■「女性管理職比率」の国際比較 女性の活躍を推進するため、企業・団体に対し女性管理職の割合などの数値目標を設定・公表することを義務づける通称「女性活躍推進法案」が衆議院で可決され、8月現在、参議院本会議での審議に入っています。 この法案には、国や地方自治体に加え、従業員が300人を超える企業・団体に対し、女性管理職の割合や女性の採用比率といった数値目標を自主的に設定し、公表することを義務づけるほか、従業員が300人以下の企業・団体には、女性の活躍の推進に向けて数値目標などを盛り込んだ行動計画の策定を求める内容が含まれています。 政府は、2020年までに女性管理職比率を30%にまで引き上げることを公約として掲げていますが、この背景には、以下のグラフが示す通り、日本における女性管理職の比率が世界各国と比較して極端に低いという実情があります。 上のグラフが示す通り、日本の女性管理職の比率は約11%であり、米国の1/4、英国の1/3程度の水準に留まっており、現状においては、「日本企業は、女性を管理職に登用することに無関心である。」といわれても仕方のないレベルにある、といえそうです。 ■女性管理職比率が低い理由 政府も、保育所の増設やワークライフバランスの推進など、女性が働きやすい環境の整備に取り組んでおり、少しずつですが効果は現れてきています。また、大手企業にも女性管理職比率の数値目標の設定を求め、女性を積極的に管理職に登用することを求めています。 しかしながら、現在政府が進めているワークライフバランスの推進や、各企業に女性管理職の数値目標を設定させるなどの施策だけで、2020年に女性管理職比率30%が達成できるのかと問われるとしたら、かなり難しいだろうと答えざるをえません。それには、いくつかの理由があります。 民間の複数の調査を見ると、管理職への昇進を希望しない女性の割合は65%を超える水準に上っています。その理由として、「責任が重くなる」「仕事量が増える」「時間がなくなる」といった回答が、上位を占めています。 また企業側の調査をみると、女性管理職が増えない理由として、「管理職に必要とされる知識やスキルを有する女性が少ない」、「管理職への昇格を望む女性が少ない」「在職年数等を満たしている女性が少ない」といった状況を挙げる企業が多いようです。 従来、日本で女性管理職を増やすために検討されてきた施策は、ハーズバーグの二要因理論に当てはめた場合、「衛生要因」の改善に属するものが主となっており、女性自身の管理職昇格への意欲を向上させるための施策や、企業が女性を積極的に管理職に登用したいと思わせるための「動機づけ要因」に属する施策については具体策が乏しく、主に企業や個人に計画を策定させる形となっています。 よって、保育所の増設などの「衛生要因」を改善する施策を講じるだけでは、多くの女性が管理職を目指すためのインセンティブとしては弱いと考えられます。 保育所の増設を推進することやワークライフバランスを推進することは、極めて重要ですが、短期間で女性管理職を急増させるという点においては、これらの施策に併せて、各種調査で挙げられた項目の問題解決につながる施策についても、検討する必要がありそうです。 ■女性のマネジメント能力向上を目的とした教育環境の提供 筆者は、管理職候補者を対象とした企業研修やセミナーで指導する機会があるのですが、事前のアンケートに、「私でついていけるかどうか心配です。」といった趣旨のコメントをされる女性参加者が、毎回数名ほどおられます。 しかし実際に研修やセミナーに参加すると、ついていけないどころか、グループ演習などの際にリーダーシップを発揮する女性が多いことも事実です。筆者は、女性には真面目な人が多く、男性以上に研修やセミナーに真剣に取り組む傾向が見られるため、研修やセミナー等における知識の吸収が早いことが、その理由のひとつだと考えています。 また管理職への昇格を望まない理由として、「責任が重くなる」と回答している女性が多いのですが、これは「現時点で、自分自身のマネジメント能力に自信が持てないので、管理職に期待される役割を果たすことができず、周りに迷惑をかけることが心配だ。」と思い込んでしまっている女性が多いからではないか、と感じています。 そこで企業や団体が、管理職が務まる能力を持ち合わせていながらも、「責任が重くなるから管理職になりたくない。」などと考えている女性に、「マネジメントに関する知識やスキルを習得できる教育環境」を提供した場合、マネジメントに関する知識やスキルが向上するにつれて不安が薄れ、「私でも管理職が務まりそうだ。」という自信をもつ人が、確実に増えるはずです。 