託や株式投資では、配当や売却利益に対して約20%が課税されます(NISA口座は100万円までという制限があり)。2つめは、受け取るときに税金の支払いを軽減できます。一時金で全額受け取る場合は、退職所得控除が適用。年金として分割して受け取る場合は、雑所得としてとして扱われるため、それぞれ課税額を押さえられます。3つめは、“小規模企業共済等掛金控除”として1年間の掛け金全額をその年の所得から引くことができる点です。確定申告が必要な個人事業主にとっては、所得を少なくすることにより、所得税や住民税を減らすことができます。

■あまり知られていない個人型
確定拠出年金を導入する企業は増えています。平成27年3月の厚生労働省の調査では、20,137社に達しています。平成24年度は、14,628社であったので、3年間で40%近く伸びたことになります。これに対し個人型の参加者は、212,944名に留まっています。実際、筆者が生命保険の営業活動の中で開業医や弁護士、個人事業主の方に「確定拠出年金についてご存じですか?」と質問すると「名前は知っているが、よくわからない」と答える人が多いです。サラリーマンのための年金制度という先入観があるようです。

しかし個人事業主の人達こそ、小規模企業共済等掛金控除により税金を減らすことができるので、検討すべきかと思います。厚生年金がない個人事業主の人達は、保険会社の個人年金に加入している人も多いですが、個人年金の場合、年間4万円という所得控除の制限があります。ローリスク、ローリターンの元本保証型の商品を選んだとしても、十分、元をとれます。

■確定拠出年金制度がある会社を退職するときは要確認
確定拠出年金制度がある会社を退職したサラリーマンの移管が適切にされていない問題はより深刻です。企業型から個人型へ移管しなかった人は、国民年金基金の発表によれば2014年で43万人を超えるからです。ポータビリティを売り物にしながら、実行されていないのであれば、”羊頭狗肉”になってしまう恐れがあります。

転職後は、新たに入社する会社に確定拠出年金制度があるかを確認します。ある場合は総務の担当者に話して移管手続きを進めます。ない場合は個人型への移管手続きを半年以内に行なわなければなりません。独立、開業する場合も個人型に加入できます(法人化しても加入できる)。

未移管者が多いのは、サポート体制の弱さによるものだと考えられます。証券や保険のような他の金融商品と異なり、専任の担当者がつくことは少なく、自ら調べて手続きをしなければならないケースが大半です。

手続きをしないと国民年金基金に移管され、運用指示ができないのにも関わらず、口座管理料だけを取られることになります。退職してからの半年間は、転職活動や新しい職場に慣れることで頭が一杯で忘れてしまいがちです。

しかし転職や開業した後は、収入が減少するケースもあると思います。だからこそ、今までの資産をしっかり管理することは大切です。

【参考記事】
■誰しもが「投資家」になる時代-お任せ運用では「貯蓄」体質は抜けられない 野口俊晴
http://sharescafe.net/45242687-20150623.html
■大企業との賃金差に捕らわれない賢い生き方 野口俊晴
http://sharescafe.net/44765721-20150516.html
■年金が減る!「これからはもらい方を選ぶ時代だ」野口俊晴
http://sharescafe.net/43177516-20150202.html
■目先の損得にとらわれない これからの年金、早くもらう方法と多くもらう方法 野口俊晴
http://sharescafe.net/41566040-20141026.html 
■こんな時代にあなたの給与を引き上げる方法 小紫恵美子 
http://sharescafe.net/45528358-20150712.html
 
FP・社会保険労務士 佐藤敦規

この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加


シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。