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最近、LGBTなど性的少数派に向けた企業の動きが活発です。KDDI(au)は、同性カップルを結婚に相当する関係と認める地方自治体の公的証明書があれば、今年の10月以降には携帯電話の家族割引制度を利用できるようにすると発表しました(7月20日日経新聞)。NTTドコモも続いて同様のサービスを適用すると発表しました。通信会社以外にも、任天堂が6月に発売したゲームの最新版で、同性婚を可能にするという動きもありました。

企業が性的少数者を対象とした企業の自社サービスを拡大する傾向は、今後も広がっていくと考えられます。行政を含める社会全体が性的多様性に許容度を高める中、自社も寛容な姿勢を示さないと顧客からの支持を得ることができなくなりつつあるからです。またマイノリティにも寛容な組織であることを示すことで、その中に存在する優秀な人材を引き寄せる効果も期待できます。

企業として性的マイノリティに対し寛容さを増す一方、実際に性的マイノリティに職場で接するのは従業員個人です。では個人は、どうふるまっていけばよいのでしょうか?身の回りに性的マイノリティの存在に心当たりはありません。例外的に出会うものと考えていてよいのでしょうか?

そんな疑問を持っていたので、先日、NPO法人「虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀氏の講演があると聞き、参加してきました。村木氏はご自身がLGBTとして苦労されたご経験から、NPO法人を立ち上げられました。この講演を主催したのは、企業の女性CSR担当者の集まりである「CSR48」と日本財団です。

■性的少数派への認識を改める経験
実はこの講演に参加するまで、私は自分が性的少数派に対し、理解のある方だと自認していました。しかしこの講演に参加して、まだまだ自分の中に性的少数派に対する誤解や先入観を持っていることに気づきかされました。今回は、私が認識を改めた点を紹介しながら、性的マイノリティへの対応について考えたいと思います。

(1)意外に身近に多く存在する性的マイノリティ
「性的マイノリティの存在に心当たりがない」と書きましたが、講演で意外と身近にいる可能性に気づかされました。電通ダイバーシティ・ラボが行っている「LGBT調査2015」の結果によると、性的少数者は7.6%と算出されるとのこと。この数字は、左利きや血液型AB型と同じぐらいの割合と言われます。当事者が隠しているため周囲は気づいていないだけで、実はそう珍しい存在ではないのです。

思った以上に多くいることを知った時、自分には差別する意識がなくても、なにげなく口にした言葉で、マイノリティの人を傷つけていたかもしれないことに思い当り、どきっとしました。「おかま」「その気」といった暗に差別的意識を含んだ言葉を、あまりに無意識にこれまで使っていたからです。

企業人ということで考えると、無意識の差別的言動がセクハラとして糾弾される可能性もあります。2014年7月の男女雇用機会均等法の見直しで、同性同士でもセクハラ認定される指針が出されました。たとえば「その年で結婚しないなんてソッチの気があるのでは」といった発言を同性の上司が部下にいう冗談もセクハラとみなされる可能性があります。今一度、自分の無意識の言動が、誰かを傷つけていないか、振り返らなければならないと感じました。

(2)性の在り方は多様
「性的マイノリティ」というと、いわゆる「男性」「女性」とは異なる特別な人とひとくくりに区別しがちです。しかし実は「性的少数者」と一言で言ってもその在り方は一様ではないとのこと。

性の在り方は「身体の性」「心の性=自分の性をどう認識するか」「性的指向=好きになる相手の性別」の3つの基準で整理されます。私たちはまず、身体的に性別を判断しますが、身体的には男性でも性的自認は女性だったり、服装や言動も女性だが、性的指向は女性であったり…3つの軸の在り方の組み合わせで多様なのです。この基準で分類すると、私は「身体的には女性」で「女性として自認し」「男性という異性を好きになる」になりますが、それがたまたま多数派であるにすぎません。

よくありがちな誤解は、同性愛の人は自分の身体的性別を変えたいと思っていると考えることです。たとえば、からだは女性で、性的自認も女性であっても、性的指向が女性ということもあり、その場合は必ずしも身体を男性に変えたいと思うわけではなく、女性のままでいることを選ぶこともありえます。女性を好きになるから、自分の体を男性に変えたいというのは、異性愛を前提とする先入観にもとづいた考えなのです。

(3)性的マイノリティの指向は「治療すべきもの」?
私はどこかで、性的マイノリティの指向は「できれば避けた方がよいもの」という先入観がありました。たとえば同性愛指向は、周囲の人間関係への過度のストレス等から後天的に生じる歪みのようなものであり、「正常」ではないと思っていたのです。しかしそれは誤りであることがわかりました。

最近の研究では、性的指向は先天的に発生するものであることが定説になりつつあるのだそうです。(ジェンダー平等の観点から同性愛を意識的に志向する人はいますが例外です)
また性的少数派の指向は治療すべきもの、異常という認識は前世紀まではよく見られたものの、最近の研究では否定されています。「治療」の効果は低く、むしろその圧力がメンタル面で及ぼす悪影響が大きいとして、世界保健機関(WHO)では、1993年に「同性愛はいかなる意味でも治療の対象にならない」と宣言しています。

しかし、残念ながら現状では、同性愛者やトランスジェンダーへの偏見はまだまだ強いため、その対応によるストレスにより精神面での問題を抱えやすい傾向があるそうです。イギリスでの調査になりますが、国営医療サービス事業であるNHSより、同性愛指向の人たちは、そうでない人たちに比べ不安や鬱の傾向が強く、自殺念慮も高い傾向があるという調査も発表されています(NHS choices: Mental health issues if you’re gay(2014/03/31))。

■一歩を踏み出すために
村木代表のお話を聞いているうちに、性的マイノリティの置かれた状況が他人事ではない話に思えてきました。私自身も「少数派」として傷ついたり、他人が抱いている先入観と戦ったりした体験を思い出したからです。

子供の頃に大阪から千葉に引っ越した際、関西弁のイントネーションが残っていてからかわれたこと。
就活の時に総合職を目指していたら同級生たちに「変わっているね。女性は一般職のほうがいいんじゃない」と言われたこと。
支店内で唯一の女性係長になった際、「結婚しても料理なんて作らないんだろ」と揶揄されたこと…

こうした経験をしたとき、少数派として心細いために強く反論することができず悔しい思いをしました。何より、相手の先入観によって、ありのままの自分を受け入れてもらえないことが悲しかったことを覚えています。

自分が少数派となった時の経験は、どんな人にも多少はあると思います。その時に自分が感じた心細さや悔しさ、そして自分をあるがままに認めてほしいと思った感情は、性的マイノリティの人たちも日頃から感じていることが想像されます。そのことに思い当った時、私はやっと性的マイノリティの人との距離を縮めることができたように思います。まずは「マイノリティ」としての自分に向き合うことが、性的マイノリティの人たちを理解する第一歩であるのではないでしょうか。

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【参考記事】
■LGBTのカップルが「結婚」に近づくための3つの方法
http://sharescafe.net/42206277-20141203.html
■育休ママがMBAを学ぶ上で注意すべきこと
http://sharescafe.net/45201771-20150617.html
■40代から見つける自分らしい働き方(2)~エンジニアから「木こり」へ~
http://sharescafe.net/45318382-20150627.html
■40代から見つける自分らしい働き方(1)前編~大手教育機関広報室長からスタートアップベンチャーへ
http://sharescafe.net/44250159-20150413.html
■40代から見つける自分らしい働き方(1)後編~転職先での成功の秘訣
http://sharescafe.net/44625300-20150508.html

朝生容子 キャリアコンサルタント/産業カウンセラー 

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