併せて女性管理職比率が低い理由として「管理職に必要とされる知識・スキルをもつ女性が少ない。」と回答している企業が多いことから、女性社員に管理職として求められるマネジメントに関する知識やスキルを習得できる場を提供する施策は、「女性管理職に必要とされる知識・スキルをもつ女性の絶対数の増加」が実現するため、企業にとっても望ましい状況が生まれるものと予想されます。 ■外部教育機関に派遣する女性社員数にも「数値目標」を 女性の管理職比率を引き上げるためには、マネジメント知識をもつ「女性の管理職候補者」」の絶対数を増やさないとなりません。管理職候補者を育成するための教育機関としては、まずビジネススクールの存在が挙げられます。 日本では、経営大学院などMBA系のビジネススクールに在籍している学生の女性比率は、各校の比率を平均すると、凡そ25%~30%に留まっています。一方、米国の代表的なビジネススクールであるハーバード・ビジネススクールに在籍している学生の女性比率は、約40%といわれています。 米国の他のビジネススクールにおいても、ほぼ同じ比率になっているようです。 日米のビジネススクールに在籍している学生の女性比率の差と、女性管理職比率の差に相関があることは証明できませんが、ビジネススクールの学生の多くがキャリア志向であることを考えると、全く相関がないとはいえないだろう、と想定されます。よって、ビジネススクールなどの「管理職養成機関」で学ぶ女性が増えることは、管理職への昇格を希望する女性が増える効果が期待できますので、女性管理職比率の向上に繋がる可能性が高いと考えられます。 一方で日本のビジネススクールで女性比率が25%~30%程度に留まっているのは、日本の場合「企業派遣」が占める割合が大きく、企業がビジネススクールに派遣する社員を選定する段階で、男性比率が高くなってしまっていることが要因のひとつだろう、と想像できます。 そこで、ビジネススクール等の「管理職育成機関」に派遣する女性社員比率を、米国並みの水準に引き上げようとする企業に、国が積極的な支援を行うことで、日本にも女性管理職が生まれやすい土壌が形成されていくだとうと思います。 また男性と異なり、女性の場合は社内に管理職として目指す「ロールモデル」がいないケースが多いことも、女性管理職比率が低い理由のひとつとして挙げられています。その解決策として、女性管理職候補者に、ビジネススクールなどの教育機関への派遣を通じて社外で人脈を形成できる環境を提供することは、有益な施策になるだろうと考えられます。 筆者は、女性管理職比率の数値目標を設定する企業には、併せてビジネススクールなど外部の教育機関に派遣する女性管理職候補者の数に、「数値目標」を自主的に設定させる施策が有効だろう、と考えています。そして、その学費の一定割合を国が補助する仕組みを導入すれば、女性管理職候補者の絶対数が増加し、その結果として、女性管理職の数も着実に増えていくはずです。 2020年までに、企業、団体における女性管理職の割合を30%にまで引き上げるためには、保育所の整備やワークライフバランスの推進に併せて、女性のマネジメント能力の向上に関しても、政府は強力な支援を行う、といったドラスティックな対策を打ち出さないと、目標の達成はまず不可能でしょう。是非政府には、マネジメントスキルに長けた女性管理職候補者の育成にも、強いリーダーシップを発揮していただきたいと思います。 【参考記事】 ■「経営革新計画」を活用した新製品・サービス等の開発 http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-12.html ■大塚家具を復活させた、久美子社長の「レジリエンス」 http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-14.html ■忘れられた戦略論~任天堂のDNA「ブルーオーシャン戦略」の行く末 http://sharescafe.net/45663893-20150723.html ■ライザップと行列ができる本屋の共通点 http://sharescafe.net/44050998-20150331.html ■KDDIがナタリーを買った理由~デジタルメディア・ビジネスデザインという24番目の利益モデルについて~ http://sharescafe.net/40893845-20140918.html 株式会社デュアルイノベーション 代表取締役 経営コンサルタント 川崎隆夫 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |